お嬢様と銀座デート
「それで、護衛ってどういうことなんだ」
俺は対面に座る清華に尋ねた。
清華と俺がいるのは銀座のちょっと高級なカフェの個室で、清華が内密の話しがあるときによく使っているカフェらしい。有名人などもよくここを利用しているそうだ。個室付きのカフェをよく利用しているなんてさすがはお嬢様と言ったところか。
個室があるほどの高級なカフェなだけあり、先ほどメニューを確認してみたが……大人しくコーヒーだけ注文することにした。
清華の服装は、グレーを基調としたセーラーワンピース。清華の長い黒髪と合わさって、ますますお嬢様っぽい。
しかし清華は浮かない表情で、言葉を切り出した。
「実は……最近、身の危険を感じておりまして、尊さんに護衛していただけないか、と」
「身の危険?」
「はい、命を狙われているんです」
物騒な話だ。
だが、どうしてその話を俺にするのかが疑問だった。
「でも、俺じゃなくても護衛だったらプロがいるだろ?」
清華はお嬢様だ。俺のような冒険者に頼むより、プロの護衛を雇ったほうが安全だと思うのだが。
しかし清華は首を横に降った。
「それも考えました。でも、どれだけ考えても、尊さんじゃないと駄目なんです」
「俺じゃないといけない理由?」
「百狐クランをご存知ですか」
「ああ、対人クランのことだろ。それがどうしたんだ」
「私を狙っているのは──その百狐クランのクランマスター、天狐なのです」
「……なんだと?」
俺は目を見開いた。
あいつが、清華の命を狙っている……?
たしかにあいつは、戦闘狂ではある。だがあくまで強者との戦闘を楽しんでいるだけで、清華を襲うとは思えない。
「なんであいつが清華を狙うんだ……?」
「それは……私にも分からないんです。私はCランク冒険者で、Sランク冒険者のあの人には歯が立ちません。ですが、一度天狐に勝った尊さんが護衛についてくれるなら、私にも手を出してこないんじゃないか、と思って……」
「ちょっと待て、なんで俺があいつと戦ったことを知ってるんだ」
「あ、ごめんなさい……ギルドで噂になっていたので……ご不快にさせてしまったら申し訳ございません」
ぺこり、と頭を下げて清華が謝ってくる。
「ああ、そうじゃないんだ。ちょっと気になっただけだから。続けてくれ」
天狐は、ギルドで俺と天狐の間で戦いがあったことをほのめかしていた。
誰にも聞こえないような声で話していたが、どこで誰が何を聞いているか分からない。特に周囲にいたのは冒険者。そういう聞き耳を立てるスキルやアイテムを持っていたとしても全く不思議ではない。
そして、噂というものはすぐに誇張されて広まるものだ。
清華があのギルドに一度でも行っていたら、俺が天狐に勝った、という噂を聞いていたとしてもおかしくはないだろう。
「ありがとうございます。ですから、尊さんに護衛していただきたいんです。私では勝ち目がないでしょうし、それに今は冒険者資格を停止している状態なので……自分では戦えないんです」
「確かに言ってたなそんなこと……」
そういえば、清華のお姉さんが冒険者を辞めさせると言っていたことを思い出した。
「もちろん、お礼はさせていただきます。一日護衛してもらうごとに三億円、差し上げますので……」
「三億って……そんな大金、払い続けられるわけじゃないぞ」
「天狐は、もうすぐ私のことを襲撃してきます。そのときに尊さんがいてくれれば、それだけでいいので……」
「もうすぐって、どれくらいだ?」
「恐らく、三日以内には」
「……」
俺は瞑目する。
ずっと時間を拘束されるようなら困るが、清華はそろそろ天狐が襲ってくると言っているし、護衛自体は恐らくすぐに終わるだろう。最悪でも三日だ。
一日三億円が入ってくるなら、毎日のノルマとしてもマイナスではない。
天狐との戦闘も必ず起こるわけではない。俺が護衛についたことで、天狐と話し合いで解決できる可能性だってある。
そう考えて、俺は清華の依頼を受けることにした。
