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強者を下す一撃

 俺は天狐の剣を弾こうとする。

 しかし俺が剣を横に構えた瞬間には、天狐は俺の背後に回り込んでいる。

 百目大蛇の耳飾りで殺気を捉えた俺は、振り下ろされた日本刀をなんとか受け止める。

 天狐は楽しそうに笑った。


「あはっ、やはりすばらしい反射神経です星宮尊さん! さっきよりも速いのに反応できるなんて!」


 天狐が刀を振る。

 動体視力を限界まで使い、百目大蛇の耳飾りが伝えてくる感覚に集中する。

 そのたびに俺はなんとか剣を滑り込ませるが、それでも防ぎきれずに俺の太ももや腕に浅く傷を残していった。


「っ……!!」


 速すぎる!!!

 ステータスが三倍になった天狐は恐ろしいほど速い。

 動体視力のスキルと、百目大蛇の耳飾りでなんとか致命傷になる攻撃だけは回避しているが、このまま傷が増えればどちらにせよ血を失いすぎて戦闘不能になる。


 なにか、なにか突破口はないか、と俺は天狐の欠点を探す。

 いや、だめだ。天狐の強さは完成されすぎている。

 狐になるアイテムのステータスの三倍化により、攻撃力も、防御力も、スピードも全てが段違いだ。

 その上、回数制限の存在しない驚異的な回復力。

 アイテムの欠点をアイテムが補い、相乗効果を生んでいる。


「くっ……!!」


 俺は炎壊の短剣を取り出し、能力の一つ、炎纏を使う。

 これを使えば10分間だけ武器の攻撃力が二倍になる。

 炎壊の短剣の刀身が赤熱し、発光する。


「おおッ……!!」


 それに加えて『重撃』で全体重を剣に乗せ、天狐へと一撃を放つ。


「ッ!?」


 俺の剣を受け止めた天狐から驚愕が伝わってきた。


 天狐が背後に飛ぶ。


 俺はその瞬間に、運命切断を二回発動した。

 飛ぶ斬撃に能力を限定した、天狐の両手に対する攻撃。


 奴の強みはあの回復力だ。だが、回復するためにはあの日本刀を首に当てて切る、という工程を踏まなければならない。

 つまり両手を落とせばあの回復力は封じることが可能……。


 俺の斬撃は……当たらなかった。

 天狐の両手を斬撃が捉えたと思った瞬間、天狐の姿がブレた。


「なっ……!?」


 ブレた天狐が、まるで煙のように風に乗って流されていく。


「なるほどなるほど、その斬撃は目視で狙いを定めているのですね。私の仮説は当たっていたようです」


 いつの間にか、肩に日本刀を担いだ天狐が俺の背後に回り込んでいた。


「驚きましたか? 先ほど説明した変化の能力の応用です。このように幻影で姿を誤認させることにだって使えるんですよ?」

「ッ……!?」


 俺は振り向きざまに天狐を切る。

 短剣は天狐の頭を横から真っ二つにしたが、それも幻影だった。


「それも、幻影です」


 また背後から、俺の耳元で天狐が囁く。

 しかし俺は、自分の右隣へと短剣を振った。

 すると手応えがあり、刀で俺の攻撃を防いだ天狐が後ろに飛び退きながら姿を表す。


「っ!? なるほど! その耳飾りの……!」


 天狐は笑う。

 落ち着け、耳飾りから伝わってくる情報に集中しろ。

 炎壊の短剣の攻撃は通じている。いける、炎壊の短剣を起点にして、突破口を開く。


「なるほど、どうやら幻影は封じられたようですね。ですが、幻影が通じないと分かったのなら……力で押すまでです」


 次の瞬間、天狐が目の前にいた。


(速っ……!?)


 俺は避けようとした。しかし次の瞬間には天狐は剣を振り終わっていた。


 天狐の刀、廻灼が左斜め下から右肩にかけて、俺の身体を斬っていく。


 俺にできたのは、辛うじて致命傷を避けることだけだった。


「ぐっ……!!」


 俺は地面に膝をつく。

 胴についた傷から地面へと血がボトボトと落ちていく。


 俺は回復ポーションを取り出し、蓋を開けて……しかし瓶を天狐に刀で弾き飛ばされた。


 天狐が俺に切っ先を突きつけた。


「戦闘中にそんな悠長に回復させてもらえると思いますか」

「はぁッ……! はぁッ……!」


 額に脂汗を浮かべ、俺は何度も浅く呼吸をする。

 そんな俺を見て、天狐が失望したようにため息を付いた。


「この程度ですか? せっかく期待したのに……がっかりです」


 トドメを刺そうとしているのか、天狐が剣を振り上げる。


 どうする、どうすればこいつに勝てる?


