難癖と冤罪
ドラゴンが塵となって消えていく。
俺はアイテムボックスに神王鍵をしまった。
「これでノルマは終わりだな……」
Bランク冒険者へと試験としての、魔物のソロ討伐は完了した。
たった十分程度だったが、あの瓜生とかいう冒険者のせいで余計な時間を取らされた。
最近はああいった変な輩に絡まれることも少なくなっていたので、ああいったピリピリした雰囲気も久しぶりな気がする。
俺はBランクダンジョンを出て、ギルドへと向かう。
別にわざわざギルド長のところまで行く必要はないだろう、と判断したので、俺は受付に魔物のリストと素材を持っていくことにした。
「ご用はなんでしょうか」
「リストの魔物を全て狩ってきたので、ギルド長に伝えてください。これがリストの魔物の魔石です」
そして受付で、大量の魔石をアイテムボックスから取り出す。
すると大きな疑問の声が飛んできた。
「は?」
声の方向を向くと、そこにはさっき横入りしてきた冒険者、瓜生がいた。
その後ろには瓜生のパーティーにいた女子三人もいる。
瓜生は受付嬢に渡している魔石を見て、信じられないものを見るような表情で固まっていた。
「待て待て待て、これはどういうことだ! おかしいじゃないか!」
瓜生が俺の元へとやって来て、いきなり難癖をつけ始めてきた。
そして瓜生は俺が提出した魔石を勝手に手に取り、見聞し始める。
「ドラゴンの魔石が……四つ!? どうやってこんなの……」
「おかしいって、どういうことだ」
俺が問いかけると、瓜生はキッと睨みつけてきた。
「これは本当に君が自分で狩ったものなのか!」
「そうだけど」
「嘘を付くな!」
いきなり瓜生は俺の言葉を嘘だと断定し、糾弾してくる。
面倒くさい……俺が何をしたって言うんだ。
「言いがかりは辞めてくれ。これは正真正銘俺が自分で狩った魔物から取った魔石だ」
「それがありえないと言っているんだ! こんな量の魔物を、たった一時間で狩りきれるはずがない! 君はドラゴンにだって苦戦していたはずだ!」
……コイツ、なんで俺がダンジョンに潜っていた時間を把握してるんだ?
ダンジョンに潜っていた時間を測るなんて、俺がダンジョンに潜り始めた時間を把握していないと不可能だ。
……きな臭くなってきたな。
「なんの話か分からないんだが……なんで俺が審査会から魔物のリストを渡されていたことを知ってる?」
「それは……」
瓜生は目を泳がせる。
この態度と、横入りしてきたこと、そして俺がダンジョンに潜っていた時間をバッチリ把握していることから、俺はある可能性に気が付いた。
こいつ……まさか、俺のことを妨害しようとしていたのか?
それなら、あの無茶苦茶な獲物の横取りに納得も行く。
となると、その後あっさり引いたのは自分に縛りを課しながらドラゴンと戦っていたのを見て、当分Bランク昇格はないと踏んだからだろう。
「もし不正だと言うのなら、もちろんその証拠はあるんだろうな? 答えてくれ」
事実無根の不正を大声で糾弾されて、黙っているわけにもいかない。
俺は瓜生の目を見据えて言い返した。
「それは……」
瓜生が言葉を詰まらせた。
「ユウヤ……」
確かカレン、と呼ばれたツインテールの少女が、瓜生の服の裾を引く。
それにより、瓜生はハッと我に返った。
そしてあたりを見渡し、自分の形勢が悪いことを悟ると、すぐに手のひらを返した。
「すみませんでした。気が動転してしまい、大変失礼なことを言ってしまって……星宮さんを貶めるつもりはなかったんです」
瓜生はさっきダンジョンで出会ったときと同じく、申し訳無さそうな表情を浮かべ、深く腰を折り曲げて謝ってくる。
「そんなんで済むと思ってるのか? 俺は公衆の面前で冤罪を着せられたんだが」
「本当にすみません……! でも悪気はなかったんです……!」
「……」
俺を妨害した、というのは状況証拠だけだ。ギルドから罰則を与えたり、糾弾する事はできない。ここで問い詰めてもしらばっくれるだけだろう。
こいつに構うだけ時間の無駄だな、と俺は結論付けた。
リストに乗っている魔物は討伐し終わったのだから、もう妨害しようがないだろうし、顔だけは覚えておくことにしよう。
あと、最後に一つ仕返しもしておくか。
「人の足を引っ張る暇があったら、自分の実力を磨いたらどうだ?」
「……っ」
頭を下げている瓜生の肩を、ポンと叩き、瓜生にだけ聞こえる声でそう言った。
瓜生の肩が、少しだけ動いた。
俺はそれだけ言って、用事も終わっていたのでギルドから立ち去った。
***
「くそっ、どうなってるんだ……!」
「ユウヤ……」
瓜生たちはギルドから出て少し離れた所で、悪態をついていた。
カレン、ノドカ、コユキの三人は心配そうな瞳で瓜生を見つめている。
「どうやってあんな量の素材を用意したんだ……!」
「私達が追いつこうとしてる間に、魔物を狩ってたとか?」
瓜生たち四人は、尊がBランクダンジョンに潜ったという報せを受けて、慌ててそのあとを追いかけた。
尊の攻略スピードが早かったせいで、瓜生たちは尊に追いつくまでの一時間、尊がダンジョン内で何をしていたのかを知らなかった。
「いや、それはありえない」
首を振って瓜生は否定する。
「白鷺朝陽なら間違いなく出来るだろうけど、彼にはそんな実力はなかった。一時間であれだけの量を狩るなんて、僕にだって無理だよ」
「ユウヤに無理なら、アイツはどうやって……」
「それが不思議なんだ…………考えろ、絶対に何かトリックがあるはずだ」
瓜生は苦い顔で顎に手を当て、考え込む。
そして、ぴくりと眉を動かした。
「……そうか」
瓜生は顔を上げる。
「なにか分かったの?」
「ああ、全部分かったよ。彼がどうやってあの量の魔石を用意したのかが」
「ほんとうですかっ!?」
「なんてことはないトリックだよ。あれはギルド長が用意したんだ」
「あ、そっか……」
「そう。ギルドには買い取られた大量の魔石が一時的に保存されている。ギルド長がリストを受け取った後に、星宮尊へギルド内の魔石を渡したんだ」
「じゃあ、ギルドの中の魔石の買い取り量と本当の魔石の量を調べれば……」
「そう、矛盾した数字が見つかるはずだ。これは明確な不正の証拠になる」
「じゃあ、すぐに調べに……」
「いいや、真正面から教えてくれと言っても多分無理だ。職員がギルドの書類を僕たちに渡すはずがないからね」
「そうよね……」
「それに多分、不正を訴えたところでもみ消される可能性が高いだろうね。あの元Sランクのギルド長はかなりの権力を持ってるみたいだから」
「そんなの……ひどすぎる……」
「じゃあ、私達のしてることに意味なんて……」
光明が見えたと思いきやすぐに閉ざされてしまったことで、三人はまた落ち込んだ。
しかし瓜生は明るい顔で首を振る。
「いや、意味はあるよ。僕たちは彼が不正したことを知っている。それだけで十分彼に立ち向かえる」
「そうね……そうよね!」
「なんだか元気が出てきました……!」
「瓜生くんの……言う通り……!」
顔が明るくなった三人に対して、瓜生は頷く。
「それに任せて、この件は少し僕の方にも考えがあるんだ。彼がBランクに上がるのも──まだ阻止する方法はある」




