マナー違反の横入り
運命切断を使うようになって、しばらくしてからのことだった。
ある日を境に、相手の運命が感じ取れるようになった。
運命を感じ取れると言っても、白鷺先輩のように未来を観測できるわけでもなく、ただあることが知覚できる、といった程度だ。
生物や物質の中にある、細い糸のようなもの。
この運命を全て切るのではなく、特定の運命だけを切ればなんとかなるのでは……と考えていたのだが。
「う〜ん……清華ちゃんの身に危険が迫る兆候は見えないけどなぁ……」
「え、そうなんですか?」
白鷺先輩が眼帯を上げて金色の瞳を露出し、清華を見つめている。
毎朝の修行の後、俺は白鷺先輩に事情を説明し、清華の運命を見てもらっていた。
「本当にないですか? 清華が何者かに襲われる可能性があるらしいんですけど」
「それらしいものは見えないかな」
「うーん……」
俺達は首を傾げる。
「……実は騙されてたとか?」
俺は最悪の可能性の一つを上げる。
もしそうだったとしたら、凛華も清華も的はずれな予言のせいで人生を狂わされたことになる。
それはあまりにも救いがなさすぎる。
だが、清華の死相を見た人物の能力自体は魔女も太鼓判を押してたし、凛華も色々と確かめたうえで回避しようとしていたわけなので、正直騙されていたとは考えづらい。
「うーん……そうじゃなくて、多分お姉さんが頑張ったから、運命が変わったんじゃないかな」
「それなら良いんですけど……」
俺達はその後色々と考えてみたが、結論は出なかった。
そのため疑問を残したまま一旦その場は解散となった。
***
「さてと……」
いつもの装飾品をじゃらじゃらと身につけてやって来たのは、Bランクダンジョン。
とある目的を果たすためだった。
それは今日、毎週の魔物の素材を売払にギルドに行ったときに遡る。
「ああ、そうだ。星宮くん、Bランク冒険者に昇格できるぞ」
「え?」
俺は思わず耳を疑った。
「ただし、条件付きでだ」
「条件ですか?」
「ああ、審査会の一人に、頑なに君をBランクに上げたがらない男がいてな。そいつが条件を押し付けてきたんだ」
そう言ってギルド長は紙を差し出す。
そこには俺がBランクに上がる条件が書かれていた。
「ドラゴンソロ討伐三体に、その他魔物合わせて数十体、おまけにBランクダンジョンのソロ攻略ですか。これはまた……」
「そうだ。楽勝だろう?」
「そうですね」
普通のCランク冒険者なら、一ヶ月程度かけてやっと達成できる条件かもしれない。
そもそも、ソロで格上の相手を倒すことなんて不可能だから、俺がBランクに上がることに反対している人間は、きっとこの条件を無理難題だと思っているのだろう。
ただ、俺が運命切断というズルを持っているのが誤算だった。
「Bランク冒険者になれば、Aランク冒険者への道ができ、そして晴れてAランクダンジョンにソロで潜れるようになる。頑張ってきたまえ」
ということがあり、俺はギルドに来たその足でBランクダンジョンに来ていた。
面倒くさいことは早くすましてしまおう、という寸法だ。
「まぁ、普通に踏破できるだろうな」
指輪の調子を確かめながら、俺はそう呟く。
これは油断でも過信でもなんでもなく、ただ単に俺の中の情報と照らし合わせて大丈夫だと結論付けた結果だ。
魔力ポーションのストックは十分にあるし、運命切断で倒せば一時間程度でノルマを達成できるかもしれない。
ただ、ダンジョンの中で人と出会った時だけ運命切断を使うのは気をつけよう。
未だに秘密にしている情報ではあるからな。
ダンジョンの中に入る。
さすがはBランクダンジョンというだけ合って、入った瞬間から濃密な魔力を感じる。
濃密な魔力はまるで空気に重さが付いたのかと錯覚するほどだ。
Sランクダンジョンになると、どれくらいの魔力をかんじるのだろうか。
ダンジョンの中を進んでいく。
順調にノルマの魔物を倒し、あと残すはドラゴン一体と、魔物数匹になった。
集まった戦利品を眺めながら俺は呟く。
「なんか……ドロップ品が多いな」
通常だと魔物からの魔石以外のドロップは三割程度になるが、俺の場合は八割程度ドロップしていた。
恐らく俺の嵌めている具現の指輪の効果だ。
「具現の指輪って、現実のドロップアイテムにも反映されるんだな……」
考えてみれば当たり前なのだが、一体どういう原理なのだろうか。
「これだけドロップするなら日本のダンジョンで狩りをするのも良いかもしれないな」
と、そこで俺は歩みを止める。
「やーっと現れたか……」
目の前に現れたのはドラゴン。
ちょうどいい、と俺は自分の実力を図ることにした。
運命切断を使わずに、コイツを倒す。
白鷺先輩に稽古をつけてもらったり、清華や凛華と戦っていることでかなり実力は付いているはずだ。
神王鍵を構える。
一閃。
目にも止まらぬ速さで駆け抜けた俺は、ドラゴンの首をかき切った。
プシュッ、と音を立て、ドラゴンの首についた小さな切り傷から血が吹き出す。
「さすがに硬いな……っ!!」
首を両断するつもりが、浅めの傷になってしまった。
「────ッ!!!!」
「おっと」
ドラゴンが叫び、暴れ出す。
地面に着地した俺に前足が振り下ろされ、俺はそれを余裕を持って回避した。
人間を遥かに超えた筋力と、鉄板でさえズタズタに切り裂いてしまうその爪によって、ダンジョンの床がひび割れた。
ドラゴンは俺が避けたのを見て、ブレスを放とうとした。
俺はその前にドラゴンの胴体の下に潜り込み、前足二本を斬り、ドラゴンにとっての腱の部分を切断する。
「──ッッ!!!」
ドラゴンが体勢を崩す。
そして首を先ほどつけた傷から頸を断とうとした時。
高速で光の槍が到来し、ドラゴンの頭を貫いた。
頭部を魔法で貫かれたドラゴンは地面に倒れ込むと、塵となっていく。
「はぁ?」
塵となっていくドラゴンを見て、俺は眉根を顰めた。
獲物の横取りは明確なマナー違反だ。
それに加え、あわやドラゴンの下敷きになるところだった俺は、怒りを込めてそいつを睨みつけた。
「どういうつもりだ。獲物の横取りはマナー違反だろ」
「いやいや、これは申し訳ない。苦戦しているように見えたので」
そこには、薄っぺらい笑みを浮かべる男と、その仲間が立っていた。




