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激闘の果てに

 俺に答えるようにヒュドラが拳を構える。

 そして腰を落とすと──飛び込んできた。

 排熱を終えた後の、あの一撃だ。


「っ!!」


 俺はアイテムボックスからアイテムを取り出す。


 それは白い円盾だった。

 これはガチャの天井で引いた盾で、俺の装備の中で、強力な一撃を持つヒュドラにとって一番有効であると結論を出したアイテムだった。


 盾の上から構わずヒュドラが殴ってくる。

 腕にまるで大砲を食らったかのような衝撃が伝わってくる。

 俺はそれを根性で受け切る。


「う、おぉぉぉぉおおッ!!!」


 その瞬間、ヒュドラの拳と同等の威力が、円盾から打ち返された。

 ヒュドラが大きく仰け反った。


 この盾には、受けた攻撃を跳ね返す能力が付与されているのだ。

 もちろん連発はできないが、この一撃をしのげればそれでいい。


──────

《聖騎士の円盾》

 ランク:A

 防御力+100

 受けた攻撃と同等の威力を相手に跳ね返すことができる。クールタイム十分。

──────


「クールタイムは十分! それまでにケリをつければ関係ないッ……!」


 俺は次のアイテムを取り出す。

 右手に握られたのは、ハンマー。


「『雷起アクティブ』ッ!!」


 俺が叫んだ瞬間、ハンマーに亀裂が入り、割れ目から雷が漏れ出てくる。

 そして雷を纏い、うねりを上げているハンマーを、ヒュドラに向かって叩きつけた。


──────

《雷精の槌》

 ランク:A

 攻撃力+150

 筋力要求値:110

 能力『雷起アクティブ』を使用すると一時的に筋力要求値を無視して使用できる。クールタイム一時間。

──────


 本来なら、俺はこのハンマーは重すぎて使えない。しかし能力を使うことで一撃だけ、こいつを振るうことができる。

 そしてこいつの破壊力は……めちゃくちゃ重い。

 ハンマーを叩きつける。


「──ッ!」


 言葉にならない声を上げ、ヒュドラは吹き飛ばされた。

 最初に俺に殴られたのと同じように回転しながらボス部屋の壁に叩きつけられる。


 衝撃で、ヒュドラの身体がバウンドする。

 その隙を、もちろん俺は見逃さなかった。


 魔力圧縮を使用して身体能力を向上させ、一瞬でヒュドラに肉薄する。


 そして頭を掴んで壁に思い切り叩きつけた。

 ヒュドラの顔面が、ボス部屋の壁に深くめり込んでいく。

 俺はそのヒュドラの胸に神王鍵を突き刺した。


「────ッッッ!!!!!」


 ヒュドラがもがき、悲鳴を上げる。

 俺は神王鍵を引き抜く。


「トドメだ……ッ!!」


 俺は左手に取り出した炎壊の短剣を逆手に持ち替え、魔力圧縮で威力を高めた一撃でヒュドラにとどめを刺そうとして……

 その瞬間、ヒュドラの全身から炎の嵐が放たれた。


「く……っ!?」


 俺はたまらずヒュドラから離れる。

 だが、炎から逃れるときにガードした顔以外の上半身に、酷い火傷を負っていた。

 このままでは剣を握れない。

 手にハイポーションの注射の出現させると、激痛が走った。


「ぐうっ……ッ!!」


 激痛を堪えながら最後のハイポーションを注射した。

 酷い火傷が癒えていく。


 燃え尽きてしまった服の代わりに、アイテムボックスから新しい服を装備する。


 すでにヒュドラは体勢を立て直し終えていた。


 しかし今の一撃は奥の手で、体内の温度が上がりすぎたせいで排熱しきれなかったのか、鎧の継ぎ目から炎が漏れ出ていた。


 俺の見立てでは、ヒュドラの体内は表面ほど炎耐性がない。

 だからこそ動くたびに排熱して熱を外に排出しているわけだ。


 全身が炎に包まれたヒュドラは……それでも拳を構えた。


 その目からは、意地でも俺と決着をつける、という決意を感じた。


「最終ラウンドだな、お互いに……!!」


 俺は剣を構える。

 ヒュドラが動き出す。


 目の前にヒュドラが現れた。

 来る──ッ!!

