九尾との再戦
白鷺先輩と清華が同時に切りかかってくる。
右斜め下からの袈裟斬りと、左斜め上からの振り下ろし。
俺は身体を回転させてその両方の刃を避け、白鷺先輩にカウンターで回転する力を乗せて剣を突き出す。
「甘い。狙いが見え見えだよ」
「やばっ……」
しかし白鷺先輩は難なくその剣を弾くと、空中にいる俺を叩き落とした。
ピピピピピ。
そのとき、五分にセットしていたタイマーが鳴った。
「うん、良くなってるね。反撃まで出来るようになってる」
「でも、有効な反撃はまだ打ててませんけどね……」
「それは練習あるのみだね。でも、すぐできるようになるよ」
白鷺先輩と清華との修行が始まって、五日が経った。
選択肢を選び取る訓練は、俺も清華も順調だった。
初日は百回以上攻撃を当てられていたが、今では反撃も一応できるようなってきている。
それは清華も同じで、流石はSランク冒険者というべきか、選択肢を選び取る力は俺よりも遥かに高かった。
しかし、清華の表情は明るくはなかった。
俺はスポドリを飲みながら、休憩している清華の横に座る。
「まだ『本当の強さ』は見つけれないのか」
「はい……」
清華は浮かない表情で頷いた。
清華はまだ、『本当の強さ』については見つけることが出来ていないようだ。
だが、『本当の強さ』というのは清華の中にしか答えがないもので、俺達が手伝えることはない。
こればっかりは自分で見つけるしかないのだ。
「さ、次は清華ちゃんの番ね」
朝は二人と修行して、午後からはモンスターダンジョンにこもって金を稼ぐ。
そんな日々が続いていた。
そして午前中の修行も終わり。
俺達は対凛華戦の作戦を練っていた。
白鷺先輩も作戦会議に加わっている。
「それで、武器はあの九尾の権能だけ、ってことで良いんだよな」
「はい、九尾の権能である仙術、そしてあの蒼穹の世界。これらがお姉様の手札です」
「それだけであんなに強いのかよ、やっぱりバケモンだな……」
俺は改めて凛華の強さに苦い顔になる。
「一番厄介なのは武器を使用禁止にされることだな。どれくらいまで禁止できるんだ? あ、そういえばスキルとかは禁止出来るのか?」
「あの世界で禁止できるのは、私が戦っているときの話ですが三つまででした。それとあの世界で一度禁止したものは、次の世界に入った瞬間に傷を受けるのを待たず禁止することが出来ます。禁止できるものは武器やアイテムの類だけです。強力な武器やアイテムは、縛れるのが能力だけだったりします」
「となると、まず運命切断は封じられるだろうし、ディメンションフィストとかも怪しいな……」
だが、同時に封じられるのは三つまで。
空いた魔力リソースでせっせと手札を増やしてきた俺にとっては、三つ手札を封じられた程度じゃなんともない。
ここで、清華もとい天狐と戦った経験が活きてきたと言えるだろう。
「そう言えば、まだあの人は襲ってこないんだよな」
「はい。あの九尾の尻尾が命の残り数を現しているのですが、尊さんが全て削ってしまったので回復には時間がかかると思います。お姉様も性格上、万全の準備が整うまで動かないでしょうし、あれを一本回復させるのに一日かかるので、また仕掛けてくるまであと四日はかかるかと」
清華の話では、凛華が万全の状態を整えるまでかかる時間は九日かかるらしい。
今日が五日目なので、ちょうど半分過ぎ去ったということになる。
「そういえば、お姉さんは九日経った時点で確実に勝負を仕掛けてくるの?」
「来ます。私は妹だからわかります。姉が言いつけを守らなかった私を許すはずがありません。ですが狙われるのは……恐らく尊さんの方でしょう」
「え、俺……?」
