勝負の持ちかけ
校舎裏、人気のない場所で。
「クソクソクソ……っ!!!」
瓜生は校舎の壁を殴りつける。
「ユウヤ……」
カレン、ノドカ、コユキが心配そうな顔で瓜生の顔を覗き込む。
「弟子を取っただと!? そんなの一度も聞いてないぞ! 僕が少し目を離した隙に……!」
「ど、どうしたんですかユウヤさん。そんなに取り乱して……」
「取り乱すだって……!? これが取り乱さないわけあるか!」
「ひっ……」
大声を出した瓜生に、もともと臆病な性格のコユキがビクリを肩を震わせた。
しかし瓜生はそんなことは意に返さず、彼女たちに向かって怒りをぶつける。
「白鷺朝陽の弟子の座を奪われたんだぞ! 君なんかにずっと狙っていた座を奪われた僕の気持ちがわかるか!? それもポッと出の、不正まではたらいているようなCランク冒険者に!」
「も、申し訳ございません……」
余りの剣幕にノドカは謝る。
「で、でも、そんなに弟子にこだわらなくても、ユウヤなら他にいくらでもAランクになる方法が……」
「これじゃないと駄目なんだよ! 白鷺朝陽の弟子になれば、社会的な地位も、Sランク専用の設備、情報アクセス権、Sランクダンジョンへ入ることも、全てが手に入るんだ! それに加えて、Sランク冒険者の審査会でも格段に通りやすくなる! 僕が最短でSランクになるには、あいつの弟子になるしか方法がなかったんだよ!」
瓜生は自分の望むものを奪っていった男の顔を思い浮かべる。
SSSレアアイテムを所持して、強い装備で無理やり自分を大きく見せているだけの、ただの格下のCランク冒険者のはずだった。
今まで倒してきた冒険者たちと、なんら変わらないはずだった。
「僕とアイツで、何が違うんだ……!」
尋常ではない様子の瓜生に対して、三人は声すらかけることができなくなっていた。
「僕が狙ってたのに……! 弟子になりさえすれば、白鷺朝陽自身だって手に入れる……」
そこで瓜生は口を閉じた。
誰が話を聞いているか分からない。これ以上はまずいと瓜生は判断した。
変わりに憎悪を、今ここにはいないあの男へと向ける。
「星宮尊ぉ……! 絶対に許さないからな……!!」
怨嗟の声をあげながら瓜生は虚空を睨みつける。
ドス黒い感情が渦巻くその瞳には、殺意すら宿っていた。
その時、瓜生のポケットのスマホが鳴った。
「……もしもし」
瓜生は苛立ちを押さえながら電話に出る。
「ああ、あなたですか。一体僕になんの用でしょうか」
そして電話をかけてきた主と何往復かやり取りをして……
「なるほど……それは良いですね」
ニヤリ、と醜悪な笑みを浮かべたのだった
***
数日後、俺はギルド長から電話で、Bランクの審査について報告を受けていた。
条件通りノルマは達成したので、俺はこれで文句なくBランクに昇格するものだと思っていた。
報告は、俺の想像とは真逆だった。
「は? ノルマを達成したのに、まだBランクの承認が出てないんですか?」
『ああ、すまない星宮くん。なかなか審査会の人間が揃わなくてね……』
それからギルド長に説明を受けた。
審査会は、ギルド長のような立場の人間が集まって審査しているらしい。
その審査会の全員が承認することにより審査対象はランクを上げることが出来るのだが、全員多忙なためまだ審査できていないようだ。
『それより、なんだかきな臭くてね……』
「きな臭い、ですか?」
『ああ、今回の審査会が伸びた原因は、君のBランク昇格に反対していた審査員でね。彼の都合が合わなかったから審査会が延期になったんだ』
俺に魔物を狩るように条件をつけてきた人物が、都合が合わず延期になった。
確かに作為を感じる。
「つまり、故意に引き伸ばされている可能性がある、と?」
『そういうことだ。まあ、次も都合がつかないなら今度は奴抜きで審査会が開かれる。二度と通じない手だし、君は条件であるノルマも達成している。ほぼ確実に次の審査会で通るだろうから、もう少しだけ待っていて欲しい』
「はい、分かりました」
そこで俺とギルド長の通話は終わった。
確たる証拠があるわけではないが、俺がBランクに上がることを妨害してきた瓜生のことを思い出す。
あいつと、この審査会の人間は裏で繋がっている可能性が高いな。
なぜ俺がBランクに上がることをここまで妨害するのかは分からないが、警戒するに越したことはないな、と俺は心に留めておくことにした。
「はぁ……仕方がない。今日もお願いするか……」
そうため息をついて、申し訳無さを感じつつも俺はとある人物にメッセージを送った。
『白鷺先輩、今日も一緒にAランクダンジョンに潜ってもらってもいいですか?』
メッセージはすぐに帰ってきた。
『いいよ! いつものところで待ってるね!』
『ありがとうございます』
俺は感謝のメッセージを送りながら、待ち合わせ場所へと向かった。
Aランクダンジョンの前にやってくると、すでに白鷺先輩がいた。
「すみません、今日も付き合わせちゃって」
「ううん、全然大丈夫。これも師匠の役目だから。それに、星宮くんとならどこにいても楽しいし」
「ありがとうございます」
俺はAランクダンジョンに調査しにきていた。
調査、というのはAランクダンジョンでどれくらい稼げるのか、という調査だ。
前に白鷺先輩とAランクダンジョンに潜った時、いつも俺が金を稼いでいる神王鍵のモンスターダンジョンと同じランク帯のモンスターが出てくることに気が付いたのだ。
ここで狩りをすれば、モンスターダンジョンのように経験値が百分の一になることなく、同様に稼げるのではないかという算段だ。
ただ、モンスターダンジョンと同じようにモンスターが大量に出てくれるかが鍵となる。
モンスターダンジョンはいつも大量のモンスターが出てくるが、普通のダンジョンは日によってモンスターの出現率にバラつきがある。
その日によるバラつきを調べるために、ここ数日は白鷺先輩と一緒にダンジョンに潜っていた。
「ありがとうございます、先輩」
「ううん、全然いいよ。──その代わり」
そうつけ足した先輩が、顔を近づけてきた。
「まず私に頼んでね。間違っても他の子に頼んじゃ駄目だよ? 師匠は私なんだからね?」
「わ、分かってますよ……」
眼帯をしているのに、なぜか圧を感じて俺は一歩引き下がる。
俺が頷くと、先輩はニッコリと笑って俺から離れた。
「じゃあ、ダンジョンに潜り……」
「あれあれ? こんな所であうなんて奇遇だねぇ、星宮尊」
妙に癇に障る声。
振り返ると、そこにいたのは四人組のパーティー。
瓜生優弥と、その仲間の三人だった。
「なんだよ」
俺は友好的ではない表情で用を聞く。
瓜生は俺に対して明らかに敵対的な態度で、後ろの三人も俺を睨んできている。
別にこれくらいぶっきらぼうに返事してもバチは当たらないだろう。
「まあまあ、そう警戒しないでよ。僕は君と仲良くしたいんだ」
「どうだかな」
裏では俺のBランクへの昇格を妨害しているのに、どの口が言っているのやら。
俺が心のなかで呆れていると、瓜生が演技がかった感じで「ああ、そうだ!」と言った。
「良いことを思いついた。せっかくだし、勝負をしてみようよ」
「勝負……?」
「そうさ、今から一時間。僕と君でどれだけ魔物を狩れるか、その勝負といこうじゃないか」
自信満々の笑みを浮かべながら、瓜生は急にそんな勝負を持ちかけてきたのだった。




