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勝負の開始

 それから六日間経過し、俺は先輩とセレーネのおかげで、かなり魔力を圧縮した時の操作が上達してきた。

 いつの間にか寝ぼけた(本人談)らしいセレーネが布団の中に入り込んできたり、日に日に胃が痛くなることが多くなってきていたが、対に模擬戦の前日までやって来た。


 修行も今日が最終日だ。


「圧縮した魔力を均一に全身へ通してみて」

「はい」


 先輩に言われたとおりに、俺は魔力を圧縮し、その状態のまま均一に保った魔力を通していく。

 この数日間で何千回も繰り返した作業。

 魔力圧縮は体力も消耗するため、最初の頃は先輩のことを鬼だと思ったが、何度も繰り返しているうちに徐々に慣れてきて、体力の消耗も最小限に出来るようになってきた。

 これだけ反復練習させられたのは、この消耗が少なくなる方法を身体に覚えさせるためだったのかもしれない。


「よし、ちゃんと出来るようになってるね」

「はい、このまま動けるようにもなってきました」

「じゃあ、そろそろ教えようか。魔力圧縮で魔法を防ぐ方法を」

「いよいよですか……」


 この一週間、朝から晩まで魔力の技術を磨いてきて、ついにここまできた。

 自分で魔法を防げる手段。

 ちょっと楽しみではある。


「考え方としてはシンプルだよ」


 先輩は左腕を掲げる。


「魔法っていうのは、魔力の塊」


 片手に火の玉を出現させる。

 そしてそれにもう片方の手のひらを近づけた。

 何をするのかと思っていると、


「だから自分の圧縮した魔力を解放するときの反発力をぶつければ……魔法を散らすことができる」


 先輩が手のひらから、炎の玉に向かって圧縮した魔力をぶつける。

 すると炎の玉は霧散して、消えていった。


「これを相手の魔法にするだけだよ」

「聞いてる感じだと結構簡単に聞こえるんですけど……」

「ふふ、そう思うよね。じゃあ早速実践してみようか」


 先輩が意味深な言葉とともに今度は水の玉を形成する。

 俺は先輩のように魔力を圧縮した。


「いくよ」


 水の玉が発射される。

 俺は圧縮した魔力を水の玉にぶつけようとして……


「い……!?」


 ──水の玉を消しきれずに、顔に真正面から水を浴びた。

 顔から下がびしょ濡れになる。


「あははっ、やっぱり失敗したね」


 先輩が予め俺がこうなることが分かっていたかのように笑う。


「なんで失敗したんですかこれ……」

「魔力っていうのはね、ただの魔力だと空気中に出てもすぐに拡散しちゃうんだよ。尊くんも覚えがあるでしょ?」

「確かに……」


 スケルトンナイトと戦った時や、清華と修行で戦ったときに何度か魔力を放出してみたが、それも至近距離だったからこそ有効だった戦術だ。


「だから、魔法を散らすときには魔法を至近距離で、タイミングよく圧縮した魔力を当てないとだめなの。もし失敗したら……」

「も、もし失敗したら……?」

「今度はちゃんと威力が高い魔法が、身体に直撃する」


 今回は威力が抑えられた魔法だったが、もし本当に殺傷力のある魔法だったらと考えると……冷や汗が出てくるな。


「あと、これは威力が高めの魔法とかだと使えないから、ちゃんと見極めて避けてね」

「この技術、ちょっと難しすぎませんか……?」

「でも、習得したら魔法主体の戦闘スタイルの相手にかなりアドバンテージになるよ? 本来、魔法は避けるか盾で受けきらないといけないんだけど、これなら相手の不意をつけるし」


 先輩の言う通り、魔法というのは盾で受けるか避けるというのが基本的な対処法だ。

 しかしこの技術は接近する勢いを殺すことなく、相手の魔法を無効化出来る。

 虚を突くという意味では、かなり便利な技だと言えるだろう。


「でも安心して。私はちゃんと弱い魔法をたくさん撃ってあげるから! 頑張って習得しようね!」

「はい……」


 先輩は「頑張れ!」と両手を握っているが、失敗するということはそのたびにびしょ濡れになるということだ。

 ……やっぱり、先輩はスパルタだ。



***


 そして、勝負の日はやって来た。

 Bランク冒険者、瓜生優弥との模擬戦。

 冒険者同士の模擬戦専用の会場があり、そこが勝負の場所として選ばれた。

 コロッセオのように闘技場の周囲を観客席が囲むように取り囲んでいる。

 観客は少なく、数人しかいない。

 審査会の人間と思われる人間がまばらに座り、そしてギルド長や俺の師匠である先輩はその中に座っている。

 ギルド長と先輩から少し離れたところに、太って頭の髪が薄くなっている男が、偉そうに両腕を組んでふんぞり返っていた。


「あいつが……」

 恐らく奴が、俺のBランク昇格を邪魔している別地区のギルドの長、村田五郎だ。

 初めて見るが、ギルド長に教えてもらった特徴と一致しているからほぼ確実にそうだと見てもいいだろう。

 村田はニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら俺を見ている。


「ずいぶんと余裕だね。勝負が始まるときだというのに」


 俺の真正面に立つ人物に視線を戻す。

 瓜生優弥。

 手には木剣を持ち、動きやすい服装の瓜生は俺へと村田と同種類の笑みを向けている。


「今日、僕は君に勝つ」

「ここまでお膳立てしてもらって負けたら、どうやって言い訳するんだ?」

「残念だが、僕は負けない」


 自信満々で瓜生はそう言い切った。


「どうだか、また不正だ、って騒ぎ始めるんじゃないのか?」

「この一週間で君のことは調べさせてもらった。そして、分かったよ。やっぱり君の実力の大部分はアイテムによるものだ」


 どうやら、この一週間、あちらも俺に対する対策を立ててきたらしい。


「虚飾の英雄。君にピッタリの名前じゃないか」


 瓜生はハッと笑う。

 俺はその挑発に乗らずに受け流す。


「そこまで入念に調べるとか、ちょっとストーカーみたいで気持ち悪いぞ」

「君にアイテムを使わせない勝負なら、後はステータスとステータスのぶつかり合いになり……僕が勝つ」


 瓜生は木剣を俺へと突きつけた。


「それでは、模擬戦を始める前にルールを確認するぞ」


 ギルド長が席から立ち上がる。


「一対一で制限時間はなし。勝利条件は相手を戦闘不能にするか、負けを認めさせること。自身のスキルは使用しても構わない。だが相手に致命傷、もしくは死に至らしめるような攻撃を放った場合と、アイテムを使ったと判明すれば即失格となる」


 そしてルール違反や勝敗のジャッジを下すのは、プロの審判だ。

 冒険者という職業が普及した今、アイテムなし、木剣のみで戦う剣道のようなスポーツが普及している。

 そのスポーツのプロの審判を呼んできたらしい。

 ギルド長によると、ここは信頼できる筋から審判を頼んだということで、変に不公平なジャッジをされる心配はないそうだ。


「両者、構えて」


 審判が木剣を構えるように告げる。

 俺は木剣を地面に平行に構えた。

 瓜生は右手で木剣を中段に構え、左手は開けている。

 魔法を撃てるようにしているのだろう。


「それでは……はじめ!」


 勝負が始まった。

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