勝負の開始
「は? 嫌だけど?」
「えっ?」
俺の言葉に目を丸くする瓜生。
「いや、当然だろ。それ俺に受けるメリットあるか? なんでわざわざお前と勝負しなきゃならないんだよ」
「っ……!」
至極当然のことを、呆れながらユウヤに告げる。
段田の時は、あそこで退けば俺という人間が終わると感じたからこそ受けたのだ。
こいつの勝負を受ける理由も、義理も無い。
するとツインテールの少女、カレンが眦を釣り上げた。
「なっ!? あんたねぇ! ユウヤに向かって何なのよその口の効き方! 先輩に対してちゃんと敬語使いなさいよ!」
「待ち伏せしてくるやつに敬語を使えって? それは無理な話だな」
「っ……」
図星を突かれた瓜生たちが言葉を詰まらせる。
「大方、俺達が最近このダンジョンに潜ってることを聞いて待ち伏せしてたんだろ?」
「誤解だよ、君とここで出会ったのは完全な偶然だ」
瓜生はすぐに平静を取り戻し、ニコニコとした笑顔で誤魔化してくる。
「そんなのどうでもいいよ。とにかく、お前らの勝負を受ける理由は俺にはない。俺達の邪魔をしないでくれ。じゃあな」
俺は瓜生たちを適当にあしらう。
その一切相手にしない態度に、瓜生は眉を顰めて何か言おうとした。
しかし、その前にカレンが俺に対してキレてきた。
「さっきから黙って聞いてれば! 不正してBランクに上がろうとしてるくせに、威張ってんじゃないわよ!」
「そうです! 真面目に努力をしている人間を笑うのは楽しいですか!?」
「ズルして、ユウヤくんの邪魔しないで……」
「はぁ……?」
俺は正直何を言っているのか意味がわからなかった。
不正? 俺が?
俺の昇格を邪魔してるのはこいつらじゃないのか。
「聞き捨てならないな、俺は一度も不正はしていない」
「そう、僕も君が不正なんかしていないと思ってるよ。だから証明して欲しいんだ、分かりやすく、明らかな形でね。たったの一時間で、あの量の魔物を狩ることが可能だったと」
(なるほどな……)
こいつらの狙いが分かった。
どうやら、俺が一時間であの量の魔物を集めることは不可能だと考えているらしい。
分からなくもない。俺は運命切断で超高速の狩りを行っているので、普通の冒険者からすればあの量を一時間で狩るのは不可能に映るだろう。
加えて、こいつらは俺が縛りを課してドラゴンと戦っていた所をちょうど目撃している。
ますますあの量を一時間で狩るのは不可能だと考えるはずだ。
だから、不可能な勝負をけしかけて俺を糾弾しようとしている。
勝負を持ちかけてきたのも、別に勝負自体が重要なのではなく、俺が本当にあの量を一時間で狩れるかどうかが重要なのだ。
「それでも受けないと言ったら?」
「もし受けてくれないなら……こんな疑いをもった冒険者がいる、と皆に知らせてあげるしかないね」
俺が勝負を受ければ一時間であの量を狩るのは不可能だということが証明できて俺を糾弾できるし、受けなければその事実を触れ回って俺が不正をしたことをほのめかし、Bランク昇格を妨害するつもりなのだろう。
俺が瓜生の狙いに気が付いたことに瓜生は気が付いたのか、ニヤリと笑った。
「ああ、それともこの勝負を受けたらなにかまずい理由でもあるのかな?」
……別に、どうでもいいな。
誰がなんと言おうがBランクになるのはほぼ確定みたいなものだし、瓜生がデマを触れ回って変な奴が絡んできても、潰せばいい話だ。
やっぱり無視しよう。
「それで、質問を返すようで悪いけど、俺がその勝負を受ける理由ってなに?」
「なっ、逃げたら君は不正をしたと糾弾されるんだぞ!?」
「まぁ、勝手に騒いどけば?」
「は?」
「前にも言ったが証拠がないならただの言いがかりだ。俺が不正したって言いたいなら、ちゃんと証拠を持ってきてくれ」
ここまで言われて俺が引き下がると思ってなかったのか、瓜生はぽかんとした表情を浮かべた。
しかしすぐに我を取り戻し、俺を挑発してくる。
「くっ! 逃げるってことは、やっぱり不正してたんだな! そうなんだろ! 何の努力もしないで不正をはたらく君は、冒険者としてクズだ!」
「先輩、行きましょうか」
瓜生の捨て台詞を無視してダンジョンへと入ろうとした。
しかしその時。
「ふざけないで」
俺と瓜生の間を冷たい声が引き裂いた。
間に割って入ってきたのは、今まで静かに聞いていた白鷺先輩だった。
めったに取り乱さない先輩が、明らかに分かるほどの怒気を放っている。
「さっきから聞いてれば何様のつもり? 星宮くんはそんな人間じゃない」
「いいや、白鷺さん。君は彼に騙されてるんだ。彼は君の思っている人間じゃない」
「星宮くんはずっと努力してきた。さっきの言葉を撤回して」
「ああ、君は人を見る目がないんだね白鷺さん。どうせ、彼のSSSレアアイテムに目がくらんで弟子にしたんだろ? でも大丈夫、不正が発覚すれば弟子は解消できるから。僕が君をそいつから解放してあげよう」
