気になる汚れ
「弟子、ですか?」
「そう、私の弟子。魔力圧縮とか、いろいろ教えてあげられるよ?」
「いや、でもそれは先輩に申し訳ないですよ。Sランクの先輩の時間を割いてもらって教えてもらうなんて。他の魔力圧縮を教えるプロとかに……」
「教える人はいないよ」
「え?」
「そもそもこの技術ってすごく特殊なの。Sランク冒険者の中でも使う人が少数派なくらい。だから教える人は見つからないと思う」
「そ、そうなんですか」
「それに、この魔力圧縮の技術って、実はすっごく危険な技術なの。星宮くんはたまたま暴発しなかったから良かったけど、自分で魔力圧縮を練習しているときに間違えて大怪我、ってことがよくあるの。だから、この技術は気軽に教えるのは禁止されてて、資格を持ってないと教えられないんだよ」
「まあ、確かに危険ですしね……」
天狐と戦ったときにも、俺は一歩間違えれば魔力が暴発して死ぬところだった。
失敗しなかったのはひとえに幸運だっただけだろう。
「その点、私はSランク冒険者の中でも魔力圧縮についてはトップレベルだし、当然資格も持ってます」
自慢気にピースする白鷺先輩。
かわいい……じゃなかった。
今は白鷺先輩に師匠になってもらうのか考えないと。確かに白鷺先輩に教えてもらえるならそれが一番いいんだけど……。
「でも、白鷺先輩にメリットがなくないですか? お金なら用意できますけど、白鷺先輩ならそんなの有り余るくらい……」
「お金はいらない」
「はい?」
「私に、君を教えさせて欲しいの」
「え、えぇ……?」
白鷺先輩の言葉に俺は困惑する。
どうして白鷺先輩が俺なんかを教えたがるんだろうか。
「星宮くんは自分でも気がついてないかもしれないけど、君は魔力圧縮に関して才能がある。普通の人間は自力でそこまで魔力圧縮を使いこなせたりしない。冒険者として、その才能を伸ばせるところまで伸ばしてみたいと思うのは、当然のことでしょ? それに、師匠になったら星宮くんと一緒にダンジョンに潜りやすくなるし」
「な、なるほど……?」
「ちなみに」
白鷺先輩が顔を近づけてくる。
大きな金色の瞳が俺の目をまっすぐ見つめてくる。
「私が師匠になれば、Sランクダンジョンにも潜れるようになるし、上のランクに昇格しやすくなるし、剣術も教えてあげられるよ? ……弟子になるよね?」
白鷺先輩がまた近づいてきて、至近距離で俺の瞳を覗き込んでくる。
普段は眼帯で隠れているその瞳から、計り知れないほど圧が伝わってくる。
「は、はい……」
白鷺先輩が放つプレッシャーに圧され、俺はついそう答えてしまったのだった。
***
そして白鷺先輩と師弟関係を結び、家へと戻ってきた。
「おかえりなさい」
家のドアを開けると、セレーネがいた。
セレーネは俺が帰ってくるときはいつも玄関先にいるが、どうやって帰る時間を把握してるんだろう。謎だ。
「ああ、ただいま」
「夕食はそろそろ出来上がります。それまでゆっくり……」
「ん? どうしたんだ、セレーネ?」
わずかに眉根を寄せるセレーネ。
そして俺に近づいてきてスンスン、と匂いを嗅いできた。
「……女の匂いがする」
「へっ」
「今日は外のダンジョンに行くつもりだと言っていましたが、どこに行っていたんですか?」
いつもはすまし顔のセレーネが、ニッコリと笑みを浮かべて尋ねてくる。
美人の笑っていない笑顔は怖い。
「ずっと一人でダンジョンに潜ってる人が、ダンジョンに行って女の人の匂いがつくことなんてあるんですか? 本当はどこに行ってきたんです?」
「い、いや本当にダンジョンだって! 実は……」
俺は事情を説明する。
「つまり、今日はその先輩に誘われてダンジョンに一緒に潜ったと?
だからやましいところは一つもないと? 本当に?」
「ああ、ないよ。先輩だってそういうつもりじゃないだろうし」
「……それはどうですかね」
「え、どういう」
「おっと、こんなところに汚れが」
セレーネが俺の肩のあたりを見てそう言った。
「え、どこ?」
汚れがどこなのか確認するが、それらしきものは見えない。
「汚れなんてなくない?」
「いいえ、ついてます。私には見えます」
汚れは全く見当たらないのだが、セレーネは力強くあると断言する。
そして俺の背中側に回ると、強めの力で押し始めた。
「予定変更です。夕食の前にお風呂に入ってきてください。ダンジョンに潜ったのなら汗をかいたでしょうし、汚れたままリビングにこられるのは迷惑です」
セレーネが俺の背中を押して風呂の方へと誘導する。
「え、でもさっきは部屋でゆっくりって……。というかギルドでシャワーは浴びてきてるから別に汚くは……」
「いいからさっさと入ってきてください。そしてしっかり身体を洗って汚れを落としてきてください。あと他の諸々も」
「他の諸々ってなに」
「いいですから」
そのまま俺は脱衣所の中に放り込まれ、渋々風呂に入ることにした。
風呂から上がると、俺が来てた服が洗濯機の中でじゃぶじゃぶと洗われていた。
……そんなに汚れてたか?




