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奥の手『竜人化』

前回投稿した話を削除し、主人公が反撃するところまで改稿したものを投稿し直しました。



「どうしてだ!」


 俺は凛華に問いかける。


「なんで俺の装備の名前を知っている! これは公表したことなんてないんだぞ!!」

「ああ、そんなこと」


 凛華はなんてことのないような表情でそう言うと、ぱちんと扇子を閉じた。


「そんなもの、前に檻に閉じ込めてあげたときにいくらでも調べる機会があったでしょうに。

「くそ……っ! あの時か……!」


 恐らく、気が付かないところで仙術を使われていたのか、檻自体にそういう能力があったのだろう。


「Sランクのくせに、騙し討ちだったり、やることが卑怯なんじゃないか」

「言ったでしょう、もう油断はしない、と。出回っている情報は完璧に調べさせてもらったわ。ネットに上がっている動画だって、ね。──虚飾の英雄くん」


 そう言って、凛華は俺をギルドでの呼び名で俺を呼んだ。


「そういうことかよ……」


 凛華が俺が一度も出していない武器まで禁止できたことに納得がいく。


「でも、確かにそうねぇ……格下の子供相手にここまで容赦がないというのも、大人気ないかしら。──ああそうだ、じゃあ一つ教えてあげましょう。ハンデにね」

「ハンデ?」


 凛華に似つかわしくない優しげな声と言葉に、俺は眉根をひそめる。


「私がこの世界で禁止できるのは九つまで。禁止できるのはいつでも自由に変更可能よ。気をつけることね」

「……お気遣いどうも」


 俺は嫌味を返す。

 能力を使った後で気をつけろなんて、無駄な知識以外の何物でもない。


 やっぱりコイツ、俺を舐めている。


 油断してはいないのだろう。だが、その上で格下だと確信しているのだ。

 今、ハンデとか言い出したのも良い証拠だろう。


 舐められている。軽んじられている。

 その事実を自覚した途端、頭が急速に冷えて、そして胸の当たりで炎が燃え上がるような感覚に襲われた。

 ……その余裕ぶった笑みも、全部ぐちゃぐちゃにぶっ潰してやる。


 俺は、自分が弱者ではないと証明しなければならない。


「さてさて、それじゃあ始めましょうか」

「ああ」


 俺が神王鍵を構える。


「尊さん、私も一緒に……」

「清華、あなたは黙ってみてなさい。そしてこの男が私に負けて、無様に命乞いをしているところを見て、反省するのよ。私に逆らったことをね」

「っ! 私だって……!」


 清華は妖刀『廻灼』を取り出そうとした。


「清華っ!!」


 凛華の激昂した声に、清華がびくりと肩を震わせた。

 青い表情。さっきまでの戦意は消失し、完全に萎縮してしまっている。

 しかしすぐに凛華はにこにこと笑顔に戻る。


「そうよ、あなたは弱いんだから戦う必要なんてないの。そこでしっかりと見ていなさい。弱いことは罪であるということを」


 俺は魔力を圧縮し、駆け出した。


***


 十分後。


「やっぱり、勘違いしてるみたいね」

「はぁっ……はぁっ……」


 俺は血まみれになって、凛華の前に立っていた。


「ごほっ……」


 咳き込むと、口から血が溢れ出た。

 顔を上げるとそこには傷こそ負っているものの、俺と比べてまだまだ余裕な凛華が立っていた。


「ステータスの九倍化って言ったでしょう。今のあなたはステータスが半減しているんだから、実質二十倍以上ステータスが開いてるのよ? 赤子と大人くらいの差があるわ」


 天と地ほど離れたステータス差は、残酷だった。


 ドスッ。脇腹に衝撃。

 九尾の尻尾が、俺の脇腹を貫いていた。

 焼けるような痛みが襲ってくる。


「ぐ……っ!」

「これだけのステータス差があって、これだけ傷つけることが出来たのは褒めてあげるけど……私の命は一つも削れなかったわね」


 尻尾が脇腹から引き抜かれ、俺は水面の上に膝をつく。

 脇腹にい空いた穴から、血が流れ出てくる。

 しゅるしゅる、と首と手と足を尻尾が掴んで拘束し、俺を宙に持ち上げた。


「大口を叩いた割りには、あっけなかったわね。所詮は、『虚飾の英雄』ね」


 凛華が俺の戦士の指輪を仙術を使って抜き取る。

 指輪は空中を浮遊し、凛華の手の中に収まった。


「こんなもので飾り立てて」


 凛華が戦士の指輪を放り投げる。

 指輪が水面へと落ちていった。


「どれだけステータスを上ても、所詮はハリボテ。ただの嘘」


 今度は守護の指輪を抜き取られ……放り投げられた。

