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32. また今度。


 テレビの画面は、いつの間にか、次の番組に切り替わっていた。

 ソファから立ち上がり、自室に戻った琉生は、スマホを手に取る。

 何から伝えよう。いっぱい伝えたいことがある。

 

 年末の琉生のドラマが放映された後、想太がくれた長いメッセージ。琉生は、何度それを読み返しただろう。

 彼が精一杯伝えてくれたメッセージが、めちゃくちゃ胸に響いて――――ひたすら響いて、琉生は、泣きそうになったのだ。

 想太は、正直に、そのドラマを観て、自分が琉生に対して感じた焦りや羨ましさまで、伝えてくれていた。



 僕も同じだ。

 自分にないものを誰かに感じて、焦ったり落ち込んだり、羨ましくなったり。

 誰でもそうかもしれないけど、特に、この仕事をしていると、そんな気持ちになりやすいかもしれない。そう思う。


 自分にないもの。自分に足りないもの。

 誰かと比べて、自分はどうなんだ? と自問しては、息が詰まりそうになるときがある。

 自信を持てたと思った次の瞬間には、たちまち足元が揺らぐような不安に陥る。


 コンプレックスでいっぱいになって、周りからの言葉が信じられなくなったりする。

 振り返ると、失敗ばかりだったような気がして、何度も落ち込んで、どうすればよかったのか、それを考えることすら怖くなることもある。


 けれど、一度自分で選んで、歩き出した道だ。

 自分は、どうありたいのか。それを必死で考えながら、この先に進んでいくしかない。



「キノコ、や」

 前に、想太が言ったことがある。

「キノコと名乗ったからには、カゴに入れ」

「なにそれ?」

「ロシアのことわざ。前に、みなみから聞いた」

 みなみ、というのは、想太のご近所さんで幼なじみの同級生だ。

「ロシアでは、キノコ狩りのシーズンには、みんなカゴとキノコ図鑑もって森に行くんやって。で、こんなことわざがあるらしいんやけど。『キノコを名乗ったからにはカゴに入れ』、つまり『一度言い出したからには、最後までやり通せ』っていう意味なんやて」


 なんだか重いな……。そう思って、

「そうか。やり通せ、か」

 つぶやいた琉生に、想太はニコッと笑って、

「でもさ、みなみの言うには、一回入ったカゴが気に入らなかったら、別のカゴにうつればいいんだよ、カゴはいっぱいあるんだから、て」

 琉生の頭に、元気なキノコが飛び跳ねながら、お気に入りのカゴを探している姿が浮かんできた。

 かわいい、かも。

「カゴの底で、くたっとしてるんじゃなくて、元気に飛び跳ねるキノコ、になろう」想太が言い、

 2人で、手を取り合って、カゴの前にいる自分たちが浮かぶ。


「そやな。でも、まずは、アイドルデビューな。漫才デビューはまた今度、やで」

 琉生は、関西弁で言ってみた。

 


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