修羅場と修行パート
俺はいつもの修練場で、白鷺先輩に清華を紹介した。
冷や汗を流しながら。
「と、いうわけで、今は一緒の家に住んでるんですけど、この方にもご指導をお願いしたいのですが……」
「……へー」
ミシッ、と白鷺先輩の持つ木刀から音が鳴った。
なぜか経緯を話せば話すほど、先輩の瞳から光りが消えていくのだ。
「だ、駄目でしょうか……?」
「すー……はー……」
先輩は俺の説明を聞き終わると、なにか内からあふれるものを抑えるように深呼吸する。
「なるほどね」
そしてニッコリと笑みを浮かべた。
「まとめると、彼女がSランク冒険者の天狐さんで、その彼女を鍛えて上げて欲しいと、そういうことなんだよね?」
「は、はい……」
「うん、別に星宮くんの頼みだったら全然構わないんだけど……」
その瞬間、先輩の顔から表情が抜け落ちた。
「──ねぇ、さっき、同じ家に住んでるって言った?」
「え、えぇ……そうですけど……」
バキッ。
先輩の持っている木刀が折れた。
「ヒッ……」
俺はたまらず悲鳴を上げてしまった。
「ねぇ、この人星宮くんを襲った人なんだよね? なんでその人とは一緒に住めて、師匠の私は駄目なのかな? ねぇなんで」
な、なんでこんなに怒ってるんだ……!?
俺は先輩から発される圧に押され、一歩引き下がる。
あ、そうか。仲間はずれみたいになったから怒ってるのか。
「いや、流れでそういうことになっただけで、別に先輩を仲間はずれにしたつもりは……」
「なら私も一緒に住んでいいよね?」
「もう空いてる部屋ないですから無理ですよ……」
「……ふん、もういいもん。あとで仕返しするから。清華ちゃん、でよかったよね? こっちにおいで」
「は、はい……」
白鷺先輩は腹を立てて、清華の手を引くと俺の隣へと並ばせた。
「私のことは朝陽って呼んでいいよ?」
「教えを請う身で呼び捨ては……年上ですし」
「そういえば十七歳だっけ? すごいよね、そんな歳でSランク冒険者なんて。なんで清華ちゃんは強くなりたいの?」
「私は、本当の強さを手に入れたいんです。あなたや尊さんのような実力を手に入れることが出来たら、きっと私は……」
「うーん……どう言えばいいのかわからないけど、本当の実力ってなに?」
「えっ? それはあなたみたいに自分の力だけで魔物も人も倒せるような……」
「でも、私も武器の力だったり、ユニークスキルに頼ってるよ? 私の強さの中で魔力圧縮の技術なんて、半分も占めてないよ」
「……」
清華は口を閉じてしまった。
「結局、本当の強さなんて曖昧な定義なんじゃないかな? その定義を知ってるのは清華ちゃん自身だけ。私にはその『本当の強さ』が何かを教えることは出来ない。だから、『本当の強さ』はあなたが自分で見つけるしかない」
「そんな……」
「でも、清華ちゃんの総合力を上げることはできる」
「総合力……」
「技術、ステータス、アイテム、スキル、それらをすべて合わせた総合的な『強さ』自体は定義が定まってるからね。まずは運命を見てあげる」
白鷺先輩が、その金色の瞳で清華を見つめる。
先輩のユニークスキル『運命観測』で清華の向き不向きを見つめているのだろう。
「うん、魔力圧縮はできなさそうだね」
「っそんなところまでわかるんですか……?」
「まあね。ステータスも……基本伸び切ってるからどうにかできる所はなさそう。次はスキル……見つけた」
先輩はそう呟くと、「ちょっと疲れたから休憩」と言って眼帯をつけ直した。
「改善できそうなところは見つけたよ。これを改善できれば、きっと清華ちゃんは強くなれると思う」
「本当ですか!?」
「うん」
「教えて下さい! 私のなんのスキルを改善すれば良いんですか!」
「ユニークスキルの『魔眼:万華鏡』だよ」
「えっ?」
白鷺先輩の言葉に清華が目を丸くした。
「ユニークスキル、ですか?」
俺も疑問の声を上げた。
二度、清華とは戦ったが、ユニークスキル『魔眼:万華鏡』を清華は使いこなしているように見えた。
一体どこに改善点があるのというのだろう。
