表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/52

24. 祈る


 待っていた。

 スーパーの入り口で、想太は、琉生を待っていた。

 琉生と別れた後、ダッシュで家に帰って、荷物を下ろし、ポケットに財布とスマホを突っ込んで、スーパーに向かった。

 自転車置き場の横の、小さい方の入り口で、通る人の邪魔にならないように、なるべく端の方の壁沿いに立って、道行く人に視線を走らせる。

 

 来ない。

 ヘンだ。

 もうそろそろ来てもいいはず。

 

 次第に近づいてくる救急車のサイレンの音に気づいたとき、想太の不安は頂点に達した。

(まさか……琉生!?)

 想太は思わず走り出していた。

 少し離れた路上、道路際に人が集まっている。

 想太の心臓が大きく跳ねる。

 まさか!

 まさか!

 まさか!


 全身の血が、頭から足先まで下がったり上がったりして、体中を駆け巡る。


「琉生!!」

 人垣の中からのぞきこんで、そこに青白い顔で、倒れている琉生を見て、想太は叫んだ。


 琉生からの返事はない。

 琉生のそばで、ネコを抱いた女の子が、声を上げて泣いている。

「だいじょうぶ? だいじょうぶ? だいじょうぶ?」

 泣きながら繰り返している。


 琉生のそばに駆け寄って、しゃがみ込んだ想太に、目撃していたおばさんが、

「大丈夫だと思うけど。車には当たってないわ。でも、その子をかばって、倒れ込んだときに、道路で頭を打ってるかもしれない」

 そう教えてくれた。

 車のドライバーも、心配そうに琉生のそばにしゃがみ込んでいる。

「……ブレーキ間に合ってよかったよ。もともとスピード落としていたから。それでも、彼が飛び出して女の子を抱えてよけてくれてなかったら、たぶん、女の子にまともにぶつかってたかもしれない……。ほんとに怖かった……。彼、頭、強く打ってなければいいけど……」

 救急車を呼んでくれたのも、このドライバーの男性のようだ。彼も、青い顔をして、胸を押さえながら話してくれた。

 

 到着した救急車には、琉生と、女の子、想太、目撃していたおばさんが一緒に乗り込んだ。ネコは、たまたま通りかかった、女の子の隣人が連れて帰ってくれることになった。女の子の家の人への連絡もその人がしてくれることになった。

 

 病院に着くと、救急の処置室に、琉生も女の子も運ばれていった。もっとも、女の子は、自分で歩いていったのだが。彼女は路上に倒れたときの擦り傷だけで、特にぶつけているところもなかったようだ。琉生が、腕の中に抱いてかばっていたおかげだ。

 琉生自身は、地面に倒れ込んだときにぶつけたらしい肘の傷と、側頭部から頬にかけて、すり傷ができていた。頭からは、けっこう血が流れていて、想太は、めちゃくちゃ不安になる。


「大丈夫。頭の傷は、けっこう血が出やすいもんだからね。血の量にびっくりしがちだけどね。中身が無事なら大丈夫だから……。今から、検査してくださるそうだから。きっと大丈夫よ」

 一緒についてきてくれたおばさんが、想太に声をかける。

(中身が無事なら、って……)

 想太がよほど不安な顔をしていたのだろう、おばさんは、想太を気遣って、「だいじょうぶだいじょうぶ」とおまじないのように繰り返して、想太の肩をぽんぽんと撫でてさするようにしてくれた。

 その言葉にうなずきながらも、想太の不安は、一向におさまらない。

 そのうち、琉生のお母さんが病院に駆けつけ、おばさんは状況を説明したあと、「お大事に」と言って帰って行った。

 琉生のお母さんと想太が、待合室で待っていると、先に治療の終わった女の子が、治療室から出てきた。ちょうどそこに、女の子のお母さんも到着し、事情を聞くと、何度も何度も、琉生のお母さんに頭を下げていた。


 琉生のお母さん、想太、女の子とそのお母さん、4人が不安な気持ちを抱えたまま待合室にいると、やっと琉生が移動式のベッドに乗せられて出てきた。

 依然として、目は閉じたままだ。

 呼吸は安定しているし、頭の方も検査の結果、今のところとくに問題はなさそうということで、ひとまずほっとしたのだが。


「……目が覚めるのはいつかわかりませんし。みんなでここにいても……。意識が戻ったら、連絡をしますので、今日のところはどうぞお帰りいただいて……。とりあえず、大きな問題はないとのことですし」

 琉生のお母さんが言って、女の子とお母さんは何度も頭を下げながら帰って行った。


「想太くんも、大丈夫だから心配せずに帰ってね。今夜入院して様子を見て、明日もう一度検査して大丈夫なら帰れるから」

 琉生のお母さんがほほ笑みながら、ゆっくりと想太に言う。

 想太はうなずく。

 でも、足が動かない。

 いや。動けないのだ。

 何度大丈夫と聞かされても、琉生の声を聞くまで、直接言葉を交わすまで、ここを動く気になれない。


「オレ、ここにいます。琉生の目が覚めるまで」

 静かに言った想太に、

「ありがとう」

 琉生のお母さんは、うなずいた。

 こんなときだけど、昔彼女が出演していた映画やドラマのときの笑顔を思い出す。涼しげなのに胸に染みるように優しいほほ笑みは、琉生とよく似ている。

 その笑顔にほんの少し心が落ち着く。


 でも、その笑顔を見て、想太はいっそう琉生の笑顔が恋しくなる。

(琉生、琉生、琉生……早く、早く起きてや……)

 組んだ両手に力を込めて、想太は祈る。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