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魔女への頼み事

「あらあら。英雄気取りのお上りさんがまた寿命を縮めてるみたいね」


 凛華が俺の血だらけの身体を見て、目を細めて笑う。


「そんな死に体で、本当に戦えるのかしら」


 凛華の言う通り、俺の身体はボロボロだった。

 何箇所も穴が空き、そこから血が流れ、今も脳には薬で中和しきれなかった痛みが危険信号を鳴らし続けている。

 反魂の秘薬を使ってなかったら、今頃失神しているだろう。


「どうかな。お前だって、もう魔力は尽きかけてるだろ」

「……」


 凛華はただ不快そうに眉根を顰める。


「そう言えば清華との戦いを見て分かったんだが」

「なんのことかしら」

「尻尾を失えばステータスの九倍化は失われる。そうだろ?」

「っ……!!」


 凛華が苦虫を噛み潰したような表情になる。


 さきほど凛華が言っていたことだ。

 強力なアイテムほどそれに応じたデメリットが存在する。


 尻尾を失った後の清華との戦闘では、一度も扇子で攻撃を受けることをしなかった。それどころか、無理な回避まで行っていた。

 戦いが始まった頃は俺や清華の戦意を削ぐために、わざと扇子で攻撃を楽々と受け止め、ステータスの差を見せつけていた凛華が、だ。


「お互い、ようやく化けの皮が剥がれたな」

「この……っ!」


 俺は好戦的な笑みを浮かべ、神王鍵を構えた。


「さぁ──ラストバトルだ」

「…………ふぅ」


 凛華は怒りを抑えるように深呼吸すると、一筋の風が吹いた。

 着物が塵となって消えていく。

 その下から現れたのは、袴姿の凛華。

 そして手には今まで使っていた扇子とは違い、薙刀を握っていた。


「舐めないで頂戴、Cランク風情が。魔力がわずかでも貴方なんか倒せるわ」


 凛華が薙刀を構える。

 その構え方はただの付け焼き刃ではない、血と汗が滲むような修練の跡を感じさせた。


「叩き潰す」

「こっちの台詞だ」


 剣と薙刀が交錯した。

 手に返ってくる衝撃から、俺は自分の予想が間違っていなかったことを悟った。

 やはり凛華のステータス九倍化は失われている。

 そして一応知恵の指輪を使って凛華のアイテムを見てみたが、薙刀にも袴にも特段注意するべき効果はない。

 ただ、薙刀は耐久度、切れ味が非常に高いBランクの武器だ。武器の破壊は望めないだろう。


 現時点で、魔力リソースは回復が出来る分、俺のほうが有利。

 相手も魔力の回復手段があるかもしれないが、それならなぜ今回復していないのかという疑問が生まれる。つまり、相手は魔力を回復できないと考えるほうが自然。

 体力はあちらの方が余裕がある。

 ステータスも俺の方が劣っている。


 なら、魔力圧縮を使って攻撃を畳み掛け、早く決着をつける。


 魔力圧縮で威力を高めた一撃を振り下ろす。凛華はそれを薙刀の柄で受け止めた。


「くっ……!」


 ステータスが劣っているとはいえ、魔力圧縮で上回ることが出来る範疇だ。


 剣と薙刀を打ち合う。

 金属がぶつかる音が、蒼穹の世界に響く。

 凛華は押され気味で、防戦一方だった。


「どうした! 仮初の命に頼り切ってばっかりだったから怖いのか! ほんとうの意味で自分の力だけで戦ったことがないんだろ!」

「ぐ……っ!」

「魔力圧縮すら使えないのか!?」


 その言葉に凛華は歯を噛み締めた。


「舐める、な……っ!!」


 押し返す力が、膨らんでいく。

 凛華は魔力圧縮をしたとき特有の現象である、帯電をしていた。


「魔力圧縮ぐらい使える! 清華が、魔力すら使えないと分かった時に真っ先に調べた技術だ! 清華には才能がないんだと伝えるために!!!」

「そこまでして、なんで清華を縛ろうとする!!」

「分かるわけない! あなたなんかに、分かるわけがない!!!」

「いいや、分かる!」


 凛華が瞠目する。


