危険な直感
瓜生は背後にダンジョンにもいた三人の女子を連れていた。
上履きの色は──緑。
こいつ、三年だったのか。
どこかで見た顔だと思ったが、納得した。
同じ学校で同じギルドの冒険者。どこかで顔を見ていたのだろう。
「星宮くん、どうしたの……?」
白鷺先輩は俺と瓜生の間に流れた険悪な空気を感じ取って、首を傾げる。
「せんぱ……」
「やあやあこれは白鷺さん! こんなところにいたんだね!」
俺が口を開く前に、瓜生が大げさな口ぶりで白鷺先輩に話しかける。
「ちょうど一緒に御飯をたべないか、って誘うつもりだったんだよ! でも教室に行ってもいなくて、どこに行ったのかと思ってたよ」
「ごめんなさい。今日は星宮くんと食べるつもりだから」
白鷺先輩は丁重に瓜生の誘いを断った。
ぴくり、と不機嫌そうに眉を動かした。
いつもの三人は瓜生の背後にいて表情が見えていないし、白鷺先輩は気配察知のスキルがあるとはいえ、さすがに些細な表情の変化は感じ取れないから、瓜生の表情が見えたのは俺だけということになる。
「白鷺さん、どうして彼と一緒に……?」
ちらり、と瓜生は白鷺先輩に視線を向ける。
その視線にはいろいろな感情が渦巻いていた。
主な感情は嫉妬だろうか。
俺はそれを察知した瞬間、白鷺先輩の前に身体を割り込ませた。
「なに、君。今は僕と白鷺さんが喋ってるんだけど。それとさ、敬語使ったら? 一応僕、先輩なんだけど」
瓜生は笑顔を浮かべながら、しかし不機嫌の色を隠そうともせずにそう言ってくる。
しかも昨日の丁寧な態度はどこへ行ったのやら、俺が歳下だと知った途端、高圧的な態度になっている。
「関係ない人は話に加わって来ないでくれる……」
「関係なくはないよ。だって星宮くんは──私の弟子だから」
「はっ?」
瓜生が衝撃を受けたように固まった。
「彼が……弟子?」
わなわなと震える手で瓜生は俺を指差す。
「まさか……本当に? 制度上でも弟子になったの?」
「そうだよ」
「っ……!」
瓜生は一歩後ずさると、ギリ、と歯を噛み締めて俺を睨みつけてきた。
「Bランクの僕は断ったのに、なんでCランクのそいつを……!」
瓜生は黒い感情をにじませてそう呟く。
恨み、嫉妬、憎しみ……それらが混ざった、ドス黒い感情だった。
「ユウヤ……」
後ろの三人が瓜生の制服の裾を引く。
するとハッと我を取り戻した瓜生は、まるで何事もなかったかのように笑顔に戻った。
「そうなんだ、弟子を取ってたんだね。驚いたなぁ。おっと、ぐずぐずしてると昼休みも終わっちゃうね。僕はここで失礼するよ」
「ユ、ユウヤ……」
「待って……ユウヤくん……」
足早に去っていく瓜生を、三人は慌てて追いかけていく。
その背中を見送りながら、俺はため息をついた。
「なんなんだよ一体……」
「ごめんね、星宮くん」
「いや、白鷺先輩のせいじゃありませんよ」
俺からすれば勝手に絡んできて取り乱したくせに、なぜか恨みがましい視線を向けてどこかへ去っていっただけだ。
さっきの瓜生の言葉が気になったので、俺は質問してみる。
「そういえば、さっき瓜生が言ってた「自分のときは断ったのに」って、どういうことなんですか?」
「ああ、それは……昔、半年くらい前に瓜生くんから「弟子にしてくれないか」って頼まれたことがあったの」
「へー、そうなんですね」
普通の相づちのつもりだったのだが、先輩はなぜかハッ! と口を押さえる。
「も、もちろん断ったんだよ? 今まで取った弟子は星宮くんだけだし、私は星宮くん一筋だからね?」
そして慌てた様子で白鷺先輩が言葉を重ねる。
なんだか言い訳しているみたいだ。
「もちろん分かってますよ。弟子制度で取れるのは一人までですからね」
「……」
「どうしたんですか白鷺先輩」
「……なんでもない」
白鷺先輩が頬を膨らませた。どういうこと?
俺は話題を変える。
「でも、どうして断ったんですか? 十代でBランクってことは、かなり才能がある方じゃないですか」
「そうなんだけどね。そのときは自分のことで精一杯だったし……それになんか良くないものを感じて」
「よくないもの? 悪い運命が見えたとかですか?」
「ううん、そうじゃなくて直感的にそう悟ったんだよね」
直感。
いわゆる勘のことだが、案外勘というものは馬鹿には出来ない。
俺だって直感でギリギリ攻撃を躱したりすることが出来ているのだから。
世間の冒険者の中にも直感で命を救われたり、危険を回避できたことがある経験を持つ人間は多い。
冒険者にとっては大切な感覚なため、勘と聞いて頭から否定する人間はあまりいない。
「彼を弟子にするのは何か危ない気がする、そう思ったの」
「……」
俺の印象では、瓜生はそれほど警戒しなければならないという感じではなかった。
だが白鷺先輩の直感が間違っているとは思えない。
白鷺先輩が警戒するような何かが、瓜生にはあるのだろう。
「それに、彼女たち……」
少し考え込む白鷺先輩。
「あの三人がどうしたんですか?」
「あっ、これはあまり関係ない話で、私のただの勘違いかもしれないけど」
そう前置きをして、先輩は話し始める。
「彼女たち、半年くらい前まで瓜生くんと仲が悪かった気がするんだよね……」
「でも、今は一緒にパーティーを組んでるみたいでしたけど……」
「そうなんだよね、いつの間にか仲直りしたのかな? あんまり学校来てないから分からないや」
先輩はSランク冒険者ということで多忙なため、学校に来る頻度は俺と一緒くらいだ。
俺の登校頻度が少なくてもあまり問題が起きないのは、白鷺先輩という前例がいるからでもある。
そういえば、最近登校するとよく白鷺先輩がいるが、気のせいだろうか。
まあいいか、とりあえずあの瓜生は警戒するべきだ、というのは分かった。
「俺も警戒しておきます」
「うん、それが良いと思う」
俺達師弟は頷きあう。
雰囲気を明るいものにするために、俺は話題を変えた。
「それよりも、屋上に行きましょう」
「そうだね、早くしないと昼休みが終わっちゃう」
白鷺先輩もそれに応じるように、ことさら明るい口調でそう言った。
そして、俺達は屋上へと向かったのだった。




