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第92話 個性派魔族

「上げていくぞ! クレッシェンド!」


 再びドボルザークが振りかざした魔剣ベーオリーンをEX狩刃(エクスカリバー)で受け止める。


 魔剣とか言ってるけど霊剣とは別物だよな。


 そうじゃなかったらドワーフへの信頼がなくなるんですけど。


 だがこれでご自慢の楽器は呆気なく腐食してしまうはずだ。


 魔剣と霊剣がぶつかり合う。


 え? ぶつかり合っちゃってる?


 そして二振りの剣(?)の鍔迫り合いは想定外の結果を生み出そうとしていた。


 高速振動するベーオリーンが毒を弾き、周囲に巻き散らしている。


 工場で鉄を切るときの火花みたいに毒液が飛び散るのを見て、流石に俺の肝が冷える。


 咄嗟にフィーナ達の方を見ると身を守るべくノナが結界を張った。とりあえず一安心だ。


 飛び散った猛毒で木は一気に立ち枯れ、葉は溶けた。


「笑止! 魔剣演奏家である私の前に敵はない! おとなしく弾かれたまえ!」


「知らねえよ、そんな言い回し!」


 こいつは魔王エルピスから何らかの影響を受けているのか、中途半端に俺の世界のことを知っているみたいだ。


 でもこれ、海外のオリジナル寿司より酷い文化の誤解だぞ。


 次第に俺はドボルザークのベーオリーンに押し負け、枯れた木を背にしていた。


「これでフィーネ(終わり)だ!」


 勝ちを確信したドボルザークの笑みを見て、俺はEX狩刃(エクスカリバー)を引っ込める。


 力負けしてたというか、相手が高周波バイオリンなもんだからビリビリとめちゃくちゃ手が痺れるんだわ。


 勢い余ったドボルザークは枯れ木に突っ込み、へし折ってしまう。


 哀れな魔族はそのまま巨木に圧し潰され、手足をばたつかせる。


 魔族の協力を取り付けるはずが殺しちゃったらどうしようとか思ったけど、魔族だもんな。丈夫みたいだ。


「しばらくそうしていなさい。お話にならないわ」


 ノナが結界から出てくるとドボルザークを冷たく見下ろして言い捨てる。


 すると枝や葉で隠された「いかにも」と言わんばかりの洞窟の入り口から、虫を思わせる二足歩行の黒い巨体の魔族が出てくる。


 なんか……すごくゴキブリっぽい……。ゴキ人……。


 フィーナが大人しいと思ったら立ったまま気絶している。いいバランス感覚してんな。


「同胞が失礼した。我はフェルメールと名乗っている。ドボルザークと同様、真人(まびと)としての名は捨てた」


真人(まびと)?」


 フェルメールへのツッコミはもうやめ、聞き慣れない単語について聞き返す。


「主らの言うところの魔族よ。互いにどちらが『真の人類』かを争っていた時期があったのだ」


 ドボルザークは正当派魔族っぽい青肌だけど、こっちは完全にゴキちゃんなんだが。魔族同士の連帯意識とかあったのか?


「そうやって魔王……エルピスが焚きつけたの。人類こそ人の道に反する劣等種だとしてね」


「仮に今の人類に勝てていたとしても、その次は終わりのない部族間戦争であったと思うがな。今となっては愚かな話だ」


 なんかすごい理知的……!


 人は見かけで判断するなって言われるけど魔人はもっとそうだな。


「ノナよ。頼んでいた物資はついこの間受け取ったばかりだが、何用だ?」


「エルピスについて教えてちょうだい。洗いざらい全部」


「……面倒ごとに巻き込むなよ」


 フェルメールは二本の腕で洞窟入口を隠していた草木をかき分ける。


 残りの腕は何を持っているんだろうとよく見ると、筆と画家が絵具を乗っける板を手にしていた。


 芸術クラブか?


 引きずるようにフィーナを洞窟に引っ張り込むと、洞窟内は壁面を利用した大きな牛やら熊やらがいっぱい描かれていた。


 あー、これって……洞窟壁画?


 ドボルザークに比べると真っ当にアートをやってるけど、誰か奴にキャンバスの存在を教えてやってやれ。


「それで、ノナよ。今さらエルピスの何が知りたい」


 フェルメールがそう言うとノナが俺を見据えた。代わりに俺が答える。


「エルピスがまた悪事を企んでる。俺達が知ってるのはエルピスが『俺のいた世界』で影響を受けて、スキルを集めてるってことくらいなんだ」


「ノーラの転移か……あれが魔王軍の敗北を決定付けた。だがな、奴はある日突然何事もなかったかのように我らの下に帰ってきたのだ」


 そしてフェルメールは自身が描いた壁画を見てから嘆息した。


「奴が大陸の隅に追いやられた我らにもたらしたのは魔族にはない概念だった……絵画、音楽、文学。我を含む一部の魔族はその虜になったのだ」


「それで危険を冒して人類の生活圏で芸術活動をしてるってことか?」


「ああ。人の営みというものは我らに刺激を与える。魔族には種別の違いはあれど、同一種族であれだけの多彩な生き方はなかったからな」


 そう語るフェルメールの表情はわからないが、本心からそう語っているように見えた。


 そして俺の脳裏に一つの疑問が浮かんだ。


「もしかしてこっそり人里に降りたりしてる?」


「ああ、こっそりとな」


 嫌な予感がしてきた……。


「それが見つかって……例えば、例えばお前かドボルザークが人間に殺されたらどうなる?」


「見つかるようなことはないと思うが、部族による弔い合戦が起こるだろうな」


「……クソ。俺達はエルピスに踊らされてたんだ。俺達に魔王だった過去を明かして魔族にコンタクトを取るように仕向けて殺させる……追っ手がいるはずだ!」


 エルピスの息のかかった奴らが俺達の跡を付けて、魔族とひと悶着起こさせるつもりだ。


 ダキスタリアは「暴走者」の騒動があったばかり。妙な動きをしている集団がいても守護兵団では対応しきれないはず……!


「何だ貴様らは!」


 木の下敷きになったままのドボルザークが誰かを威圧している。


「本当に魔族じゃねーか! 初めて見たぜ!」


「一匹五百万ゼドルだっつーんだからな! 当分遊んで暮らせるってもんよ!」


 洞窟を飛び出すと魔族を狩りに来たパーティと鉢合わせた。


 装備の質を見るからにBランクパーティ。


「殺すな!」


「やだよ」


 倒れているドボルザークに剣を突き立てようとする剣士。


 だが倒木が突如として跳ね上がり、剣士とその後ろにいた戦士を吹き飛ばした。


「ベーオリーンを用いない戦いは野蛮故封じていたがこの際仕方ない、かかってこい!」

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