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第94話 泣いた白(黒)騎士

「ちょっとお前何してるんだ!」


 槍を折られた門番村人が声を荒げる。


「ちょっとだけ……ちょーっとだけ待ってくんない?」


 俺は指で兜の額部分をトントン叩きながら、「健康体」の力も借りて平常心を取り戻す。


「何者だお前は!?」


 そう言うともう一人の門番村人が及び腰で槍を向ける。


「えーと……魔王軍幹部ですぅ……」


「どういうこと?」


「合わせてくれ。こちらは魔王の娘、姫だ!」


 ノナは心底嫌そうな顔をした後、すました顔で乗ってくれた。


「こんな村に何の用事があるの? わたしは高貴な身分なの。早く用事をお済ませなさい、下僕」


 そういう高飛車令嬢キャラで行くんだ。いいけど。


 まあ、話が早くていい。


「村を臨検している守護兵団の責任者を出せーい!」


 兵士たちが村人の家の家具をひっくり返し、おそらくは魔族との繋がりを探している。


 村長や村の重鎮らしき人物が縄で繋がれている。


 これは俺がエルピスの読み通りフェルメールたちに接触したせいだ。


 こうなったらやれるところまでやってやる。


 無害な魔族と巻き込まれた村人を助けなければ。


「何事だ! 門を抑えておけといったはずだぞ!」


 なんだか偉そうなオッサンが出てきた。さっきフェルメールたちを攻めてきた方とどっちが偉いんだろう。


「それがこの鎧の男が……」


「魔王軍幹部だと言って……」


 弁明する村人たち。


「何ィ!? ……何だ貴様、オリバーの報告にあった『健康剣豪』ではないか。気でも触れたか」


「ハハハハハ! 冒険者『健康剣豪』とは世を忍ぶ仮の姿! 我が名は新生魔王軍が一人、毒将軍ケントである!」


 俺の指示で「下賤の者を見下し中」フェイスを保っていたノナの表情が一瞬崩れる。


 多分俺が正気かどうかを疑ってるんだと思う。


「何ィ!? 魔族め……陰で勢力を再興しつつあったか……! 守護兵団第四大隊隊長、レオンハルトが討ち取ってくれる!」


 名前だけ無駄にカッコいいオッサンが素早く剣を抜き、斬りかかってくる。


 が、ドボルザークと打ち合ったばかりの俺にとっては遅すぎる。


 EX狩刃(エクスカリバー)を解き放ち、一撃で剣をへし折る。


「最早姿を偽る必要もあるまい! 鎧よ、黒く染まれ!」


(カラーリングの変化をご所望ですか?)


 鎧の守護精霊の声。


 いいから早くしてくれ、格好がつかない。


「黒く染まれい!」


(承知しました)


 すると一瞬で白を基調とした鎧は真っ黒い鎧に変化した。所々アクセントになっている金の装飾は紫色になる。


「つまり魔族と交易していたこの村の連中は新生魔王軍の一味ということか……!」


「フ! 勘違いも甚だしい。ここの村人は我が同胞たる魔族の生活を支えているのだろう? ならば見過ごすわけにはいかん!」


「そうね。高貴なる魔族に従うのが愚かな人間の責務というもの。この者たちを罪に問うのは見当違いね」


 浮遊する結界の上で足を組み、純白の前髪を手でなびかせるノナ。ノリノリだな。


 とはいえ村人に罪を着せないようにするという俺の意図は通じているようでなにより。


「ならばこの者たちは魔族に脅されていたと!?」


 村人たちはばつが悪そうに俯いている。これが魔族だけに罪を負わせることを理解しているからだ。


「無論である! はぐれの魔族どもだが、この規模の村を滅ぼすことなど容易い……だが、はぐれ者とはいえ侮らぬことだ」


「どういうことだ……!?」


「スキルの国ダキスタリアとて彼奴らをそう簡単に滅ぼすことはできぬということだ! あの者らは歴戦の魔族。飽くまでも戦う気だというのであれば、我ら新生魔王軍がその隙を突こう!」


 本当は芸術家ごっこが大好きな素朴な奴らだが、強いは強いだろう。


 これで下手にフェルメールたちに手を出さない感じになってもらえないか。


 オリバーとトマーシュに話を通しておくことは確定だとして。


「ぐう……! 卑怯だぞ毒将軍ケント!」


 信じてくれてありがとう。純朴な隊長さん。


 それにしてもフィーナが気絶したままでよかった。俺の演技でバカ笑って成立しなかっただろうから。


「卑怯というのは敗者が負け惜しみで言う言葉だよ、レオンハルト殿。この件については隊長同士でよく話し合うといい!」


「……退屈してしまったわ。ケント。帰りましょう」


「かしこまりました、姫。最後に警告だけ。この村に責を負わせてみろ。はぐれ魔族が報復に走るぞ!」


 これで十分だろう。俺は背を向けて歩き出す。


「……何だかわからんが、ありがとうよ」


 小声で門番の村人が言った。やっぱバレバレですか?


「卑怯、卑怯、卑怯だああああ!」


 だが振り返ると膝を突いて地面を殴りながら慟哭するレオンハルトの姿が。


 兵士たちも悔しそうに拳を握り締めたりしている。


 よかったー。第四大隊とかいうのがバカの部隊で。


 村から少し離れて、俺は鎧の色を白に戻した。


 まあ鎧の形が変わるわけでもないし、新生魔王軍の毒将軍を名乗ってしまった以上、すぐに守護兵団からの追求があるだろう。


 つまり俺の次の一手は……。


 *


 ノナの結界による転移で暇そうに警備に当たるモニカとエミリーの背後に立つ俺とノナと、結界の解除で地面に叩きつけられるフィーナ。


「いっだー! 何するんですかー!」


「急に何よ! びっくりするじゃない!」


「私はフィーナさんの声に驚きました……」


 フィーナ、エミリー、モニカの三者三様の反応。


「えー、重要な話をします。一度しか言わないのでしっかり聞いて下さい」


 ノナも含む四人娘は黙り、唾をのみ込む音がした。


「ダキスタリアの指名手配犯になりそうなので、逃げます」


 そういって俺は鎧の聴覚を制限する調整をする。


「ハア!? 何言ってんのよバカケント! 王族の依頼は!? 特Aランク冒険者の身分は!?」


 何よりも冒険者ランクを気にするエミリーらしい意見。


「ああ、司祭様にそんなことが知れたら私は……」


 最早司祭を信仰しているとしか思えない謎の聖職者モニカは気絶。


「え?」


 気絶していたら指名手配犯になりそうという事態に、何が何だかわからないという素の返事をするフィーナ。


「ケント、当てはあるの?」


「とりあえず依頼された転移者失踪問題の解決を伝えにフェブラウまで戻るかな……」


 これまでのダキスタリアでの活躍がパーになってしまった。自分でやったんだけどさ。


 空が曇ってる。今の俺の心みたいだね。

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