37. 並んで
「なあなあ。何組やった?」
想太が、同じ紙を持っているのに、琉生の持っているクラス分け表をのぞきこんでくる。
「え、いや……まだ見つかってない。想太、もう見つけた?」
「まだ」
クラス数は、1学年全体で7つだ。プリントの両面に印刷されている。
2年からは、理系文系などのコース分けされたクラスになるらしいが、1年次にコース分けはない。
まず、1年次では幅広く、いろんな分野に関心を持ってほしい、という学校の方針らしい。
「あ!」
横から、琉生のプリントを一生懸命のぞきこんでいた想太が声を上げた。
「あった! 7組やで。一緒や! 琉生もオレも7組!」
「え? ほんと?」
琉生もプリントを見直す。プリントの裏面、一番右端のクラスのところに、2人の名前があった。
妹尾 想太。藤澤 琉生。
名前の最初の音が『せ』と『ふ』なので、五十音順の出席番号は少し離れているが。
「やった~!」
想太が嬉しそうにガッツポースをする。2人でお互いのこぶしを軽くぶつけ合って、笑い合う。
(最高……!)
琉生は心の中でつぶやく。
さらに、同じクラスの名前の中に、『織田 空』の名前も見つけて、琉生の胸はかすかに、トクンと鳴った。
(一緒なんだ……)
琉生の頭の中に、放課後の静かな図書館の空気がよみがえる。織田とカウンターで交わした言葉たちも。
「なんか嬉しそうやな」
想太の声がして、琉生は、自分がほほ笑んでいたことに気がついた。
「うん。嬉しい。これから1年間、クラスメートとしてもよろしく!」
「おう。こちらこそ」
琉生の差し出した手を力強く握って、想太が笑う。
想太の少し伸びた前髪が、柔らかに眉の上にかかり、薄茶のキラキラした瞳が琉生を真っ直ぐに見ている。
カッコ可愛いと言われ続けている想太だが、伸びてくると、少しウェーブのかかるクセのある髪が今ちょうどいい感じに落ち着いている。笑うと口元からこぼれる綺麗な歯並びの白い歯が目を引く。人懐っこい笑顔と、朗らかな笑い声は、思わず人を振り向かせる。
見慣れているはずなのに、それでも、琉生は時々見とれてしまう。
一瞬ぼ~っとしていた、そのとき、
「ねえねえ! あれ……」
「想太くんと」
「琉生くんじゃない?」
少し離れたところで話し合っている声が聞こえてきた。
「え! やだ! ほんと、想太くんと琉生くんもうちの学校なの?!」
「うそうそ。え、何組?」
ガサガサとプリントをひっくり返す音がする。
「ちょっと待って、それより、2人ともめーっちゃカッコよくない? 制服姿最高!」
「しかも、うちらと同じ制服って。うわあ……」
「琉生くん、やば……サラサラの前髪、破壊力ハンパない……うああ。笑ってる。あのクールな切れ長の目! いや~どうしよう。ステージとはまた違うカッコよさ……」
「ほんと。そう言えば、覚えてる? 去年の年末にやってたドラマの、雨に打たれてるシーン、めっちゃ切なくてよかったよね? 思い出したわ~あの目をこれから近くで見られるの? どうしよ。ドキドキしてきた……」
「やばいやばい。うわ。見て見て、想太くんが笑ってる」
彼女たちの声は、周りに気を遣って、できるだけ抑え気味ではあるが、どうしても、琉生たちの耳に飛び込んでくる。
そんなとき、琉生は、どうしたらいいのか、いつも困ってしまう。
アイドルとしてステージに立っているときは、何も気にせず、思いっきり笑顔で手を振ったりできるけど、日常のこんな場面では、それはできないし、したくない。
これまでも、こんな場面で、どんな顔をしたらいいのか困って、その結果、静かにその場を去るか、目が合えば静かにほほ笑むか、で切り抜けてきた。自意識過剰って言われそうだけど、どう振る舞えばいいかわからない。もし、変にアイドルらしく対応すると、周りは調子に乗ってると思うんじゃないか。いろいろ考えてしまう。
想太は、これまでどうしてたんだろう?
琉生が想太を見ると、
「お。琉生、行こか。オレらの靴箱、あっちみたいやで」
想太がクラス分け表から顔を上げて、下足室を指さして言った。
のんびりした明るい声が、琉生をホッとさせる。
「あ、うん。行こう」
想太に笑顔で応えながら、琉生は歩き出す。
『相棒』と過ごせる日々が始まる。
『親友』と過ごせる日々が始まる。
琉生は、想太と並んで、一歩前に踏み出した。
琉生と想太は少し早めに来ていたので、そのときはまだ生徒の数はまばらだった。が、2人が下足室を抜けて教室に向かったあとからは、次第に登校してくる生徒たちの数は増え始めた。
桜は穏やかに花びらを降らせ続け、その下を歩く新入生たちは、緊張しながらも、花びらに楽しげな声を上げて校舎の中に入っていく。