瓜生は先輩を見下したようにそう言った。
それは、俺にとって聴き逃がせない言葉だった。
「……おい」
「なにかな、星宮尊」
「受けてやるよ、その勝負」
「……なに?」
こいつらに絡まれ続けるのも面倒だ。
手っ取り早く二度と絡んでこないような思いをさせる方が、総合的に時間を節約できる。
そして何より、白鷺先輩を罵倒したのが許せない。
先輩は、俺がゴミだった時から、ずっと変わらず優しくしてくれた唯一の人間だ。
弟子にしてくれたのだって、純粋な好意からだ。
先輩は俺に色んなものをくれた大切な人だ。
その人を貶されて、黙っていられるわけがない。
「俺の大切な人を貶した報いの覚悟をしておけよ」
「ほっ、星宮くん!? た、大切な人って……っ!?」
「その余裕、いつまで持つかな?」
いきなり慌て始めた白鷺先輩と、余裕の笑みを浮かべる瓜生。
「早く行こうぜ、時間を無駄にしたくない」
俺はくい、と顎でダンジョンの入口を指した。
そして俺達はダンジョンの入口から、分かれ道になっているところまでやってきた。
ここならまだ魔物も湧かない。
「一時間で魔物をどれだけ多く狩れるか、だったよな。どうやって不正してないか確かめるんだ」
「この勝負で不正していないかどうかは、これで決める」
瓜生はカメラを取り出した。
ダンジョン配信者がよく使っているものだ。
「これで魔物を倒す様子を確認して、魔石と実際に倒した魔石の数が合っているかどうかを確認する」
「俺はそんなの持ってないんだが……」
「へえ、そうなの? 良ければ余ってるのを貸し出そうか」
「必要ない。私が持ってるから」
白鷺先輩が取り出したのは、小さなカメラだった。
小型化されているためかなり高価なものだったはずだ。
「先輩、配信とかするんですか?」
俺の問いかけに先輩は首を横に振った。
「ううん、これがあれば冒険者と揉め事が起こったときに証拠を撮れるから」
「なるほど……」
カメラを持っているからと言って、配信用とは限らないということだ。
確かに映像として証拠を残せるのは便利だな。
魔科学の機械は高価で手が出しづらかったが、この先のことを考えると買っておくのもありかもしれない。
「私が記録係として同行する」
「……別に良いけど、白鷺さんが手助けするのはナシだよ。動画を確認すればすぐに分かるからね」
「分かってる」
白鷺先輩は頷く。
アイテムボックスから神王鍵や装備を取り出し装備すると、瓜生たちが小さく驚いていた。
「今のってもしかして……」
「まさか、アイテムボックス……?」
「こ、高級アイテムだ、だよね……?」
「みんな恐れる必要はないよ。アイテムボックスを持ってたからって、魔物を倒せるわけじゃないからね」
俺がアイテムボックスを所持していることはネットに出回っている考察から予め知っていたのか、瓜生は冷静だった。
「それで、この勝負に何を賭ける?」
勝負を持ちかけてくるくらいだからもちろん何か目的があるのだろうと思ったのだが、瓜生から返ってきたのは意外な答えだった。
「この勝負では何も賭けない。この勝負は単に、君の実力を測るためのものだ。勝負形式にしたのは、単純に君だけがダンジョンに潜るだけだとつまらないと思ったからだよ」
どうやら何も賭けないらしい。
俺を糾弾できればそれでいいという事だろう。
「ああ、それと最後に一つ。この勝負はBランク選考に影響するみたいだよ」
「お前……」
今それを言うのか。
この勝負、結局損をする可能性があるのは俺だけということだ。
本当に汚い手を使ってくるな。
「些細なことだろ? 一度受けておいて、今さら止めるなんて言わないよね?」
瓜生はしてやったり、といった笑みを浮かべている。
自分の作戦がハマり、これで俺のBランク昇格を阻止できると思っているのだろう。
まあ、それもこれも俺が本当に実力がなかったら、という話なのだが。
「ああ、別に構わない。それと俺も言い忘れてたが」
「なんだい?」
「お前らは瓜生だけじゃなくて、パーティーで狩ってくれて構わないから」
一瞬唖然とした顔を浮かべた瓜生たちは、すぐに怒りの表情になった。
「減らず口を……すぐに化けの皮を剥いでやる」
「それはこっちの台詞だ。早くカウントを開始しろよ」
「言われなくても」
俺と瓜生が同時に録画を開始する。
勝負が始まった。
分かれ道で俺と瓜生のパーティーは分かれて入っていく。
「すみません、先輩。せっかく付き合ってもらったのに、変なことに巻き込んじゃって……」
俺が先輩に謝ると、白鷺先輩はさして気にしたふうもなく首を振った。
「ううん、いいよ別に。……良いことも聞けたし」
「え? 何か言いましたか?」
「別に何も。それより星宮くん、勝負を受けたのは良いけど、勝算はあるの?」
「はい、今から三十分で──」
俺は作戦を白鷺先輩に説明する。
その説明を聞き終わった先輩は、ニッコリと笑った。
「うん、それなら確実に勝てるね」




