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先輩とのデート

 その日は、渋谷に来ていた。


「星宮くん」


 声をかけられ振り返ると、そこには銀髪の美少女が立っていた。


「白鷺先輩」


 白鷺先輩の今日の格好は、清楚とガーリーを足して割ったような白いワンピース。そしていつもの黒いレースの眼帯をつけていた。


 そして手には──剣を持っていた。


 俺達がいるのはAランクダンジョンの入口だった。

 先日、白鷺先輩と約束した(させられた)おでかけで、どこに行こうかと話題になったのだが、意外にも白鷺先輩が待ち合わせ場所に選んだのはこのAランクダンジョンだった。


 口元にニッコリと笑みを浮かべた白鷺先輩は、俺の下へとやってきた。

 そして小首を傾げて質問してくる。


「今日の私、どうかな?」

「とても似合ってます」


 俺が素直な感想を述べると、更に先輩が質問してきた。


「かわいい?」

「かわいいですよ」

「それは良かった」


 俺がそう答えると白鷺先輩は満足そうにむふー、と息を吐き出した。

 逆に、俺は白鷺先輩に気になっていたことを質問する。


「なんでダンジョンなんですか? 別に渋谷とか、原宿とか遊ぶところはいくらでも……」

「だって、私も早く星宮くんと一緒にダンジョンに潜りたかったんだもん」


 ぷく、と白鷺先輩が頬を膨らませる。

 この先輩はいちいち仕草が可愛らしい。


「星宮くんは、まだパーティーを組むつもりはないんだよね?」

「はい、まだ組むつもりはないですね」

「でしょ? 次のチャンスがいつ来るか分からないから、この機会を逃さないようにしないと」

「そう言われるのは嬉しいですが、俺はまだCランクですよ?」

「Cランクだからこそだよ。CランクになるとAランクの上層までは一人で潜れるようになるでしょ?」

「そうですね」

「でもAランクダンジョンは他のダンジョンとは違って危険がいっぱいなの。Cランクに上がったばかりの冒険者が、見学気分で準備もせずにAランクダンジョンに潜って、そのまま死亡する、なんて事故もよくあるの。それなら、ちゃんと高ランク冒険者に手ほどきしてもらった方が安心でしょ?」

「確かに、それはそうですけど……」

「だから、今日はダンジョンに潜るの。私と二人っきりで」

「でも、服装はそれでいいんですか? ダンジョンに潜るんだったら汚れちゃうんじゃ……」

「大丈夫」


 白鷺先輩はいつもよりおしゃれな服を着ている。

 ダンジョンに潜ってモンスターと戦闘したら汚れてしまうんじゃないか、と心配したが白鷺先輩は首を横に振った。


「──私の強さ、見せてあげる」


 白鷺先輩はそう言って、得意げな笑みを浮かべたのだった。




 Aランクダンジョンの危険。

 それはつまるところ、モンスターの強さだ。

 掛け値なしに強いモンスターが絶え間なく溢れてくるため、そんなモンスターを千切っては投げ、千切っては投げと蹴散らせるような冒険者だけがこのダンジョンに潜れるのだ。


 そして、そんな冒険者の中でも白鷺先輩はその上澄みであるSランクの冒険者。

 Aランクダンジョンの手ほどきにこれほど適した人間はいないとも言える。

 隣にいる白鷺先輩を横目で見る。


 天狐と同じランクだが、先輩と天狐が戦った場合、おそらく勝つのは先輩だろう。

 いや、それどころか圧勝かもしれない。

 俺は一度だけ、先輩が戦っているところを見たことがある。


「お、さっそく」


 先輩の言葉につられて前を見ると、全長三メートルほどのカマキリがいた。


 金属のような光沢を放つ緑色の甲殻に身を包み、業物の剣に匹敵する切れ味と、リーチをもった大剣の如き鎌を持つ昆虫型のモンスター。


 キング・マンティス。

 Aランクの魔物だ。

 昆虫型のモンスターの中でも特に強力で、甲殻は見た目以上に硬く一般人では傷すらつけられないうえに、切れ味の良すぎる鎌を持ち、その翅による高速の飛翔で、かするだけでも大怪我を負わされる。

