二人の邂逅
「はじめまして。白鷺朝陽です」
「はい、はじめまして。セレーネといいます」
お互いになぜか「はじめまして」の部分を強調して挨拶するセレーネと白鷺先輩。
その「はじめまして」に色々と裏の意味が隠されているような気がするのは、気のせいだろうか。
二人共にこやかに微笑み合っているのだが……なんでか俺は汗が止まらなかった。
く、空気が重い……。
Aランクダンジョンに初めて入った時に感じた空気より更に重い。別に空気中に魔力が満ちているわけじゃないのに。
「へー、星宮くん、こんなに美人な外国人のお姉さんと住んでたんだね〜……」
「星宮さん、こんなに可愛い師匠さんがいたんですね」
二人は俺の方を見てにこやかに笑う。
まるで初対面じゃないみたいな連帯感だ。
「と、と言うわけで、今日から一週間ほど、先輩が一緒に住むことになりました……」
重い空気を破るために、俺はハハ、と笑いながら白鷺先輩を紹介した。
するとにこやかなセレーネがぐりん、とこっちを向いた。
「ちょっと、ウチの人に聞かないといけないことがあるので、失礼しますね」
するといきなりセレーネは俺の手掴み、リビングへと強引に連れてきた。
ものすごい怖い顔をしたセレーネの前で俺は正座させられる。
「その……」
「なぜ清華さんが家を出た途端に、新しい女を連れてくるんですか? もしかして私の忍耐力を試してるんですか? そうなんでしょう。白状しなさい」
「いや、あの……今回は仕方なくて、師匠に修行をつけてもらうためだけから」
「修行ってなんですか」
「それはその……魔力圧縮のことで」
「そうなんだよ、セレーネちゃん。星宮くんの魔力圧縮の修行をつけてあげないといけないの」
いつの間にか白鷺先輩が近くに来ていた。
セレーネは白鷺先輩に向き直ると、先輩に質問した。
「……魔力圧縮の修行とはなんです? どうして一緒に住んでする必要があるんですか」
あ、セレーネが俺が聞けなかったことを聞いた。
どうして家に来るのかを聞こうと思ったけど、結局圧が強すぎて聞けなかったんだよな……。
「星宮くんの魔力圧縮はまだまだ雑なの。あと一週間で均一に圧縮した魔力を乗せられるようになるには、四六時中練習しないといけないんだよ。でも、魔力圧縮って危険でしょ? だから私がちゃんと付いて、暴発しそうになったときには散らしてあげないといけないんだよ」
先輩は人差し指を立ててセレーネに説明する。
「それなら私だって出来ますが……」
「これは繊細な技術だから。一番近くで星宮くんの魔力圧縮を見てきた私じゃないと出来ないよ」
先輩が「一番」という部分を強調してそう言った。
それにセレーネがピクリと耳を動かした。
「はい? 出来ますけど。毎日、家で見てますから」
「……」
なぜかセレーネは「毎日」という部分を強調して先輩に対抗し始めた。
先輩の眉がピクリ、と動いた。
「へ、へー……そうなんだ。でも、私も毎日星宮くんと朝に合って(会って)るしね。それに師弟っていう、深い絆で結ばれてるし」
「そうですか、私は一生側にいてくれると言われましたが?」
「「はっ?」」
俺と白鷺先輩の声が重なった。
「ちょっと待て、そんなこと言ったか俺?」
「はい、ちゃんと言質は取ってますよ。病院で入院してた時、私と一生連れ添ってくれると、寂しい思いはさせないのだと言いました」
いつもすまし顔のセレーネだが、このときばかりはなぜかふふんと自慢気に胸を張る。
全く記憶がないんですけど……?
「星宮くん、どういうこと……?」
白鷺先輩が首を傾げて聞いてくる。
なんで矛先が俺に向いたの?
俺は慌てて言い訳を始める。
「いや、ちょっと待て! あれは確かそんなんじゃなくて……一人にしないって話じゃなかったか!?」
「それ、意味は一緒では?」
ん?
ちょっと考えてみる。
俺が約束したのは、セレーネをもう一人にしたりしない、ということ。
それは裏返せばつまり、一緒にいるということで……。
……確かに言ってるかも。
「星宮、くん……?」
先輩がぐーっ、と首が折れ曲がる程に首を傾げる。
魔力を圧縮しすぎたせいか、身体にバチバチと帯電し始めた。
いよいよ命の危険を感じるようになってきた。
俺はなんとか話を逸らそうと高速でキョロキョロと眼球を左右させる。
俺の目に飛び込んできたのはキッチンだった。
「と、とりあえず夕食を食べませんか? セレーネのご飯はとても美味しくて……」
「私の前で他の女の話、するんだ」
まずいぞ何か地雷を踏んだ。
「と、思いましたが先に修行をしたいです」
「そっか、じゃあ一旦お庭の方に行こっか」
「ちょっと待ってください。なぜあなたなんですか? この人の魔力は私が管理すると言ってるでしょう」
「私、師匠だから」
「いつも、うちの星宮さんに稽古をつけてくれているようで、一緒に、住んでいる者としてお礼を申し上げます。ですが、魔力の扱いに関しては私も長けていますし、それに四六時中つきっきりなら気心の知れた相手の方が良いかと」
「それなら大丈夫。星宮くんの魔力の扱い方も、身体の動かし方も、癖も全部間近で見て、戦って知ってるから。それに私、Sランク冒険者で魔力圧縮の技術は日本一だから」
「そういうことなら、私は世界最高峰の魔術学院を首席で卒業してますので、世界一の魔力の扱い方が上手いと言えるのではないでしょうか」
バチバチと火花を散らし合う二人。
なんで俺の魔力を監視するだけでこんな争いになるんだ。
その後も二人の舌戦は三十分ほど続き、一日交代で魔力を見ることで決着がついた。