「分かった、その依頼受ける」
「本当ですか!? 良かったぁ……」
清華は安心したのか、胸に手を当てホッとしたような笑顔を浮かべる。
今までよほど怖かったのか目尻には涙まで浮かんでいた。
しかしすぐにさっきまでとは打って変わって、清華はぽん、と手を合わせて笑顔を浮かべた。
「それじゃ、デート……しましょう?」
「はい?」
「だって、折角尊さんが付きっきりでいてくれるんですから、有効活用しない手はないでしょう?」
「そりゃ、ずっと天狐が来るまで待ちかえるってものアレだけどさ……」
「そうと決まれば行きましょう!」
……ああ、そういえば、清華も最初に出会ったときから話が通じないタイプだった。
目をキラキラと輝かせた清華は俺を銀座の街へと連れ出していった。
それから、俺と清華は銀座でデートすることになった。
俺一人で入れないようなブランドの店に入って服を見てみたり、オシャレな本屋で清華とおすすめの本を教え合ってみたりと、銀座中を歩き回った。
清華が銀座で人気のクレープを食べに行きたい、と言い出したのでやって来たクレープ屋の前で、俺達はクレープを食べていた。
「美味しいですね、尊さん」
「ああ」
美味そうに食べるな、と清華のことを見ていると、清華はいたずらを思いついた子どものような笑みを浮かべた。
「あーん」
いちごのクレープを差し出してくる。
「お、おい……」
「ふふ、食べてくれないんですか?」
からかうように首を傾げる清華。
その表情を見ていると、負けん気が出てきた。
ここで引いたら、なんだか負けた気がする。
「……」
気恥ずかしさを抑えながら一口食べる。
すると清華は口元を手で抑えて笑った。
「照れてるところも可愛いです」
「照れてない」
「ふふっ、そうですね」
そんな感じでクレープも食べ終わり、俺達はまた銀座の街を歩く。
デートしている間、どこか大人びた仕草の清華に、俺は終始翻弄されっぱなしだった。
最近、鬱憤が貯まることが多かったからか、清華は心の底から笑顔を浮かべて楽しんでいた。
「楽しいですね、尊さん」
俺の隣を歩いている清華はご機嫌で、今にも鼻歌を歌いだしそうだった。
「楽しんでもらえたなら何よりだよ」
ブランドショップで精神が削られていたが、清華の笑顔を見て、まあ良いか、と思うことにした。
──しかし、楽しい時間はすぐに終わる。
「そういえば気になってたんですけど、尊さんがよく使ってるあの飛ぶ斬撃って、なんなんですか?」
「あれは……」
一瞬教えるかどうか迷ったが、教えることにした。
清華なら信用できると思ったからだ。
「あれは俺の持ってる剣の能力だ。運命切断って言って、相手の運命を防御を無視して切ることができる斬撃…………清華、俺の後ろに」
「えっ?」
突然清華を庇うように前に出た俺に、疑問符を浮かべる清華。
「いったいどうし……」
「あいつがきた」
銀座の街。
それがすべて──反転していた。
俺はアイテムボックスから指輪や腕輪を取り出し装着する。
人もいつの間にかいなくなっている。
俺達はいつの間にか『あいつの世界』に飲み込まれていたようだ。
そしてそいつは、ビルとビルの間の路地から出てきた。
コツ、コツ、と靴音を鳴らして、俺達の正面に立つ。
「お久しぶりです、尊さん。まさかこんなにすぐ気づかれるとは思っても見ませんでした」
「流石に、二度目は喰らわないさ」
真っ黒なセーラー服に、日本刀を携え、狐面を被った異質な少女。
「なるほど、そういう手を使ってくるのですね」
天狐は俺の後ろの清華にそう言った。
清華がビクリと肩を震わせる。
「何が目的だ」
俺は天狐に問いかける。
「あなたは、騙されています」
「どういう意味だ」
「……いえ、会話は無駄ですね。あなたがそちらに付いた以上、もう私にはあなたを倒して──彼女を殺すほかありません」
天狐は問答無用で妖刀『廻灼』を抜き放つ。
「行きます」
「く……っ!」
天狐が切りかかってくる。
そして戦いが始まった。