 俺は聖騎士の円盾を取り出し、防御態勢を取った。


 まだクールタイムは終わっていないが、この盾の防御力ならさっきみたいには……

 盾にヒュドラの拳が突き刺さる。


「ッ……!?」


 盾の上から、俺は吹き飛ばされた。

 空中を吹き飛び、壁に叩きつけられる。


「がは……ッ!!」


(さっきよりスピードも力も上がってるだと……!?)


 血を吐きながら、俺は驚愕していた。

 辛うじて骨折や、致命的なダメージは回避することに成功したが、ヒュドラが俺の予想を超えている。

 そして次の瞬間、目を開いたそこにはまたヒュドラがいた。


(連続行動……!? っそうか! 排熱する必要がなくなったから、制限無しで行動できるのか!!!)


 俺は全力で魔力を圧縮し、拳を避ける。

 ヒュドラから距離を取りながら魔力ポーションを注射し、魔力を回復する。


「おおッ……!!」


 そしてまたヒュドラへと突っ込んだ。

 右腕を切ろうとした瞬間──避けられる。


「な……ッ!? 反応速度まで上がってるのか……!?」


 ヒュドラに服の襟を掴まれ、地面に叩きつけられた。


「がは……ッ!!」


 地面がひび割れる。

 服の襟を掴んだまま俺を拘束したヒュドラが、拳を振り上げる。


「ぬ、ぅあッ!!」


 俺は魔力圧縮で強化した足で、ヒュドラを蹴り飛ばした。

 ヒュドラが体勢を立て直す前に、俺は魔力を補給しながら詰め寄る。

 神王鍵でヒュドラの左腕を斬り飛ばした。

 しかしすぐに腕は再生してしまう。


「うおおおおおッ!!!」


 まだだ! もっと速く! もっと密度を高く!


 コイツが再生するより早く切り続けろッ!!!!


 ヒュドラの腕を、足を、胴を、切り続けていく。


 そしてついに、ヒュドラの再生が間に合わず、両腕が斬り落とされた。


 俺は胴体に神王鍵を突き刺し、ねじって傷口を広げる。

 そこへ炎壊の短剣をねじ込んだ。


「──ッ!!!!」


 ヒュドラが悲鳴を上げる。


「身体の中は耐性がないんだろ? ──だったら、身体の中でコレを撃ったらどうなるんだ?」


 ヒュドラの両腕が再生し、俺へと手が伸びてくるが……もう遅い。

 俺は身体の中に差し込まれた炎壊の短剣から、炎壊波を放った。


「──ッッッッ!!!!」


 熱線がヒュドラの身体を焼き、鎧の継ぎ目から炎が吹き荒れる。

 身体の中を焼かれながら、それでもヒュドラはあがき、俺へと手を伸ばす。

 俺は更に炎壊の短剣をねじ込んだ。


「死ぃねぇぇぇぇえええええええええええッッッ!!!!!」


 俺と、ヒュドラの絶叫が部屋の中に響く。


 そして炎壊波が収まり、周囲を静寂が包んだ。


 俺は炎壊の短剣を引き抜く。

 力尽きたようにヒュドラが崩れ落ち、床に両膝をついた。


 ヒュドラの目からは──光りが失われていた。


『おめでとうございます!! 竜人化ドラゴニュート:ヒュドラを倒しました!!』

『モンスターダンジョンの下層が開放されました!!』

『戦利品としてスキル『竜人化ドラゴニュート』、称号【竜の因子】が与えられます!!』

『おめでとうございます! レベルアップしました!』


 目の前にウインドウが表示される。

 それを眺めて、消す。


 ウインドウの言葉は気になるが、それよりも先にしなければならないことがあったからだ。


「……帰ろう」


 俺はテレポートを使って、神王城の中へと戻る。

 そして、彼女がいつもいる部屋の扉を開けた。


「セレーネ」


 俺が彼女の名前を呼ぶと、不安そうな表情をしていたセレーネは勢いよく顔を上げる。

 泣き顔と安堵が混ざったような表情を浮かべるセレーネに、俺は笑いかけた。


「ただいま」

「……おかえりなさい」


 セレーネはそう言うと飛び出してきて、俺に抱きついてきたのだった。

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