「清華の才能を折るのは、清華を守るため、そうだろ!?」

「え……?」


 清華が困惑した声を上げた。


***


『さて、調査の結果を伝えよう。『なぜ橘凛華は橘清華をあそこまで縛るのか』だったね』


 電話口の魔女がそう言った。


「ああ、早く教えてくれ」

『結果から述べると、明確な理由自体は掴むことができなかった。しかし、きっかけとなった出来事は見つかった』

「きっかけとなった出来事?」

『彼女の両親の葬式の日、橘凛華が十二歳、橘清華が八歳の時、とある人物が尋ねてきた。そしてその人物は清華を見て、『十年後に死ぬだろう』と予言を残したそうだ』


 魔女の言葉を聞いて、眉根を顰める。


「その予言が本当の証拠はどこにあるんだ? なんでそんなものを信じたんだよ」

『その男は特殊体質でね、人の死相を感じ取ることが出来るんだ。私もそいつを知っているから保障するが、その男の死相ついての予言は百発百中なことで有名だ。恐らく凛華もそれを知っていたんだろう』

「どうしてそれが清華を縛ることに繋がるんだ」

『そこまでは分からない』


 ここに来て手詰まりか……と思った瞬間、魔女が『だが』と続けた。


『ここからは私の憶測が混じっているが……恐らくその男は死相に関して、清華の才能に関することに言及したんじゃないかと私は予想するね。調子に乗って死ぬと言われたのか、それともその才能を狙われると言われたのか……。ともかく、清華はその才能に身を滅ぼされると予言された』

「だから、あんな風に清華の気持ちも、才能も折ろうとしてきたのか?」

『才能によって死ぬと予言されたのだから、それを折ろうとするのは自然な考え方だ』

「……なんだよそれ」

『声が怖いよ、星宮尊』

「当たり前だろ。いくらなんでもあんなやり方許される訳が無い。落ち着いて考えればもっといい方法が……」

『まぁまぁ、ちょっと落ち着いて考えてみたらどうだ?』

「はぁ?」

『橘凛華はまだ十二歳だったんだぞ? そんな子供がどうやって正しい方法を選び取ることが出来る?』

「……あ」

『加えて、その日は彼女の両親の葬式があった日だ。私も味わったことがあるから分かるが、最愛の人を失う悲しみは身を引き裂かれるような辛さを伴う。あれを再び味わいたい人間なんてそういない。君だってそうだろう』

「……」


 言い返すことが出来なかった。

 俺だって両親の死を経験したからこそ、妹の綾姫のためにここまで踏ん張れているのだから。

 俺を動かしているのは、最愛の人を失う恐怖心だといっても過言ではない。


『だからこそ、そんな日に唯一残された肉親が死ぬと聞いて、また再びこの悲しみを味わうのかと恐怖に駆られた橘凛華は、橘清華の才能を折ることにした』

「……」

『裏を返して考えてみたら、実に素敵な話じゃないか。あれだけやっきになって橘清華の心を折ろうとするのは、彼女に絶対に死んでほしくないという気持ちの現われだろう? 美しい姉妹愛だ』


 そこまで言って、魔女は『さて』と切り替えた。


『私から言えるのはここまでだ。あとは君がどうするか決めろ。ああそうだ。もちろん、これまでの話は私の憶測が混じっていることも覚えておいてくれ』


 魔女はそう言って話を締めくくる。


「……ああ」


 電話を切ろうとした瞬間、魔女が言葉を続けた。


『一つ。助言を』

「助言?」

『運命というものは変えられるものだ。君のようにね』

「おい待て、なんでそのことを知ってる」

『さてね、どうしてだろう』


 煙に巻かれて、俺は顔をしかめる。

 その言葉を最後に、通話は切れた。

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― 新着の感想 ―
[一言]  毒親ならぬ毒姉だし、守るためだとしても やってる諸行が許せる訳では無いんだよな……
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