Bランクへの昇格
そして、瓜生との模擬戦が終わった数日後。
「おめでとう、これで晴れて君はBランクだ」
俺はギルド長から新しい冒険者身分証を受け取る。
そこの冒険者としての等級を現すところには『B』の文字が印刷されてあった。
俺がBランクになった証だ。
「Bランクに上がるまで、色々とありましたね……」
Bランクに上がるまでにかかった時間は二週間程度だが、その間に色々とありすぎた。
……特にきつかったのは修行をしてた一週間だ。
「といっても、すでにAランク昇格の審査会には順番待ちの状態だ」
「Aランクですか、通りますかね……」
長らく最低ランクであるFランクに留まっていたため、未だにAランクは雲の上のようなランクという感覚で、正直全然実感がない。
「あれだけの実力を審査員の前で示したんだから、すんなり通るだろう。それに、次は邪魔をしてくるような人間はいないだろうしな」
邪魔してくる人間というのは、審査会の一員であり、瓜生と手を組んで俺に模擬戦をするように仕掛けてきた、他のギルドのマスターを務めている村田五郎という男だ。
「そう言えば、その人はどうなったんですか?」
「それがだな……まあ、これは君にも関係あることだな。よし、話そう。その代わり、これは誰にも言わないでほしい」
「分かりました」
ギルド長はそう前置きして話し出す。
「村田は、数日前から行方不明になっている」
「え、行方不明、ですか?」
「そうだ。君と瓜生の模擬戦の日を境に急に音信不通になったんだ」
音信不通。
確かに重大なことだが、それのどこが俺に関係あるのだろうか。
その疑問に答えるようにギルド長が話し出す。
「そして、もう一つ。瓜生とその仲間も行方不明になっているんだよ」
「は? 瓜生もですか?」
「そうだ。君を妨害してきた奴らが全員君と模擬戦をした日から全員連絡が取れなくなった。……少し、何かある気がするんだ」
俺のBランク昇格を邪魔してきた奴らが、全員音信不通になっている。
奴らが俺を逆恨みして、また手を組んでなにかしようとしているのなら。
確かに俺も無関係とは言えないだろう。
「ギルドの最高責任者が行方不明というのはギルドにとっても一大事だから、ずっと捜索が行われているのだが、未だにどこにいるのか検討すらついていない」
ギルド長はポケットから煙草を取り出すと、ライターで火をつけて煙を吐き出す。
「村田たちが君に何かしようとしている、というのはまだ憶測でしか無いが、一応気をつけてくれ」
「分かりました」
俺はギルド長の言葉に頷く。
するとギルド長は空気を切り替えるようにパッと笑みを浮かべた。
「まっ、奴がいないということは、裏を返せばもう君の昇格に反対する人物もいないということだ。奴がいない間に、君のAランク昇格の件をサッと通して見せよう」
「ありがとうございます」
「なぁに。今回は君に迷惑をかけたからな。そのお詫びだ」
***
ギルド長の部屋から出て来た俺は、廊下を歩きながら自分の冒険者身分証を眺めていた。
Bランク。
たった二ヶ月ほど前までは、俺はただのFランク冒険者だった。
それが今では世間でもプロとして認められているBランクだ。
これまで冒険者ランクをそこまで上げたいと思ったことはあまりない。
それでも、結構嬉しかった。
「尊くん」
「えっ、先輩?」
そして受付があるギルドの一階に出ると、待ち構えていたかのように先輩がこちらへとやって来た。
「どうして先輩がここに?」
「たまたまギルドに寄ったから待ってんだ」
朝陽先輩が首を傾げる。
「弟子を迎えに来たら悪いかな?」
先輩がそう言った瞬間、ギルドの冒険者がざわついた。
「は、弟子?」
「白鷺朝陽の弟子って言ったか?」
「『虚飾の英雄』が、あの『運命』の白鷺朝陽の弟子? 冗談だろ?」
弟子制度で誰が誰を弟子にしたかは国のサイトで公開されれるが、誰しもがそのサイトを眺めているわけではない。
それに俺と先輩が師弟関係になってから、ほとんどギルドで顔をあわせたことはなく、ずっとSランク専用の修練場で会っていた。
Sランク専用の修練場なんて普通の冒険者は近づくようなことすら無いから、今まで誰も知らなかったのは無理もないと言えるだろう。
そして、俺が先輩の弟子というのは好意的に捉えられていないらしい。
理由は俺の周囲の評価が原因だろう。
(虚飾の英雄か……)
アイテムばかりで実力が伴っていないのに、英雄だと持て囃されている俺を揶揄するためのあだ名。
それは未だに払拭できてはいない。
「なんであんな奴が白鷺朝陽の弟子に……」
「でも、あの瓜生を模擬戦でボコしたって話だぞ」
「はぁ? 『無詠唱』と『魔力効率』持ちでBランクのアイツを?」
「どうせガセだろ、それ」
向けられる嘲笑と、俺が貶されたことに先輩がムッとして冒険者の方へと歩き出そうとしたとき。
「尊さんっ!」
「うわっ」
いきなり俺の右腕に誰かが抱きついてきた。
黒髪と狐の面。
「せい……天狐。急に何だよ」
清華の名前を呼びそうになって、俺は急いで天狐と言い直す。
清華から他の冒険者がいるときは天狐として呼んでほしいと言われているためだ。
「あれ? 腕を組まれるのは嫌でしたか?」
「いや、そうじゃなくて……」
「むっ、尊くんは私のものだよ……!」
清華に対抗するように朝陽先輩が腕に抱きついてきた。
「あの、先輩……」
二人がわざとらしく騒いでいる理由は分かる。
きっと貶された俺をフォローしてくれているのだ。
その気持自体は嬉しいのだが、この状況で注目されるのはちょっと……。
予想通り、ギルド中から俺へと視線が突き刺さる。
「今度は天狐まで……」
「どうしてアイツが……」
背中に羨望と嫉妬の視線を向けながら、俺はギルドからそそくさと退出したのだった。




