第93話 連鎖連鎖連鎖
倒木になぎ倒された剣士と戦士は、それぞれが巨木へとしたたかに頭を打ち付け気絶した。
「ふん。口ほどにもないな」
二人のBランク冒険者を瞬殺したドボルザーク。
高周波バイオリン振り回してるより強いだろ。
俺は警戒しながら洞窟を出るが、それ以外のパーティメンバーは見当たらない。
エルピスの野郎は個人的に依頼でも出したのだろうか。
まあ、双方に犠牲が出なくてよかっ……。
「むう。やってしまったな。ドボルザーク」
「うむ。勢いでやってしまった! フェルメールよ!」
ゴキ顔故に表情は窺えないが神妙そうに話すフェルメールと、ばつの悪そうなドボルザーク。
「今のってエルピス……魔王が差し向けた刺客だろ? 何の問題があるんだ?」
「我らのような魔族は近くの集落の人間と物々交換しながら生きている。このような魔力の結晶を精製するなどしてな」
フェルメールの手の一本から乳白色の塊が生え、そのまま地面へと落ちた。
「相変わらずコン・エスプレッシオーネな出来だな、フェルメール」
「なんて?」
「『感情がこもっている』という意味だ! 野蛮な毒使いよ!」
うざいな。コイツ。
「この交流は長年の努力で勝ち得た信頼関係によるものだ。冒険者を叩きのめしたとなれば……」
「そう、それはとてもドレンテなことになるだろうな」
よくわからんが……まあ、よくないって意味だろうな。
フェルメールを見て昏倒したままのフィーナを洞窟に置いて出てきたノナは、ドボルザークが奇妙な言い回しをするたびに顔を歪める。
よくわからんが……まあ、嫌いなんだろうな。
「ノナ、今のはお前が手引きした連中ではないのか? 答えをまだ聞いていないぞ!」
「必要以上に疑うことをやめろ、ドボルザーク。お前が木の下敷きになっている間、この者たちは我と問答をしていた。その気なら先の襲撃者と挟撃してお主を討ち取っているだろうよ」
「それは、その……ええと」
音楽用語も出ずにしどろもどろになるドボルザーク。
わかりやすいなコイツ。
それにしてもエルピスが差し向けた冒険者が二人だけというのはどういうことだろうか。
その気になればキメラ軍団だの、あの忌々しい「四聖」だのを差し向けることだって……あ。
「……わざと負けるようなへなちょこ冒険者をよこしたってことか?」
「我らを貶める目的であればな。魔王のやりそうなことだ」
「しかし、そんなことをわざわざする意味がどこにある? フォルテッシモ疑問だ!」
確かに。こいつらはパンドラとは無関係に芸術ごっこに勤しんでいるだけの魔族だ。
「じゃあ動機はわたしたちにあるってこと……そうよねお兄ちゃん?」
ノナに促され俺は考えを述べることにした。
「ああ。まあ、色々あってエルピスが自ら魔王だったという過去を明かしたんだ。だから俺たちはお前らに奴の過去について聞きにきた」
「ふむ? 自ら魔王を名乗った上で我らの口封じを図ったと? どうにも辻褄が合わんが……」
「そう。エルピスの狙いはお前らの命じゃない。冒険者を返り討ちにした魔族と、それを庇う俺たちっていう構図じゃないかな」
洞窟周辺に複数の気配を感じる。
俺たちを取り囲むように展開している。
おそらくは冒険者か、守護兵団。二人の冒険者と連携がなかったあたり、後者か。
「貴様らは完全に包囲されている! 抵抗せず魔族を引き渡せ!」
オリバーやトマーシュとも異なる声、そして偉そうな感じから隊長クラスっぽい。
「世にも珍しい魔族の生き残りがいるっていうから来てみたんだけど、ダメだった?」
「ならそこに倒れている冒険者はなんだ!」
「寝てるんじゃない?」
そうやって意味のない問答をする間に準備を整える。
「そんなはずが……どわーっ!」
次々と木々が枯れ、倒れていく。それはもうドミノ倒しみたいに。
まあ死にはしないでしょ。
時間稼ぎ中に地面に毒を仕込むいつも通りお馴染みのパターン。
「ノナ! フィーナを!」
ノナはフィーナを浮遊する結界で輸送する。
「ドボルザーク! フェルメール! お前らはこの辺りで安全なところに逃げろ!」
「だが壁画が……」
「新しく描け!」
渋々といった様子でフェルメールが頷き、ドボルザークと逃亡する。
そして俺たちは二人とは逆方向へ逃げる。
そこに何があるかはわからないが、追っ手を減らすことはできるだろうと考えてのことだ。
「このおばさん、降ろしていいかしら。いい加減重いわ」
「じゃあ俺が担ぐから!」
フィーナを運んでいるノナが不満を述べたが、必死に走っている俺がそう返すと今度は口を尖らせるノナ。
「それはそれで嫌ね!」
何だかわからんが、女同士っていうのはややこしいな!
そしてノナは小さな結界の上に乗り、浮遊している。
それ便利じゃない?
息を切らしては「健康体」スキルで平常時の脈に戻されるというのを繰り返している俺を前にしていい気なもんだ。
疲れないのはいいけど、気分的に気持ち悪いんだよね。
そうこうしているうちに俺たちは森を抜けた。
少し先に見えるのは小さな集落。魔族たちが交流しているという村だろう。
急いで村の門から駆け込もうとすると、門番の村人がすかさず槍を構えた。
は? なんで?
「お前らが魔族を守護兵団に売ったのか!? あいつらの魔力の結晶で俺たちの生活がどれだけ楽になったと思ってる!」
村の中をよく見ると守護兵団が数人、村人の家を取り調べている。
もうわけわからん。
エルピスが魔王だと明かして、魔王の過去を探りに魔族と会って、魔族に倒される用の三下冒険者がやられて、それを見た守護兵団に追われる。
ここまではわかる。
エルピスのことだからそこまで考えてそう。
でも近くの村で敵視されるのは? これも計画のうち?
連鎖しすぎだろ。もうわけわからん。
突き出された槍先を無造作に握り潰し、俺の精神的疲労はピークに達した。




