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23. 待ってる


「何してんの?」

 琉生の手元のスマホを、想太がのぞきこんできた。

「ん? ああ。レシピ、調べてた」

「あ。……今度出るやつのため?」

「そうそう」

「そやなぁ。そろそろ撮影の日、近いもんな」


 料理研究家の先生がメインの番組で、料理初心者の男子中学生でもできそうな、簡単でボリュームのあるものを教えてくれるという話だ。琉生と想太は2人でゲスト出演して、先生の助手をしたり、2人で助け合って、先生をびっくりさせる一品を作ってみせることになっている。とはいえ、一応、番組側である程度メニューの候補は用意されていて、それらの中から選んで作ればいいことにはなっている。


「でもさ、ちょっとくらい、自分でもレパートリー作っておきたいなって」

「そやな……。じゃあさ、今日、うちで練習してみる?」

「え、いいの?」

「もちろん。ただし、今日は、父ちゃんもかあちゃんも留守やから、教えてくれる人はおれへんけどな」

「想太、料理は?」

「オレ、食べるのんは、めっちゃ得意」

 想太が、軽くウィンクして笑った。


 さりげないのに破壊力のある、カッコ可愛いウィンクに、一瞬琉生はドキッとする。

「おい、こんなとこで、僕を悩殺してどうする。ライブのときにとっとけよ」

「いや。日頃の練習、大事やねん。いつでも、さりげなくどっちの向きでもやれるように」

 そう言って、また、ウィンクしてみせる。今度は、反対側の目だ。この頃、想太はウィンクにハマっているらしい。

「さりげなさがポイントな」なんて言って笑っている。

 はじめのうち、想太はウィンクしようとすると、ついつい両目をつぶりがちだったのだが。

「あ~。やば。キュンってするやないか~」

 胸を押さえて、琉生は笑う。ちょっと関西弁だ。

 半分冗談で、実は、半分本心だ。

 

 なぜだろう。想太の笑顔は、琉生にとって、破壊力がハンパない。

 ステージで、彼が汗だくの髪をかき上げながら笑うときも、時々ハッとするほどカッコいいと思うし、一緒にバラエティー番組に出て、MCのタレントの問いかけに応えるとき、さりげなく交わす小さな笑顔まで、想太の笑顔は、めちゃくちゃに可愛くて、カッコいい。人のよさとか、人懐っこい感じとか、彼の真っ直ぐな人柄が見えるようで。素直に、すごくいいなぁ、と思う。

 でも、何より、琉生にとって、一番心に響くのは、日常のふとしたときに見せる、自分だけに向けられる笑顔だ。



 ダンスのレッスンを終えて、大きなバッグを肩にかけて、2人で事務所のスタジオを出る。

「食材、買い出しに行ってから、うちに帰ろか」

「うん。あ、その前に、家に連絡入れる。晩ご飯は想太んとこで、食べる、って」


 そう言ったものの、バッグは、ダンス用のシューズや、着替えのTシャツやジャージやハーフパンツなどの衣類、水筒などで、けっこうかさばって重い。これを持って買い物はしにくいな。

「なあ。いったん、家に荷物置いてから一緒に買い物行くのって、どう?」

「ええで。そうする?」

「じゃあ、とにかくダッシュで、荷物置いて、すぐ後を追いかける」

 

 自宅からの最寄り駅は同じだが、ほんの少し、琉生の家の方が、駅からは近い。スーパーには、想太のマンションの方が近い。

「じゃあ、スーパーの入り口で待ち合わせ?」

「正面入り口だと人が多いから、自転車置き場側の、横の入り口で」

「OK」


 想太の家で、料理の練習をしてそのまま夕食を食べてくる、と母に伝えて、琉生は、重いバッグを自分の部屋に置くと、ボディーバッグにスマホと財布を突っ込み、洗濯物だけは洗濯室に持って下りた。出し損ねると、母がうるさい。洗濯してもらってるのに、うるさい、と思うのは、申し訳ないのだが。


 早足で、待ち合わせのスーパーに向かう。前にHSTのライブで買った、黒に、HSTのロゴの入ったキャップをかぶる。まだ、デビュー前の研修生とはいえ、琉生たちは、けっこう顔が知られている。サングラスなんかはしないけど、キャップをかぶって、シャツとデニムの、普通の中学生らしい姿で、できるだけ目立つのは避けたい。


 スーパーの建物が見えてきたところで、前の方から、ネコを抱いた小学生くらいの女の子が歩いてきた。抱いているのは、可愛らしい三毛猫で、

「ここに浅香さんがいてたら、後ついていきそう」

 事務所の先輩、浅香公平の顔が浮かぶ。彼は、大のネコ好きで、可愛いネコを見かけると、後を追いかけてどこまでも行ってしまう、という噂がある。

 ふふ。

 琉生が思わず、公平の顔を思い浮かべて笑ったとき、

「ああっ!!!」女の子が叫んだ。

 彼女の腕の中から、ネコが飛び出して、車道の方へ走り出したのだ。女の子も後を追って、車道に飛び出そうとする。

「あぶない!」

 琉生は、反射的に走り出し、その女の子の方に腕を伸ばした。


 車の急ブレーキの音、人のざわめき、腕の中で泣いている女の子の声。そして、耳元で小さく、「にゃあん」という鳴き声が聞こえた気がした。

(どっちも無事だったのかな……? 僕も?)

 そう思って、ほっとした琉生は、遠のく意識の中で、

(想太が待ってる……)そうつぶやいていた。





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