なぜか隣りにいる先輩
日付が変わる頃まで訓練していた俺は体力を消耗し、疲れ果てていた。
疲れた具合で言えば、十時間ぶっ通しでモンスターダンジョンに潜っていたときと同じくらいだ。
そのため、俺は練習が終わるとそのままベッドの中に入り、うとうととしていたのだが……。
……キィ。
と、俺の部屋のドアが開いた音がした。
暗い部屋の中で、足音が響く。
(誰だ……?)
寝ぼけ眼でベッドから起き上がると、そこにいたのは……。
「先輩……?」
パジャマ姿の先輩だった。
ふわふわした可愛い感じのネグリジェだ。
薄くて目のやり場に困るセレーネのとは違う雰囲気だ。
「来ちゃった……!」
俺が上体を起き上がらせると、先輩はニコッと笑って首を傾げた。
「なんでこんなところに……」
「その……星宮くんとおしゃべりしたくて。一緒にお泊りなんて修学旅行みたいで、寝れなかったの」
まるで焦ったように白鷺先輩は早口でそう言った。
何だか言い訳してるみたいだな。
いや、でも先輩に限ってそんなことはないか。
「先輩のお誘いならぜひそうしたいんですけど、すみません。俺、かなり眠くて……」
俺は眼をこすりながらあくびをした。
実際、今はほとんど寝ぼけながら先輩と話していた。
半分寝ているので、明日の朝に覚えてるのかも怪しいくらいだ。
「……へぇ、そうなんだ」
閉じかけている瞼から、先輩がニヤリと笑ったような気がしたのは気のせいだろうか。
「だからすみません……俺、そんなにおしゃべりは……」
「別にいいよ。ごめんね、眠たいところに来ちゃって……」
「すみません、先輩……」
謝りながら再び横になる。。
「──その代わり」
「……?」
パフンッ、と先輩が俺のベッドに乗ってきた。
ふわりと全身を抱きしめられる感覚。
「隣で寝てても、いいよね?」
「うん……?」
先輩が、俺のベッドに?
そう言ったのか……?
何かがおかしい気がしたが、今の俺は眠気で限界だった。
「はい、どうぞ……」
「ありがとう、星宮くん」
最後の力を振り返って返事をすると、俺は眠りについた。
翌朝。
「ん……」
いつもと何かが違うような気がして、俺は目を覚ます。
「あ、おはよう星宮くん」
甘い声が耳をくすぐり、なんだか良い匂いが鼻腔を蕩かす。
この声はセレーネじゃない。綾姫はベッドの中に入ってきたりしないし……。
俺を星宮くんと呼ぶのは一人しかいない。
目を開けるとそこいたのは……。
「は、はっ……!? せ、先輩っ……!?」
目の前にいたのは、白鷺先輩だった。
薄着の先輩は俺に身体ごと密着しており、いろいろと柔らかい感触が伝わってくる。
いつもは身体の線が出るような服は来ていないし、今まで見る機会も少なかったので気が付かなかったが、先輩は結構大きいことが分かった。……何がとは言わないが。
困惑している俺をよそに、先輩はそんな俺を楽しそうに見つめていた。
今は眼帯を外しているため、その金色の瞳が俺を至近距離から一点に見つめづづけている。
その瞳の中へと吸い込まれそうな力を感じて、俺は慌てて目を逸らす。
「ど、どうしてここに……!?」
「あれ、昨日のこと、覚えてないの……?」
先輩がちょっと寂しげな表情で見上げてくる。
「ちょ、ちょっと覚えてないですね……」
「ひどい」
「えっと、何があったのか教えてくれます……?」
「だめ。教えない」
先輩はクスクスと笑う。
「と、とりあえず起きましょうか……」
「だめだよ。もうちょっと話そ?」
ベッドから起き上がろうとするが、なぜか白鷺先輩が俺の服を引っ張って離さない。
全力で起き上がろうとするが、余裕の顔の先輩に押さえられ、俺はベッドから脱出できなかった。
先輩のステータスで力付くで押さえられると、俺は抵抗できないのだ。
どうして、どうしてこんな状況になってるんだ……!?
俺は頭を高速でフル回転させる。
(昨日は疲れてたからすぐに寝たはずで、なんで先輩が俺のベッドの中に……たしかに先輩が部屋に来てたような気がするんだけど)
俺が困惑していると、
「そうだ」
先輩が何かを思いついたかのようにそう言った。
「これからは、尊くんって呼んでも構わないよね? だって私達師弟関係だし。そろそろ親しい感じで呼び合っても良いと思うの、私」
「べ、別に良いですけど……」
これは今の状況でする話なんだろうか、という疑問は口に出さないでおいた。
「じゃあ、尊くんは私のことは朝陽って呼んでね」
「それは流石に……朝陽先輩で」
「うーん……呼び捨てでいいんだけど。まあいっか。それはまた今度にしてあげる」
先輩はそう言うとベッドから立ち上がった。
「よし、じゃあ私はもう行ってるね」
「は、はい……」
「昨日は楽しかったよ」
先輩は妖艶な微笑みを浮かべてそう言うと、俺の部屋から出ていった。
マジで何があった……?
なんとか記憶を掘り出そうとするが、昨晩の俺はほとんど意識がなかったため、結局どういう意味か分からなかった。
その後は俺を起こしに来たセレーネに、今しがた先輩が俺の部屋から出ていった所を目撃され、必死に言い訳する事になった。
先輩が俺を起こしに来たと説明することで手打ちとなった。