「世界を作るもの良いけど、もっと外に目を向けないとね」
「外に目を向ける……?」
「はい、ヒント終わり」
「えっ、そんな……」
謎掛けみたいなヒントだけを残した先輩に、清華が残念そうな顔になる。
「これは清華ちゃん自身の『本当の強さ』にも繋がることだからね。自分自身で答えを見つけ出さないと」
「……そうですよね、ありがとうございます」
清華がペコリ、と先輩に頭を下げた。
先輩は頷くと、途端にウキウキとした表情になって……
「それじゃ次は実戦にいってみよう」
「はい?」
「また先輩のスパルタが始まった……」
先輩は何でもかんでも実戦で戦いたがる。
しかも普段は優しいのに、実戦となるととたんに厳しくなる。
だが、今回は清華がメインだ。俺はあまり関係ない。
これからめちゃくちゃしんどい修行をさせられるんだろうな、と俺が同情していると。
「じゃあ、星宮くんも一緒にやろっか」
「え」
「星宮くんの修行にもなるから、ね?」
うふふ、と先輩が笑う。
オーラからちょと怒りを感じた。
やばい、多分これ、まださっきの怒ってるやつだ。
「いや、俺は違う修行がしたいなぁ……」
「師匠命令です」
「……はい」
というわけで、むりやり参加させられることになった。
「さて、今からやるのは二人対一人に分かれて、五分間戦い続けるっていう修行です。わかりやすく言えば二対一の組手かな」
「なんだ、それなら……」
「私は毎回二人の方に入るから、一人になった人は頑張ってね」
「ちょっと待ってください、先輩が一人じゃないんですか!?」
「そうだよ?」
「うそだろ……」
俺の表情が絶望に染まる。
二対一ということは、毎回俺は清華と白鷺先輩というSランク冒険者と戦う羽目になるからだ。
修行が一気に地獄になった。
「これで鍛えるのは、選択肢を選び取る力。二人からの同時に繰り出される攻撃に対して、素早く、かつ正確に正解を選び取る力だよ。じゃあ、まずは星宮くんからいってみようか」
白鷺先輩が上機嫌に木剣を構える。
Sランク二人を相手に五分間耐え凌げって……まじかよ。
「尊さんすみません……参ります」
清華が申し訳無さそうに剣を構える。
そして地獄の五分間が始まった。
五分後。
「し、死ぬかと思った……」
ボコボコにされた俺は床に両膝を付いていた。
本当に死ぬかと思った。
多分、木剣が身体にあたった回数は百回は下らないだろう。
同時に迫りくる攻撃を対処するのは想像以上に難しかった。頭を使いすぎて、途中で脳みそが焼ききれるかと思った。
だが、同時にこれはとても理にかなった練習方法だと思う。
自分の実力がメキメキと伸びていくのを感じる。
俺と白鷺先輩の二人では出来なかった修行方法だろう。
……いや、もしかしたら先輩なら二倍速で動いて、二人分の手数を確保できるのかもしれないけど。
俺が休憩している間、先輩と清華は模擬戦をしていた。
その光景を見ながら俺はスマホを取り出し、ある人物に電話をかけた。
『もしもし』
電話口から、女の声が聞こえてくる。
「俺だ」
『ああ、君か。やあ、ヒーローくん。思ったよりも再会が早かったね。この『魔女』に、なにか用かな?』
俺が電話をかけた相手は、魔女だった。
以前清華のフリをして電話をかけてきたので、ダメ元でかけてみたが繋がったみたいだ。
「頼みたいことがある」
『頼み。ふん、君からとは珍しいね。それで、何を頼みたいんだろう』
「──」
俺は魔女にあることを頼んだ。
『……そんなことか。うん、良いだろう。それくらいお安い御用さ』
「そうか、金は──」
『お金はいらないよ。昨日君を騙してしまった件もあるし、今回は無料で引き受けようじゃないか』
「じゃあ頼む」
『はいはい、結果を期待して待っていてくれ』
その言葉とともに通話が切れる。
そうして、俺と魔女との電話が終わった。
「おーい、星宮くん。再開するよ」
白鷺先輩が手を振って俺を呼んでいる。
「はーい」
返事をして白鷺先輩と清華の元へと俺は戻っていった。




