いわゆるアイテムボックス
扉を開けると、中は洋館の一室のようになっていた。
ダンジョンだと思って入ってきたので、全く想像とは違う光景に俺は驚いていた。
しかし俺が驚いたのは、それだけではなかった。
目の前にメイド服に着替えている途中の、下着姿の金髪の女性がいた。
豊満な胸、くびれた腰、そしておよそ神話の中の女神のような神秘的な美貌。
最も俺の目を引いたのは、普通の人間よりも尖った耳だった。
その耳はまるでファンタジーによく出てくるエルフみたいだった。
「……あの、いつまで見てるんです?」
金髪の女性はその青い瞳をすうっと細めた。
「すみません……!!」
俺は急いで顔を背ける。
「顔だけじゃなくて身体を後ろを向いてくれません?」
「……すみません」
俺は言われた通りに身体を後ろに向ける。
静かな空間に衣擦れの音だけが響く。
「はい、もう前を向いて頂いて構いませんよ」
しばらくして許可が出たので俺は振り返る。
そこにはメイド服を着た金髪の女性がいた。
身長は170センチの俺より少し低いくらい。腰まである長い金髪はシルクみたいにサラサラで光沢を放っている。
加えて人間離れした美貌と、長い耳。
「なんです? ジロジロと見て」
「あ、すみません……」
鋭く睨まれたので俺は謝罪する。
さっきから謝ってばっかりな気がする。
「えっと、あなたは……俺はこの神王鍵のダンジョンに入ったつもりだったんですけど……」
「……ああ、確かに自己紹介がまだでしたね。これは失礼いたしました」
金髪の女性は姿勢を正すと、腰を丁寧に折り挨拶をしてきた。
「私はこの神王ダンジョンの管理者を務めている者です。名前はこちらの世界の言葉で言えば月光なので、セレーネとお呼びください」
「俺は星宮尊です」
「それでは星宮さんとでもお呼びしましょうか」
「あの、セレーネさん。質問があるんですけど」
「別にセレーネと呼び捨てにしていただいて構いません。というか、してください」
「いや、でもいきなり初対面なのにそれは……」
「あなたは私の主人です。それ相応の態度を取っていただかないとこっちも困ります。ですので、どうぞ呼び捨てにしてください。口調も命令口調で構いません」
「ええ……」
こんな綺麗な人を呼び捨てにするのは憚れたが、彼女の瞳から圧を感じたので俺は仕方なく言われたとおりにすることにした。
主人なのに命令口調を強制されるってどういうことだよ、とも思わないでもないけれど。
「わ、分かったセレーネ。それでいくつか質問があるんだけど」
「いくらでもどうぞ。あなたもここを使うのは初めてでしょうから」
「セレーネは日本の人じゃ……ないよね?」
「はい、そうですね。というか地球生まれでもありません。私の生まれは別の世界です」
「別の世界?」
「そもそも神王鍵を作った神王はもともとこの世界とは別の世界で生まれているので。どこの神話でも聞いたこと無いでしょう? 神王の話は」
「確かに……」
もちろん俺が無知であるという可能性も否定できないが、ダンジョンを作った神話なんて聞いたことはない。
「私の種族はエルフ。不老不死なので神王よりこのダンジョンの管理と運営を任されました。他にご質問は?」
俺は顎に手を当てて他の質問を考える。
「えっと……ここはどういうところなんだ? ダンジョンというのは知ってるんだけど」
「ここは運命から外れた者を次の神王として育成するための場所です。どこの世界にも存在しない世界の外側に存在しているので、運命という世界の理を外れた人間にしか入れません」
「ということはセレーネも?」
「はい、外れていますよ。でないとここに入れないので。他にご質問は?」
さらにセレーネ次の質問を求めてくる。
「ここにダンジョン以外の他の設備はある?」
「はい、ございます。神王の装備が保管されてある宝物庫や、庭園、食堂、研究室、工房などが存在します。もちろん所有者であるあなたが望むなら拡張することも可能ですよ」
「宝物庫……!?」
俺はその言葉に反応した。
「とりあえず、宝物庫に案内してくれない?」
「分かりました。ついてきてください」
セレーネがあるき出したので俺はその後についていく。
廊下には高級そうな絵画や調度品が置いてあり、なんだか豪邸を歩いているような気分にもなった。
「結構広いんだな……」
俺は感想を述べる。
「なんでも揃ってますからね。さて、到着しました。ここが宝物庫です」
セレーネが扉を開ける。
「うわ……」
思わず俺はそう呟いてしまった。
部屋の中には様々な武器や武具、装飾品や何かの薬と思われるようなアイテムが並んでいた。
