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消えた凛華

 朝、起きるとスマホが鳴っていることに気がついた。

 電話の主は清華から。

 俺が電話に出ると、焦った声色の清華が


『あの、すみません! 姉がどこにいるか知りませんか!?』

「凛華さんの居場所? 俺は知らないけど……」

『ですよね……』


 俺が凛華の居場所は知らないと応えると、しょんぼりした様子の声が返ってくる。


「清華、凛華に何かあったのか?」

『何か起きたわけではないのですが……姉が急に消えたんです』

「消えた? どういうことだ?」

『朝、起きたら姉が屋敷から居なくなってたんです。今、屋敷の中では皆大慌てで……』 


 そういえば清華と凛華の家はデカい屋敷で、使用人が何人もいるような家だった。

 凛華がいなくなってた? そのくらいなら特に慌てるようなことでも無いと思うが……。

 俺はそれを清華へと伝えた。


「用事で出かけたとかじゃ……」

『私もそうかと思ったんですが、姉は出掛けるときは誰かに伝言を残していきますし、誰にも黙って居なくなることは無いんです。それに……』

「それに?」

『なんだか、すごく嫌な予感がするんです。ここで見つけ出さないと、二度と戻ってこないんじゃないか、って……』


 清華の言っていることには確たる証拠があるわけではない。

 俺も清華と同じく、なんとなく嫌な予感がしていた。


「とにかく、こっちでも調べてみるよ」

『ありがとうございます』


 俺は電話を切ると、出来る限りで凛華がどこにいるのかを探った。

 しかしどれだけ探しても凛華を見つけることは出来ず、さらに翌日になっても凛華は屋敷に帰ってこなかった。





 翌日、清華が俺の家へとやってきた。

 できる限り一昨日と昨日の凛華の行動を洗い出していた。

 しかし凛華がいつも行く所には、顔を出していないようだ。

 凛華は、完全に消息を絶っていた。


 そして俺の頭の隅には一つ、引っかかっている事があった。


「なぁ、清華。一つ質問なんだが……荊棘エリスって知ってるか?」

「荊棘……エリスさん、ですか? すみません。私は存じ上げない方ですね……」


 清華すら知らない、凛華の友人。


 俺が凛華と最後にあったときに一緒にいたのが、あの女性だ。

 だが凛華は一度あの荊棘エリスと別れて家に帰っていたらしいから、特に怪しいという訳では無い。一旦置いておこう。


 今は凛華の居場所を突き止めなければならない。


 しかし、今俺達は八方塞がりだ。

 この状況で行方不明の人間を探し出せる人間なんて、俺は一人しか知らなかった。


「はぁ……嫌だけどかけるしかないか」


 俺は立ち上がり、清華に「ちょっと電話してくる」と告げて廊下に出る。

 そして登録名は『不明』になっている、いかにも怪しい番号をタップし、電話をかけた。

 数コールの後、相手が電話に出た。


『また私にかけてきてくれるなんて嬉しいよ。星宮尊』

「本当なら俺もかけたくなかったんだけどな。魔女」


 俺が電話をかけた相手は魔女だった。

 以前、魔女には凛華の過去を調べてもらった過去がある。

 もしかしたらコイツなら凛華の居場所を探し出すことが出来るかもしれない。


『つれないことを言うじゃないか。傷ついてしまったな。そんな態度なら、私も色々と君につれない態度をとることになるけど? 例えば……君の頼みを聞いてあげないとか』

「くっ……」


 やっぱりお見通しか、というのと弱みを握られた悔しさで俺は歯噛みする。

 機嫌を損ねられるのはまずい。

 俺が凛華の足取りを知れる方法はコイツに聞くしかないのだ。

 ここで機嫌を損ねられて、凛華の足取り追えなくなるのは困る。


『ほら、私に何か言うべきことがあるじゃないかな?』


 愉快そうに笑う魔女に、俺は渋々言ってやった。


「本当は、電話をしたくてかけてきたんだ」

『感情が籠もってないけど、まあ一旦良いことにしてあげよう。それで、今度は私に何をして欲しいのかな。おしゃべりをして欲しい? デートのお誘い? それとも──私に恋人になってほしい、とか?』