 俺が神王鍵を取り出すと、白鷺先輩が手で制してきた。


「これ、持っててくれる?」


 白鷺先輩が眼帯を外して、俺に渡してくる。

 金色の瞳が顕になった。


「私のこと、見てて」


 白鷺先輩が剣の柄に手を当てる。

 すると次の瞬間、白鷺先輩の中で魔力の圧が急激に高まったかと思うと、一瞬でキング・マンティスに肉薄していた。

 空中には、白鷺先輩が通ったと跡と思われる魔力の残滓が線になって残り、電気がバチバチと散っていた。


「ギィィッ!?」


 キング・マンティスが目の前に現れた白鷺先輩に驚愕し、鎌を白鷺先輩めがけて振り下ろす。

 しかし白鷺先輩はそれを楽々と躱した。

 地面に刺さった鎌が土を飛ばす。

 鎌を挟み込むように振ってみたり、横薙ぎだったりと、キング・マンティスは何度も白鷺先輩に対して攻撃を試みるが、その攻撃はことごとく当たらない。


「ほっ、ほっと」


 まるで全ての攻撃が結果まで見えているかのように、体捌きだけで鎌をひょいひょいと避けていく。


 白鷺先輩のユニークスキル『運命観測』だ。

 それは生物の運命を観ることができるスキル。


 だが、スキルの本質はそこではない。


 先輩いわく、運命とは絶対ではなく本人の強烈な意志や行動によって、変化させることが可能なのだそうだ。

 そしてその性質を活かして、先輩は相手の運命を観測することにより、自分が負けない運命を選び取る事ができるのだ。

 つまり、先輩は相手の攻撃がどうくるのか、どこにいれば攻撃が当たらないのかなど、全てを見通すことができる。

 結果、どれだけキング・マンティスが鎌を振っても攻撃が当たらない状況が生まれるわけだ。

 自分が負けない結果を選び取る事ができる、という能力だけでも相当強いが、白鷺先輩の強さはそれだけではない。

 本当の強さはその剣技──


「もういいかな」


 白鷺先輩はそう呟くと、また一瞬で白鷺先輩の中の魔力が爆発的に高まった。

 そして気がつけばキング・マンティスが真っ二つになっていた。


 あの細い腕からは考えられないほどの威力の攻撃に、俺は目が離せなかった。

 勘違いかもしれない。

 だが、今先輩が使った魔力の高まりが、俺が天狐との戦いで見つけた魔力の圧縮と酷似していた気がした。

 俺よりも早さも、密度も圧倒的に白鷺先輩のほうが高い。

 質問したい。あれはステータスが低い俺にとって、多分必須の技術だ。


「どう? 見てた?」


 キング・マンティスを倒した白鷺先輩がこちらに戻ってきた。

 白鷺先輩の白いワンピースには汚れ一つ付いていなかった。

 どうやらあの戦闘のなかで傷どころか汚れ一つつかない運命を選び取っていたらしい。


「は、はい見てました。凄かったです」

「? どうしたの?」


 様子が違う俺に、先輩は不思議そうに首を傾げる。


「その、先輩のさっきの魔力なんですけど……」


 俺は一から先輩に説明する。


「えっ」


 魔力の圧縮を使ってみたと説明した段階で、先輩がそんな声を上げた。


「というわけでして、もしよければどういう技術か教えてもらえませんか……?」


 俺は先輩にお願いする。


「そ、その前に教えてもらえる? 出来たの? 魔力の圧縮が?」

「は、はいそうですけど……」

「Sランクでもできない人がいるのに、独力でたどり着くなんて……」


 先輩は唖然とした顔でそう呟いていたが、途中で我に返って説明し始める。


「あ、ごめんね……これは魔力圧縮っていう技術だよ」

「魔力圧縮?」

「そう、自分の魔力を圧縮して、解放するときの反発力を使うの。反発力を武器にのせて威力を強くしたり、肉体に乗せてとても速く動いたりできるんだよ。でも、こんなマイナー技術どこで知ったの……?」

「それは、以前先輩の戦ってる姿を見たときの魔力の使い方を思い出して、見様見真似で使ってみただけなんですけど……」


 白鷺先輩がその金色の瞳を丸く見開いていた。

 そして口元には堪えきれないような笑みを浮かべる。


「あ、あの先輩……?」

「……面白い」

「えっ」

「魔力圧縮を一度見ただけで、見様見真似で使ったなんて……君は本当に何者なの? ふふふ、これは鍛えがいがある……」


 ぶつぶつとなにかを呟き始めた先輩に、俺は困惑しながら声をかける。


「先輩、どうしたんですか……」

「星宮くん、私の弟子になる?」

「えっ?」


 俺は素っ頓狂な声を上げた。

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