「姉は一度自分に泥を塗った相手には、確実に報復します。これは橘家としての家訓にもありますから、まず違えることはないでしょう」
家訓って……まあ、昔はメンツというものが大事で舐められたら終わりだと聞いたことがあるから、伝統ある橘家にも「舐められたら殺せ」的な家訓があったとしてもおかしくない。
「真っ先に狙われるのは尊さんでしょう。私は恐らく……眼中にないでしょうし」
清華が胸の前で拳を握る。
少し沈みかけた雰囲気を戻すように、ぱん、と先輩が両手を打った。
「とりあえず、対策はまた明日考えよう。まだ四日もあるんだから、いい案はきっと浮かぶよ」
「そうですね……」
力なく清華が笑う。
「それじゃ、今日は解散ね。明日はどうやって火力を確保するのかを考えよう」
そんなこんなで午前中の修行が終わり、俺と清華は帰路についていた。
「尊さんは、これからどうするんですか?」
「俺はダンジョンに潜って今日の分のモンスターを狩ろうと思ってる」
「あ、それなら今日はご飯を用意して待ってますね。私、セレーネさんからお料理を教わっていますので──」
──俺はまだこのとき、理解していなかった。
危機というのは、いつも予想していない状況でやってくるから危機なのだと。
「こんばんは」
鈴の音を転がすような声に振り返る。
そに立っていったのは白髪に、真っ白な着物を着た……
「っ……!!!」
全身が粟立つ感覚。
俺と清華が武器を取り出そうとしたときには、すでに遅かった。
蒼穹の世界が広がる。
「お久しぶりね、星宮尊くん? それに清華」
水面に立つ、真っ白な狐耳と、九本の尻尾を生やした美女は、凍えるような笑みを浮かべて挨拶をしてきた。
橘凛華。
清華の姉が、振り返ったそこにいた。
「どうしてここに……!」
どうしてだ。
なんで凛華がいる!?
あと四日は仕掛けてこれないはずじゃなかったのか……!?
隣りにいる清華を見ると、俺と同じように驚愕していた。
「復活している……!」
「なに?」
「お姉様の命が、九つとも復活している……!?」
見れば、凛華の残基がいくつ残っているのかを現している狐の尻尾が、九本とも生え揃っていた。
「どうして、回復には九日かかるはずなのに……!」
「本当に、頭のおめでたい子ねぇ……」
清華の言葉に凛華はふふ、と扇子で口元を多い、笑う。
「あなたに言っていないだけで、命を回復する手段は他にもあると思わない?」
「っ!」
次に清華は俺を指さした。
「禁止します。飛ぶ斬撃……炎壊の短剣」
「は?」
「百目大蛇の耳飾り」
周囲の危機を察知する俺の耳飾りの上に、五芒星が浮かび封じられる。
「なっ……!?」
どういうことだ!?
清華の話では禁止できるのは自分が攻撃を受けたときだけだったはずだぞ……!
どうして何もしていないのに装備を封じることができる!?
俺の疑問をよそに、凛華は次々と俺の装備を封じていく。
「あのガントレットと、戦士の指輪、守護の指輪、活力の指輪、速度の指輪、箱の指輪……ん? 封じられない? じゃあ活力の指輪でいいわ」
俺の主力の武器、そしてステータスを二倍化している指輪が封じられてしまった。
封じられるのは傷つけた武器だけ、そして数は三つまで。
清華から聞いていたことと何もかも違う。
俺は理解した。
「お前……騙してたのか! 清華をずっと……!」
「おかしなことではないでしょう? だって、狐は人を化かす生き物なんですもの」
凛華が扇子を広げて、愉快そうにコロコロと笑う。
くそ、まずいぞ。
主力の武器を封じられた上に、ステータスまで半減された状態で……戦うのかよ、このバケモノと。
「さあ、始めましょう。再戦を。……まずはあなたからね、星宮尊くん?」
そして、俺と凛華の再戦が始まった。