 最後の部分だけやけに艶っぽく語ってくる魔女。

 からかわれているのは分かっているので、いちいち相手にしない。


「そういうのはいいから。今日は聞きたいことがあるんだ」

『ふぅん。いいとも、私が知っている範囲でなら答えよう。もちろん、今回はお代をいただくよ。前回で借りは返しているからね。ああ、そう言えば良い忘れていたんだが、私は今入浴している。それでも構わないかな』


 どうりで電話越しの声がこもっている気がした。


「なんで風呂に入ってるんだよ」

『仕方ないだろ。入浴しているときに君が電話をかけきたんだ』


 電話越しにちゃぷ、と水の音が聞こえてくる。


『キミ、今私が入浴している光景を想像しただろう』

「してないわ」

『いいや、嘘だな。私のような美少女の裸を想像しないはずがない』

「それ自分で言うのか……?」


 俺は魔女に呆れてため息を付く。

 いや、こんな話をしている場合じゃない。


「おい、話が逸れてるぞ」

『ああ、すまない。話を戻そう。それで君が聞きたいのは、そう……私のスリーサイズだったかな』

「違ぇよ」

『本当に? 私のスリーサイズを知りたくないのか? 今なら、出血大サービスで私の今までの交際経験で教えるが』

「知りたくねぇよ」

『おやおや、意志が強いね。ちなみに、私の交際経験はゼロだ。良かったね』


 クスクス、と魔女は笑う。


「……」


 俺は頭痛がして頭を抑えた。

 こいつと話しているとどうも調子が崩される……。

 魔女に手玉に取られていることを自覚しながら、俺は話を戻した。


「俺が聞きたいのは、橘凛華の居場所についてだ」

『それは知っているよ。昨日から姿を消しているらしいね』


 知ってるのかよ、という言葉をすんでで飲み込んだ。

 また機嫌を損ねて話が横にずれたら面倒くさいことになる。


「どうして知っている」

『個人的に彼女の居場所を調べていただけだよ。厄介事に巻き込まれていそうな気配を感じたからね。ああ、勘違いしないでくれよ。誓って私は彼女を誘拐したりはしていない』

「凛華はどこにいるんだ。教えてくれ」

『まあ、待ってくれ。その前に報酬の話だ。私は別に善意で君に協力しているわけではない。利害関係が一致しているギブアンドテイクの関係だ。そうだろう?』


 確かに、魔女の言うとおりだ。


「いくらだ」

『百万円』

「……高くないか」


 情報量としてはあまりにも高額なその値段に、俺は眉をひそめた。


『そうは言ってもね、私も彼女の居場所を突き止めるためにある程度のリスクを取ってるんだ。それに、これくらいなら君は余裕で払えるだろう?』

「……分かった。それでいい、教えてくれ」

『今現在、橘凛華はとある人物の屋敷にいる』

「誰の、どこの屋敷だ」

『まるでおばけが出てきそうな洋館だ。住所は後でメールで送ろう。そして屋敷の持ち主は──荊棘エリスだ』


 魔女の出した名前に俺は息を呑む。


「なんでそんなところに……」

『さてね、それは彼女に直接聞いたら良いんじゃないかな。自ら望んでそこにいるのか、もしくは帰りたくても帰れない状況なのか、直接問いただせばいい』


 全てを知ることは出来なかったが、まぁいい。とりあえず聞きたいことは聞けた。

 すぐに凛華のいるところに行こう。


「質問は以上だ。悪いが急いでるんだ、もう切るぞ」

『ああ、また用事があれば電話をかけてきてくれ。そしてこれは忠告だが……しっかりと準備した方が良い』

「……どういう意味だ」

『これ以上は追加料金だ。では、また今度』


 ツー。ツー。

 電話は切れてしまった。

 そしてスマホに明らかな捨てアドからメールが届く。

 そこには凛華がいるのであろう屋敷の住所が書かれていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] でも、この忠告自体、何があるかは分かってるとは思う。 魔女は、情報の代わりにお題を請求するが、話す事には嘘はない。この忠告も、素直に受け取るべきだと思う。 何かがある、それだけは確かだ。…
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