金銀財宝もある。
圧巻の光景だ。
しかし……。
「思ったより、お金にならなそうだな……」
確かに金銀財宝はあるにはあるが、たぶん売り払ったとしても1000億円には到底届かないだろう。
ちょっとだけ残念だ。
「ここにエリクサーはあるの?」
「ないです」
「そっか……」
宝物庫と聞いてちょっと期待したのだが、エリクサーはないらしい。
俺はがっくりと肩を落とす。
「……ここのやつ全部売れば1000億に届くかな」
武器や装飾品が並んだ棚を見ながら、顎に手を当て考える。
するとセレーネが補足してきた。
「ちなみに、ここあるものは神王鍵と同様、所有者であるあなたにしか扱えないので、恐らく売り払っても大した額にはなりませんよ」
「だよね……やっぱり地道に稼いでいくしか無いか」
そうそう都合のいい話はないということだ。
「はい。ここにあるものはご自身で使われることをおすすめします」
セレーネもこう言っているし、自分で使おう。
「と言っても、俺に使えるのなんてあるかなぁ……」
試しに強そうな剣を手にとって見る。
派手な装飾が施された、柄に宝石が埋まってる剣だ。
「ぐ……重」
しかし重すぎて俺には使えそうにない。
多分、この剣を使うためのステータスが不足しているんだ。
「そうですね。星宮さんのステータスではここにある武器や防具はほとんど使えないでしょう」
「マジか……ここでも才能の無さが邪魔してくるのか」
せっかく強そうな武器や防具ばかりなのに、と考えていると俺はあることに気がついた。
「ん? てか俺のステータス分かるの?」
「はい、魔法を使って見れば一発で分かります」
「なるほど……じゃあ、ここの中で俺が使えそうなやつはない?」
「そうですね……ここにあるものですと。装飾品がおすすめです。要求されるステータスが低いのと、星宮さんの貧弱なステータスを補助してくれるので。あと便利な機能がついているものも多いです」
「な、なるほど……」
サラッと毒を吐かれた気がするが、セレーネの言葉には一理ある。
装飾品とは、指輪や腕輪、ピアスなどのことだ。
確かに防具や武器と違って重くてつけれないということは少ないだろう。
加えて、俺のステータスは同じレベル帯の平均的なステータスよりもかなり低い。
それを補ってくれるというのはかなりありがたい。
「装飾品でおすすめはある?」
「これは必須だと思います」
セレーネがとある指輪を差し出してきた。
俺はその指輪を嵌めてみる。
「これは?」
「アイテムを収納、管理できる指輪です」
「え」
「制限なく詰め込めるのでこれがあればどんなものでも持ち運ぶ事ができますし、念じれば瞬時に取り出すことも可能です」
「ええええっ!? これすごくない!?」
つまりは、この指輪があればバックパッカー要らずということだ。
それだけじゃなくてアイテムや装備の心配もなくなる。
控えめに言って、ユニークスキルレベルの強さだ。
正直に言ってあまり装飾品には期待していなかったけど、予想外の強さだ。
「はい。神王も「これが一番壊れてる」と仰ってました」
「ほ、他には……!? 他に使えそうな装飾品はないの!?」
セレーネに他の装飾品はないのかと質問する。
するとまたセレーネは指輪を差し出してきた。
「これはいかがでしょう。魔力を貯蓄できる指輪です」
「強い! 採用! 他には!?」
「これはいかがでしょう……」
そうして、装飾品にハマってしまい、テンションが上った俺はセレーネに装飾品を選びまくってもらい、つけれる装飾品はすべて身につけた。
その結果……。
「全部の指に嵌めたせいでなんか成金みたいになったけど、まあいいか……」
両手の指すべてに嵌めらた指輪が、ギラギラと光を放つ。
見た目は派手だが、この装飾品のおかげで俺のステータスはかなり強化されているんだから受け入れよう。
ステータスは強さに直結する。
ステータスが弱すぎる俺は、アイテムを使って底上げするしか無いのだ。
これを本当の強さじゃない、という人もいるだろう。
だけど、そう言われたって俺は構わない。
1000億円を稼ぐのが俺の目標なのだから。
「よし、じゃあ準備もできたし今度こそダンジョンに行こう。セレーネ、ダンジョンに案内してくれない?」
「承知しました」
そうして。
俺がやってきたのは広場だった。
石の円柱で囲まれたここにはどういう高仕組みなのか夜空があり、星が瞬いていた。
目の前に大きな石の扉がある。
俺はついに神王鍵のダンジョンの前へとやってきた。
「ここで金を稼ぎまくってやる……!!」
俺はそう呟いて、扉を見据えたのだった。