復讐の炎
「嘘だ……僕が、僕が負けるなんて……」
敗北。
言い訳のしようがないほどの、負け。
格下だと思っていた相手に、完膚なきまでに叩き潰された。
それに加え、ギルド長にまで「自分には才能がない」のだとバッサリと切り捨てられてしまった。
『十代の冒険者のAランク昇格は、定員が存在する』
ただの都市伝説であり、実際に実情を知っているBランク以上の冒険者の中でその噂を信じている人間はほとんどいない。
しかし瓜生にとって、その噂は自分のプライドを守るための砦だった。
才能に溢れ、同年代を見下して生きていた瓜生にとって、自分が単純に実力不足で一年以上も昇格できていないということは、認められなかった。
瓜生の慢心に拍車をかけたのは、『無詠唱』と『魔力効率』の強力なスキルを所持していたこと、そして冒険者になってたった一年という期間で急激にランクとレベルを上げたことも関係していた。
そして瓜生は元々、プライドが高く、他人を見下したいという欲が強い人間だった。
はじめにそのプライドが歪まされた原因は、白鷺朝陽だった。
瓜生のスキルよりも遥かに強いユニークスキル『運命観測』を手に入れ、怒涛の勢いで自分を追い越していった白鷺朝陽は、当時もてはやされていた瓜生から人気も話題も、何もかもを掻っ攫っていった。
Sランク冒険者である朝陽のせいで瓜生の存在は陰に隠れ、本来ならばクラスや学校で朝陽のようにもてはやされていたはずの瓜生は、学内でも同じギルドでもパッとしないという評価を受けてしまっていた。
無詠唱で魔法を放てても、魔法を半分の魔力で放てても、相手の運命を観測し、自分の思うがままに結果を左右できる能力に比べれば地味だったからだ。
本人は認めていなかったが、このとき、瓜生は無意識化で才能の違いというものを教えられた。
十代の肥大した慢心によって、自分が最もこの世で優れていると感じていた瓜生にとっては、自分よりも遥かに上の存在がいるという事実は、心に深い傷を負わせた。
しかし規格外だったのが朝陽だけで、もちろん十代にしては活躍している瓜生は学年の中でも人気者の地位を得ることはできた。
もちろん、朝陽に比べれば見劣りするが、という枕詞はつくものの、それでもそれなりに周囲の人間からはもてはやされていたため、自分の心を騙しながら瓜生は学校生活を送っていた。
だからこそ、星宮尊という 自分をまた同じように追い越そうとする人間が現れたとき、許せなかった。
朝陽と同じくユニークスキルを持ち、さらにはSSSレアアイテムまで所持している。
スタンピードを壊滅させた場面がネットを経由して全世界に公開されたことで、話題性は自分をはるかに凌駕している。
自分が一年以上Bランクに留まっている間に、自分よりも年下の冒険者が追い越していこうとしている。
トラウマになっている白鷺朝陽のときのように、自分が追い越される。
自分よりも上の存在がいるということを、改めて突きつけられる。
妨害せずにはいられなかった。
模擬戦の会場から誰しもが去った後。
瓜生は唯一人、床に蹲りブツブツとなにかを呟いていた。
「どうして……なんで僕が……」
もはや意味すら繋がらないことを呟いている。
「Aランクに上がれなかったのは、僕の実力が足りなかったから……?」
瓜生は頭を抱えてうずくまる。
自分には才能があると、誰よりも優秀であると、そう信じていた。
それをギルド長に否定され、現実を突きつけられた瓜生はプライドがずたずたに引き裂かれていた。
表情は絶望を通り越し、笑い声さえ漏れてきた。
「はは……これは、夢だ……悪夢なんだ……」
地面にうずくまる瓜生の近くに、とある人物が恐る恐る寄ってきた。
「ユウヤ……その、大丈夫?」
「ユウヤさん……」
「ユウヤくん……げ、元気だして?」
「カレン、ノドカ、コユキ……」
瓜生は顔を上げ、三人の名前を呼ぶ。
三人は瓜生に自分の声が届いたことにホッと息を吐いた。
「こ、今回は残念だったわね……」
「そうですね、でもユウヤさんは弱くないです」
「そうだよ、ユウヤくんが強いのは、私たちが知ってるから」
三人は瓜生を励ます。
しかしそれを聞いた瓜生は豹変した。
「黙れッ!!! 僕に操られている分際で!! ゴミがその安い同情を僕に向けるんじゃないッ!!」
「えっ?」
三人が瓜生の言葉に疑問符を浮かべた次の瞬間……三人は糸が切れたようにうなだれた。
まるで人形ようにその場に直立し、光りのない虚ろな目で地面を見つめている。
そして瓜生の手には……赤黒い本が握られていた。
SSランクアイテム、『誑繰の書』。
人間を操る事が可能となるアイテムだった。
人を操る系統のアイテムはその凶悪な能力、また倫理的な観点なから、世界中で使用することは禁忌とされており、日本でも法律で固く禁じられている。
もちろんアイテムの流通は一切なく、もしダンジョンから出てきた場合は有無を言わさず強制的に回収されるほどだった。
冒険者とはいえ、一介の高校生でしかない瓜生にはこれを手に入れる伝手も、資金力もない。
加えて、誑操の書はダンジョン産のアイテムではなかった。
「くそッ! クソがッ!!!!」
瓜生は床に拳を叩きつけ、ポケットからスマホを取り出すと、どこかへと電話をかけ始めた。
相手が電話に出た途端、瓜生は怒りをぶつけた。
「また負けたぞ! どういうことだ! 星宮尊は冒険者としての実力は無いに等しいんじゃなかったのか!!」
「お前の計画は全て失敗してるじゃないか! 白鷺朝陽の洗脳も失敗してる!!」
「そもそも、魔力抵抗の高い人間を洗脳するためには長い時間側にいる必要があるなんて聞いてないぞ! 欠陥アイテムを僕に押し付けやがって!」
「はぁ!? 僕のせい、僕のせいだって!? そもそもそっちが間違った情報を教えてきたのが、全ての原因じゃないか!! お前のせいで僕はアイツに負けたんだ!! ちゃんとした情報を教えられてたら、今頃白鷺朝陽だって僕のものになってたんだ!!」
「どうしてくれるんだ! お前のせいで、僕は明日から学校で笑い者なんだぞ!」
「は? 新しい力?」
「……」
「……良いだろう。その条件、受けてやる」
「白鷺朝陽を超える力で、僕は奴らに復讐する」




