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『百狐』クランのスカウト

 清華が車で去った後、俺は家へと帰ってきた。


「おかえりなさい」

「ただいま……」


 出迎えてくれた、セレーネに気の抜けた返事を返す。


 頭の中では清華のことが未だにぐるぐると頭の中を回っていた。

 確かに冒険者というのは危険が伴う職業だし、俺だって何度も死にかけたことがある。

 あのスタンピードの配信を見たのなら、冒険者を辞めさせる、というのもおかしなことではない。

 だが、あの清華の表情が心に引っかかったままだった。

 ……よその家のことを、所詮他人でしかない俺があれこれ考えたって仕方がないな。

 そして近づいてきたセレーネが……また眉根を顰めた。


「なるほど。……宣戦布告ですか、これは」

「は? 宣戦布告?」


 俺はセレーネの言葉に疑問の声を上げる。


「それならこっちにも考えが……」

「あの、セレーネさん?」


 怖い表情で虚空にいる誰かを睨んでいるセレーネに恐る恐る話しかけた。

 するとセレーネの表情がスン、と元に戻った。


「いいえ、別に。それよりもシャワーを浴びてきてください」

「え、もうシャワーは浴びてきたんだけど」

「関係ありません。それとそっちの洗濯物もよこしなさい。徹底的に洗ってやります」


 またもやぐいぐいと背中を押され、俺はシャワーを浴びさせられた。

 シャワーから出てくるとまた服が洗濯機の中で回っていた。




 昼からは、俺はギルドに顔を出していた。

 定期的な魔物の魔石と素材の売却だ。

 しかし、売却が終わった俺は、一つトラブルに見舞われていた。

 ギルド中の視線を浴びながら、俺は隣にいるやつに声をかけた。


「なあ」

「なんでしょう、尊さん」

「なんで、くっついてくるんだ」

「それはもちろん、愛情表現の一種です♡」


 意味がわからん。

 俺は怪訝な目で俺の腕に抱きついている──天狐を見た。

 あいも変わらず真っ黒なセーラー服と、顔を覆い隠す狐の仮面。そして腰に差した妖刀『廻灼』。

 魔物の素材をギルド長に売って出てきたところ、待ち構えていたかのように天狐が待ち構えており、そのまま俺の腕に抱きついてきたのだ。

 お陰でギルド中から注目を浴びている。


「お前さぁ……こういうのもアレだけど、あんなことしといてよく会いに来れるよな」

「すみません。でも、動画で尊さんの戦うところを見てから、どうしても抑えられなくて。尊さんの愛ゆえなんですよ?」

「可愛く首を傾げても全く中和されてないからな、それ」


 俺はため息を付くと、単刀直入に目的を尋ねた。


「それで、なんの用だ」

「そんな、酷いです。用事がないと会いに来ては駄目なんですか?」

「駄目だ。会いに来るな」

「いけず♡ でもそんなところも好きです」


 駄目だこいつ、話が通じない。

 俺はギルドにあるテーブルのうち一つに適当に座ると、天狐はその対面に座ってきた。

 少しでも距離を離すまいと、机から身を乗り出してきた天狐が至近距離で俺を見つめてくる。


「で、何の用だ。お前が何の用事もなく俺に会いに来るわけがないだろ」

「まあ、尊さんもお忙しいでしょうし、手早く目的を告げちゃいましょう。──ズバリ、尊さん、うちの『百狐』クランに入りませんか?」

「スカウトか」

「そうです、スカウトです。私、以前の戦いぶりにあらためて惚れ直しました。うちの百狐クランで一緒にお仕事しませんか?」

「いやだね」

「──前回、あのまま斬り合っていたら負けていたのは私でしょう」


 俺だけに聞こえる声で、囁くように天狐はそう言った。


「長らく対人戦を経験してきた私が断言します。あなたには対人戦闘の才能がある」

「断る」

「まぁまぁ、そう言わずに。高待遇で迎えさせていただきますよ? 年俸はまず50億から。それに副クランマスターとして迎えさせて頂きます。いかがでしょうか?」


 年俸50億。冒険者の中でもトップクラスの年俸だ。

 そして副クランマスターという地位まで用意されている。

 Cランク冒険者には破格の報酬だ。

 だが、俺にとっては違う。


「断る」

「理由をお聞かせ願っても?」

「俺からすればその程度、二週間で稼げる額だからな。それに、副クランマスターとかいう地位にも興味ない」


 副クランマスターになるということは、組織のトップとしてその分俺の行動が制限されるはずだ。

 俺は一年で1000億稼がないといけない。目標の金額に全く足りない。

 50億程度で副クランマスターになって行動に制限を設けられるなら、このままソロでやってた方が稼げる。


「じゃあ、今なら私が付いてきます♡ というのは?」


 きゃるん、とカワイ子ぶった天狐が首を傾げる。


「それはもっと興味ない」

「ぶー」

「才能があるって褒めてもらったのは有り難いが、俺は対人なんて興味ない。あるのは金だけだ。俺をスカウトしたいなら、もっと目の眩むような大金を持ってきてくれ」

「そうですか……残念です」


 天狐は案外あっさりと引き下がった。

 俺の意志が固いことを知って、説得はできないと思ったのだろうか。


「尊さんをクランにスカウトするのは諦めます。ですが……」


 天狐は蠱惑的な仕草で顔を近づけてきて、最後に言葉を付け加えた。

 至近距離まで近づいたことでふわりと天狐の香水の匂いが漂ってきた。


「個人的に会いに来るのは問題ないですよね?」

「いや、会いに来ないでくれ……」


 俺の言葉にクスクスと笑って、天狐は去っていった。

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[良い点] よき [一言] 一人暮らしが長かったからか、隠キャ拗らせた めいどえるふ 意外と独占欲がつよい。
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