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38. 隣同士


 黒板に出席番号の書かれた座席表がある。『4月最初なので、出席番号順です』と書いてある。

 琉生が自分の席を探すと、黒板に向かって左側の、窓際から2列目の一番後ろだった。みると、想太は、琉生の席よりも2列向こうの、これまた一番後ろの席だった。席に座った想太が、琉生に『オレここ』と口パクで言って笑いかけてきた。『僕はここ』と机を指さして応えたあと、さりげなく横目で、教室を見回す。

 織田 空の姿はない。が、一番廊下側の、前から3つ目の席にカバンが置いてある。プリントで見た出席番号から見て、そこが彼女の席だ。

 彼女の席を確かめると、なんだかホッとした気持ちになって、琉生の顔に自然と笑顔が浮かぶ。


 意気地なしではないけど小心者であると自覚している琉生は、新しい環境に飛び込むとき、いつもかなり緊張する。

 人見知りでもある。仕事のときは、笑顔を見せて人懐こく振る舞い、人見知りじゃないふりをしている。でも、油断すると表情がかたくなってしまうので、気を抜けない。


 そう。今、彼はちょっと緊張している。

 穏やかな態度で振る舞うので、周りは彼が全く動じていないと思ってしまうらしい。

 ましてや、先輩たちのライブのバックについて、ドームやアリーナでステージにも立っている彼だから、教室でなんか緊張するわけないと誰もが思っている。

 でも、実は全然そうじゃないのだ。

 むしろ、学校でいるときの方が、彼は自分の居場所や立ち位置に悩んでしまうときが多かった。

 

 今は、胸の中で心臓の位置や胃の位置がはっきりとわかる。

 心臓はドキドキしてるし、胃は少し痛いような気がしているから。

 


「お。琉生。また同じクラスだな。よろしく」

 中3のとき、同じクラスで学級委員だった佐藤だ。彼はいつもの温かな笑顔だ。余裕すら見える。

「うん。よろしく」

 そう言いながら、琉生は、少し安心感が増すのを感じた。

 中学3年間の中で一番クラスになじめたのは3年のときだ。それは、学級委員の佐藤がいてくれたおかげが大きいと思っている。彼は、誰にも分け隔てなく声をかけ、相手の気持ちをほぐしていく。少し想太と似たところがある。


 

 いくつか言葉を交わしたあと佐藤が自分の席に戻ったところで、織田が教室の入り口に姿を現した。

 彼女は琉生に気づくと、小さくにこりと笑った。琉生もほほ笑みを返した。

 席に着いた彼女は、左隣の佐藤に気づき、2人は笑顔で頭を下げ合っている。


(席が……隣同士なんだ……)

 何を話しているのか。

 琉生の席までは話し声は聞こえてこないけど、2人はとても打ち解けた雰囲気で話している。

 もどかしい。なんだかもどかしい。そして……少し気になる。

 そのとき、織田が、佐藤の言葉に応えて、ニコッと笑ったのが見えた。


 次の瞬間、

 ずきん。

 琉生の胸の中で、心臓も胃も同時に存在を主張した。

 

(なんだ、これは?)

 緊張感とは、また別の感覚に、琉生は……ほんの少し、戸惑った。



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