敗北の味
俺は瓜生たちの前に、魔石を出してやった。
大量の魔石が地面に転がる。
回収するのが面倒だが、魔石を見せずにイチャモンを付けられるよりはマシだ。
「せ、千体……!?」
「そんな数どうやって……」
「ば、馬鹿な! そんなのあり得ない!」
瓜生が叫ぶ。
「いや、普通に狩っただけだけど」
「そんなわけ無いだろ! 千体なんて、そんなの不可能だ!」
「いや、だから出来るって」
「君の実力はSSSレアを装備していてもドラゴンに苦戦する程度……」
「いや、あのときはこいつを使ってなかったぞ」
「は?」
「あのときはSSSレア無しでどこまでやれるか試してただけで、特に能力も何も使ってない」
「そ、そんな……」
「まだ疑うなら動画を見てくれ。これ、さっき先輩からもらったデータだ」
俺はスマホのデータ転送機能を使って、目の前の瓜生へとデータを送る。
瓜生はデータを受け取り、映像を確認する。
そこに映っていたのは、ダンジョンの中を走りながら狩りをする俺だった。
ポーションと思わしき液体が入っている注射器を自分に刺しながら、見えない斬撃で魔物の首を落としていく俺を見て、瓜生は手を震わせる。
「なんだよ、これ……」
「言っただろ。普通に一体ずつ狩ったんだって。地図を確認しながら走り回るの、結構大変だったんだからな」
そこで瓜生は何かを気づいたような顔になった。
「まさか、魔物が全くいなかったのは……」
「ああ、俺が上層のモンスターを全部狩り尽くしたからだ」
「ば、馬鹿な……」
瓜生は思わずそう口にしたが、表情から察するに頭の中では理解していた。
これが出来るなら、モンスターを狩り尽くすのも、不可能ではないと。
ただ一つ、矛盾点があることに気が付いた。
「だが、いくらなんでも一時間で千体はおかしいだろ! 時間的に不可能だ!」
「まあな。でも、途中から魔物が攻撃してこなくなった上に、ご丁寧に一箇所に向かって行くもんだからさ。狩りやすかったよ」
「お前……っ!!」
どうやら、気がついたようだ。
俺が瓜生の集めた魔物を横取りしていたことに。
瓜生はすぐに冷静になり、苦い顔になりながらもどうやったのかを尋ねてきた。
「どうして気が付いて……」
「きっかけは先輩が魔力の流れがおかしいことに気が付いたことだった」
先輩は眼帯で視界を塞ぎ、気配察知のスキルで視界を補って生きてきたため、人よりも魔力に敏感らしい。
「魔物の様子も変だったし、もしやと思って流れをたどったんだよ。そしたら、変な箱を開いてるお前らに気が付いたってわけだ」
まあ、それでも集まるモンスターを先回りして倒すのは結構な重労働だったが。
「そんなの……!」
何か言おうとした瓜生に、俺は先回りする。
「ああ、流石に助言をしてたから反則、なんて言うなよ? 条件にはなかったんだしさ」
「ぐ……っ!!」
瓜生は悔しそうに歯噛みをする。
「だから言ったでしょ、私の星宮くんはすごいんだから。殲滅力だけで言えば──もう私を超えてるよ」
白鷺先輩が、瓜生たちに向かって誇らしげに胸を張る。
「なっ……」
瓜生とその仲間は白鷺先輩の言葉に驚愕していた。
俺は首を傾げて先輩に質問する。
「え、そうなんですか? 先輩の方が上なんじゃないですか?」
「いくら私でも一時間で千体は無理だよ。君みたいに便利な道具もそんなに持ってないし」
言われてみればそうか。
人よりも魔力が少なかったから魔力が尽きないようにしてきたし、殲滅力が問題点だったからその対策をしてきたが、それもこれもすべて神王鍵の中の豊富な資源があったからこそだと言える。
逆に言えば、ほとんどの冒険者は自分の弱点が分かっていても、なかなか克服できないのが現状なのだ。
そういう意味で、俺はとても恵まれている。
「Sランク冒険者よりも、殲滅力が、上……!?」
「うそ……」
「そんなの勝てるわけが……」
瓜生はもはや恐れが混じった目で、俺を見てくる。
瓜生の後ろにいる仲間の三人も似たような反応だ。
「これで、納得してもらえたか?」
「っ……!!!」
どうやら、もう言い返すことは出来ないようだ。
俺は勝利宣言の代わりに、先輩を指さした。
「瓜生、約束だ。先輩に謝れ」
「ぐっ……!」
瓜生は歯噛みをする。
しかしプライドは残っていたのか、自分で受けた条件を覆したりはしなかった。
「……すまなかった。さっきの言葉は撤回する」
拳を固く握り、屈辱に支配されながら瓜生は白鷺先輩に頭を下げた。
「……僕はこれで失礼する」
そして顔を上げると、最後に俺をキツく睨みつけ足早に去っていってしまった。
***
「くそっ! 何なんだよアイツは!!!」
完全に、油断していた。
あの一場面を見て、あれが星宮尊の実力だと思い込んだ。
瓜生はこの負けが、自分の傲慢さが招いたものであることを理解していた。
ただ、二ヶ月前までFランクだった冒険者が、たったこれだけの時間でSランクに匹敵するほどの身につけているなど、常識的に考えてあり得ないことだ。
そういう意味では、瓜生は尊の被害者とも言えた。
そして、瓜生が尊の実力を勘違いした原因は他にもある。
「ね、ねぇ……これからどうするの?」
「カレン……」
カレンが瓜生に尋ねる。
「アイツの実力が本当だったらなら、もうBランクに上がるのを阻止するのは……」
「……」
瓜生は押し黙る。
カレンの言う通り、尊に実力があると分かった以上、瓜生たちが尊の昇格を止める正当性は失われる。
それどころかこれ以上妨害行為をすれば、自分たちの立場まで危うい。
しかし、瓜生のプライドがこのまま負けたままであることを許さなかった。
「っ!」
瓜生は弾かれたようにスマホを取り出すと、とある人物へと電話をかけ始めた。
相手が電話に出た途端、瓜生は怒りを隠さずに怒鳴りつける。
「話が違うじゃないか! 星宮尊はCランク相当の実力しかないって話じゃなかったのか! そっちの情報を信じたからここまでやったんだぞ!」
電話に向かって怒鳴り続ける瓜生に、カレンたちは不安げな目を見つめていた。
「謝って済むような問題じゃないだろ! そっちの誤った情報で僕の立場まで危険にさらされてるんだぞ! なに? お詫びに最後の機会……?」
瓜生は息を吐いて瞑目する。
「……良いだろう。それで手を打とう」
瓜生は電話口の相手にそう言って、ニヤリと笑った。