 炎壊の短剣の炎壊波を使えば……いや、ここで使えば何の罪もない一般人も巻き込んでしまう。

 運命切断は……だめだ。もう運命切断はこいつに攻略されてしまった。


 手札が、手札が圧倒的に足りない。


 俺は本当にここで……。


 そこで、俺の脳裏に蘇ったのは。

 スケルトンナイトに使った、魔力の解放。


 いや、それだけじゃ駄目だ。あんなのじゃコイツには隙すら作れない。


 もっと、もっとだ。


 剣に、剣に全ての魔力を集めろ。

 魔力を力で抑え込み、限界まで小さくしていく。

 解放したときに、爆発させるようなイメージで。

 俺の残った魔力が、全て剣の先に集まった。


 ただ、この一振りに、全てを込める。


 剣を振り下ろそうとしていた天狐が、ピタリと動きを止めた。


「それは……」

「うおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」


 魔力を解放した。

 一閃。俺の剣が天狐を左脇腹から右肩にかけて斬り裂いていった。


 天狐は十メートルも後ろに吹き飛び、地面を転がる。


「なんだ、いまのは……」


 俺は自分の手を見つめる。

 限界まで押し固めた魔力を解放させた今の一撃は、俺のステータスじゃ絶対に放てないような速さと威力だった。


 だが、そのせいで魔力が枯渇している。

 俺は回復ポーションと魔力ポーションを取り出し、飲み干した。

 傷が回復していくが、胴体についた斜めの切り傷は完全には塞がらなかった。


「あはっ」


 地面に転がっている天狐が笑い声を上げた。


「あははははははははははははははははははははははははははっ……!!!」


 狂ったように笑い始めた天狐に、俺は後ずさった。

 身体から血を流したまま、ふらついた身体を支えるように刀を杖にして天狐は立ち上がる。


「これです! これですよ! 戦いというのはこうでなきゃ!」


 天狐は廻灼を首に当て、切る。

 炎が天狐の身体についた傷を癒やしていく。


「ああ、尊さん! あなたは素晴らしい! どんな窮地でも諦めず、戦いの中で進化するその姿こそが強者の証! その姿に免じて、私も奥の手を見せましょう!」

「……」


 俺は運命切断を天狐へと放った。

 しかし幻影が風に流されて、消えていく。

 その幻影の真隣から天狐は姿を現した。


「そう慌てないでください。それより、周囲の景色を見てなにか気が付きませんか? あ、今は説明中ですのでもちろん襲ったりはしません、気が済むまで観察してくださいね」

「……」


 天狐から殺気は感じない。

 たぶん奴の性格上、これがブラフで、俺が天狐から視線を離した瞬間襲ってくることはないだろう。

 そう判断して周囲を見渡した。


「……?」


 確かに、何かがおかしい。

 いつもの光景のはずなのに、決定的に何かが違う。


「あは、気が付きませんか? よく見てください、景色が全然違うでしょう? 例えば──()()()()()()()()()()()()()

「っ!!」


 そこで俺はようやく気がついた。

 最初に天狐と出会ったときと、景色が反転している。

 戦っていたせいで全く気が付かなかった。


「いつからだ! いつから反転させた!」

「いつからって──()()()()。私と戦い始めたときからですよ」


 天狐はフフ、と笑って答える。


「なっ……!? 最初から……!?」

「それではお見せしましょう。私の奥の手──ユニークスキルを」

「ユニークスキルだと……!?」


 俺が驚愕に目を見開いたのと同時に。

 狐面の奥で、天狐の目が、光を反射する。

 まるで鏡のように。


「『万華鏡カレイドスコープ』」


 天狐がそう言った瞬間、世界が割れた。

 鏡の破片のように世界が割れて、崩れ落ちていき、一つの世界が姿を現した。

 それは光を反射し、花のような紋様を写し出す──万華鏡の世界だった。


「ようこそ、尊さん。万華鏡の世界へ」


 万華鏡の世界の中、天狐は俺の前に佇んでいた。

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