24. 祈る
待っていた。
スーパーの入り口で、想太は、琉生を待っていた。
琉生と別れた後、ダッシュで家に帰って、荷物を下ろし、ポケットに財布とスマホを突っ込んで、スーパーに向かった。
自転車置き場の横の、小さい方の入り口で、通る人の邪魔にならないように、なるべく端の方の壁沿いに立って、道行く人に視線を走らせる。
来ない。
ヘンだ。
もうそろそろ来てもいいはず。
次第に近づいてくる救急車のサイレンの音に気づいたとき、想太の不安は頂点に達した。
(まさか……琉生!?)
想太は思わず走り出していた。
少し離れた路上、道路際に人が集まっている。
想太の心臓が大きく跳ねる。
まさか!
まさか!
まさか!
全身の血が、頭から足先まで下がったり上がったりして、体中を駆け巡る。
「琉生!!」
人垣の中からのぞきこんで、そこに青白い顔で、倒れている琉生を見て、想太は叫んだ。
琉生からの返事はない。
琉生のそばで、ネコを抱いた女の子が、声を上げて泣いている。
「だいじょうぶ? だいじょうぶ? だいじょうぶ?」
泣きながら繰り返している。
琉生のそばに駆け寄って、しゃがみ込んだ想太に、目撃していたおばさんが、
「大丈夫だと思うけど。車には当たってないわ。でも、その子をかばって、倒れ込んだときに、道路で頭を打ってるかもしれない」
そう教えてくれた。
車のドライバーも、心配そうに琉生のそばにしゃがみ込んでいる。
「……ブレーキ間に合ってよかったよ。もともとスピード落としていたから。それでも、彼が飛び出して女の子を抱えてよけてくれてなかったら、たぶん、女の子にまともにぶつかってたかもしれない……。ほんとに怖かった……。彼、頭、強く打ってなければいいけど……」
救急車を呼んでくれたのも、このドライバーの男性のようだ。彼も、青い顔をして、胸を押さえながら話してくれた。
到着した救急車には、琉生と、女の子、想太、目撃していたおばさんが一緒に乗り込んだ。ネコは、たまたま通りかかった、女の子の隣人が連れて帰ってくれることになった。女の子の家の人への連絡もその人がしてくれることになった。
病院に着くと、救急の処置室に、琉生も女の子も運ばれていった。もっとも、女の子は、自分で歩いていったのだが。彼女は路上に倒れたときの擦り傷だけで、特にぶつけているところもなかったようだ。琉生が、腕の中に抱いてかばっていたおかげだ。
琉生自身は、地面に倒れ込んだときにぶつけたらしい肘の傷と、側頭部から頬にかけて、すり傷ができていた。頭からは、けっこう血が流れていて、想太は、めちゃくちゃ不安になる。
「大丈夫。頭の傷は、けっこう血が出やすいもんだからね。血の量にびっくりしがちだけどね。中身が無事なら大丈夫だから……。今から、検査してくださるそうだから。きっと大丈夫よ」
一緒についてきてくれたおばさんが、想太に声をかける。
(中身が無事なら、って……)
想太がよほど不安な顔をしていたのだろう、おばさんは、想太を気遣って、「だいじょうぶだいじょうぶ」とおまじないのように繰り返して、想太の肩をぽんぽんと撫でてさするようにしてくれた。
その言葉にうなずきながらも、想太の不安は、一向におさまらない。
そのうち、琉生のお母さんが病院に駆けつけ、おばさんは状況を説明したあと、「お大事に」と言って帰って行った。
琉生のお母さんと想太が、待合室で待っていると、先に治療の終わった女の子が、治療室から出てきた。ちょうどそこに、女の子のお母さんも到着し、事情を聞くと、何度も何度も、琉生のお母さんに頭を下げていた。
琉生のお母さん、想太、女の子とそのお母さん、4人が不安な気持ちを抱えたまま待合室にいると、やっと琉生が移動式のベッドに乗せられて出てきた。
依然として、目は閉じたままだ。
呼吸は安定しているし、頭の方も検査の結果、今のところとくに問題はなさそうということで、ひとまずほっとしたのだが。
「……目が覚めるのはいつかわかりませんし。みんなでここにいても……。意識が戻ったら、連絡をしますので、今日のところはどうぞお帰りいただいて……。とりあえず、大きな問題はないとのことですし」
琉生のお母さんが言って、女の子とお母さんは何度も頭を下げながら帰って行った。
「想太くんも、大丈夫だから心配せずに帰ってね。今夜入院して様子を見て、明日もう一度検査して大丈夫なら帰れるから」
琉生のお母さんがほほ笑みながら、ゆっくりと想太に言う。
想太はうなずく。
でも、足が動かない。
いや。動けないのだ。
何度大丈夫と聞かされても、琉生の声を聞くまで、直接言葉を交わすまで、ここを動く気になれない。
「オレ、ここにいます。琉生の目が覚めるまで」
静かに言った想太に、
「ありがとう」
琉生のお母さんは、うなずいた。
こんなときだけど、昔彼女が出演していた映画やドラマのときの笑顔を思い出す。涼しげなのに胸に染みるように優しいほほ笑みは、琉生とよく似ている。
その笑顔にほんの少し心が落ち着く。
でも、その笑顔を見て、想太はいっそう琉生の笑顔が恋しくなる。
(琉生、琉生、琉生……早く、早く起きてや……)
組んだ両手に力を込めて、想太は祈る。