 そして活力の指輪も、速度の指輪も俺の指から外されていく。

 俺は、装飾品でステータスを底上げしないと、スタートラインにすら立てなかった。

 俺の強さの根幹を支えていたものが、消えていく。


「そう考えれば、虚飾の英雄というあだなもぴったりね。大口ばかりで、中身はちっとも伴っていない」


 軽蔑するような視線を向けてくる。


「あなたのような人が近くにいるから、清華も勘違いしてしまうのよ」

「ハッ! 流石だな……」


 俺は虚勢を張って、笑みを返す。


「またお得意の大口かしら?」

「俺も、色々と調べたから教えてやるよ」

「なんのこ……」

「──そこまでして、可愛い妹を守りたいか?」

「っ!!」


 凛華が眦を釣り上げる。

 四肢と首を締め付ける尻尾の力が強まった。


「が……っ!?」

「虚言を吐くのは、その口かしら」

「ぐ……っ!?」


 一気に四箇所、急所を外して全身に尻尾が食い込んだ。

 右肩に、左脇腹に、左足に、右胸に、尻尾で穴を開けられる。

 そして尻尾が傷口のなかで……ねじられた。


「があああああっ!!」


 体の中をかき回される激痛に、俺は悲鳴を上げた。

 そんな俺を見て凛華は愉快そうに笑う。


「そうよねぇ、いい気味だわ。嘘を付くから、そんな目に合うのよ」

「何度でも、言ってやるよ……このシスコン」


 尻尾の拘束が解け、俺は水面の上にぐしゃりと落とされる。


「……興が冷めたわ。死になさい」


 凛華の九本の尻尾が、全て俺に向かっている。

 やっと拘束が解けた。


 俺はアイテムボックスからあるアイテムを取り出し、放る。

 それはガチャの天井まで回す作業の中で手に入れた──閃光手榴弾フラッシュバンだった。


 世界が白く染まる。


「く……っ! 小細工を……!」


 不意打ちで閃光手榴弾を喰らった凛華が目を覆い、動きが止まる。

 こんなもの、ただ凛華の動きを一瞬止める程度でしかない。


 だが、俺が欲しいのはその一瞬だった。


 かすれゆく意識の中俺は最後の力を振り絞り、とあるものを取り出して……自分の身体に打った。


 ドクン。

 その瞬間、心臓が脈打ち、目の前にウインドウが現れる。


『竜の因子──起動完了』

『スキル『竜人化ドラゴニュート』が使用可能になりました』


 ──反魂の秘薬。

 セレーネから「本当に絶体絶命の状況になったときに使ってください」と言われて渡された、俺の最後の切り札。

 そして俺はスキルを使用した。


 炎が俺の身を包んだ。


「これは……!」


 俺にとどめを刺そうとしていた凛華は、警戒して身を引いた。


 吹き荒れる炎の中から現れたのは──真っ赤な鎧。

 かつて俺が死闘を演じた、竜人。


 背部から蒸気を噴射し、排熱を行う。


竜人化ドラゴニュート──完了』

『制限時間は十分間です。カウントダウンを開始しました』


 視界の端に十分のタイマーが出現し、カウントダウンが始まった。

 俺は右の拳を引いた。


 警戒していた凛華だったが、すぐに余裕を取り戻し、扇子で口元を隠して笑う。


「あらあら、まだ奥の手を残していたようね。でも、それが何? 貴方のような貧弱なステータスで何が──」


竜撃バースト


 凛華が吹き飛んだ。

 水しぶきを上げながら水面を転がっていく。


「な、なにが起こって……」


 困惑した表情で凛華は起き上がる。


飛行ドライブ


「っ……!!」


 しかし目の前には俺が迫り、足を高く上げていた。

 踵落としを凛華にお見舞する。

 凛華はとっさに腕をクロスさせてガードした。

 凛華に攻撃が直撃する。


「ぐ……っ!?」


 ミシミシ、と俺の踵を受け止めた凛華の腕から、骨が軋む音がした。

 凛華の顔が苦痛に歪む。

 衝撃が空中と水面を伝播していく。


 凛華が距離を取ろうと、後ろに飛んだ。


「この……っ!!」


 凛華が扇子を振るい、仙術を発動しようとする。


 しかし俺は凛華が離れる前に扇子を持った右手を左手で掴んで逃さないようにして、右手で手刀を作り──凛華の胸を貫いた。


「が、は……っ!?」


 俺の手刀が凛華の心臓を貫通し、凛華の吐いた血が兜の部分にかかる。

 凛華の残機を現している九本の尻尾の内一本が……消えた。


「なん……!?」


『まずは一本』


 驚愕に染まる凛華に向けて、俺は淡々とそう宣言したのだった。

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