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やけに距離が近い先輩


「目を閉じて、まずは魔力圧縮をしてみて。魔力を球体にするイメージで」


 魔力圧縮の訓練は、俺の部屋で行っていた。

 今日は特に動くような訓練はしないため、部屋でも問題ないそうだ。

 先輩は今俺のベッドに腰掛けており、俺はそのそばに立っている。


 白鷺先輩に言われるまま目を閉じて、魔力を圧縮していく。

 魔力を球体へと変形させる。

 ただ、圧縮するときになにかの形にするのは初めてだったので、球体にするつもりだったのだが、凸凹した不格好な球体になってしまう。


「圧縮できたら、今度は圧縮した魔力のムラをなくして、表面に凹凸がない球体にしてみて」


 先輩に言われたとおりに球体の凸凹をなくそうとしてみた。


「ん……?」


 しかし出来ない。

 一つの出っ張りを押し込めると、別の場所から押し出される。

 凹みを膨らませようとすると他の部分が凹んでいく。

 なんだこれ……。


「ふふ、難しいでしょ」


 苦戦している俺を見て、白鷺先輩が微笑む。


「これが私の言ってた、魔力の圧縮が粗い、ってことだよ。これから全ての魔力を均等に圧縮できるようになろうね」

「これ、本当に一週間で出来るようになるんですか? めちゃくちゃ難しいんですけど……」

「大丈夫、要は慣れだよ。幸い星宮くんは一杯魔力ポーションがあって魔力切れになる心配がないから、寝るまで何回も挑戦して慣れていこうね」

「はい……」


 先輩のスパルタの部分が出てきたな……。

 まあ、今日はもうノルマの分は狩りが終わってるし、良いんだけど。


「この均一に魔力を圧縮する、っていうことができるようになると、色々と便利なんだよ?」


 先輩は一つずつ指を折ってこの練習をするメリットを数えていく。


「まず、魔力の効率が圧倒的によくなるでしょ。それに基本的に魔力圧縮で失敗しても暴発する危険性が少なくなるのと……あと、素手で魔法を防げるようになるよ」

「え、マジですか……?」


 前にも言っていたが、素手で魔法を防げるような技術なんて本当にあるのだろうか。


「まあそれは均一に魔力を圧縮できるようになってからだね。まずはきれいな球体を作れるようにならないと。さぁ、張り切って練習していこう。大丈夫、暴発しそうになっても私が散らしてあげるから」

「その、一つ気になったんですけど、魔力圧縮が均一にできるようなったら、どうして魔力の効率が良くなるんですか?」

「魔力が均一に出来てないと、身体とか武器に魔力を通す時に凄くロスが多いの。針に糸を通すときをイメージしてみて」


 言われたとおりに針と糸をイメージしてみる。


「この糸を通す時に、糸が穴をスーって通り抜けていくけど、糸の途中で太くなったり、玉結びになってたら穴を通すのに凄く力が必要で、すんなり通ることはできないでしょ?」

「確かにそうですね」

「魔力もそれと一緒なの。均一な太さじゃないと、魔力を通す時に通すための余計な魔力を使っちゃう。だからこうやって魔力を均一にしなきゃいけないんだよ」

「なるほど、分かりました」


 自分でも驚くほどすんなりと納得できた。

 さすがは先輩。説明まで上手いとは。

 勉強とか教わったらめちゃくちゃわかりやすいんだろうな。

 そんなどうでもいいことを考えていると、先輩は俺が説明に納得したことに満足そうに頷いて、俺に続きを促した。


「じゃ、もう一度やってみて」


 ぴと、と先輩が俺の胸の中心当たりに手を置いてくる。

 そのうえ、なぜかやたらと近い。


「……その先輩?」

「どうしたの?」

「こんなにくっつく必要はあるんですか……?」

「あるよ。だって、魔力が暴走しそうになったらすぐに散らしてあげないといけないでしょ?」

「それなら別に手を握るとかで……」

「前にも言ったけど、こっちの方が魔力を観察しやすいんだよ」


 ……分かっている。

 先輩に特に変な考えはないのだと。

 だがしかし、俺だって年頃なわけで、美人な先輩がこんなに近くにいると緊張してしまう。


「──それとも、私が近くにいたら嫌かな?」

「ちょっ……!」


 口元を耳に寄せて、囁くように先輩が質問してくる。

 やけに艶めかしい質問の仕方と耳に吐息がかかったことで、俺は思わず仰け反った。

 そりゃ嫌か嫌じゃないかで聞かれたら、嫌じゃないと答えるほかないのだが……。


「……別に、嫌ではないですけど」

「じゃあ、このままでも良いよね」


 目が合うと、先輩がニコリと笑った。

 言質を取られてしまったため、先輩は離れずくっついている。


 なんだこの空気……。


「お茶が入りました。どうぞ」


 一瞬空気がおかしくなりかけた瞬間、セレーネが勢いよく扉を開けて入ってきた。

 手にはお盆を持って、カップを三つ机の上に置いた。


「……おやおや、どうしてそんなにくっついているんです? そんなに密着する必要はないでしょう」

「こっちの方がやりやすいでしょ? 魔力を散らさなきゃいけないし」

「そうなんですか。私は手に触れる程度でも十分散らすことはできますが。ああ、出来ないんですか?」

「もちろん出来るけど」

「ではくっつく必要はありませんね」


 満面の笑みを浮かべるセレーネ。


「むー……」


 言い負かされた先輩はぷくっと頬を膨らませる。

 先輩はちょっと不満そうだが、俺としては少し嬉しい。いつ緊張でミスって、魔力が暴発するか分からなかったし。


「それでは私は退室しますが……くれぐれも変なことはしないように。とくにあなた」


 セレーネは最後に指差すと俺の部屋から出ていった。

 俺……? と首を傾げていると、先輩が俺の意識を引き戻した。


「じゃ、再開しよっか。今日までにきれいな球体を作れるようにならないとだよ」

「え、今日まで、ですか……?」


 今日と言っても、今はほぼ夜。

 日付が変わるまで少ししかない。

 しかし先輩は不思議そうに首を傾げた。


「うん、そうだよ? これは基礎だから、これくらいは出来るようになっておかないと。たぶんぶっ通しでやれば出来るようになると思うよ!」


 頑張って! と先輩が胸の前で両手を握る。


「その、魔力圧縮って体力を使うから、流石に何回か休憩を……」

「駄目です。これは魔力を使う体力をつけるための訓練でもあるんだから」


 サーっ、と俺の顔が青くなっていくのが分かった。


「頑張ろうね!!」


 その日、日付が変わる頃まで魔力圧縮の訓練は続いたのだった。

 もちろん、きれいな球体を作れるようにはなった。

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