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第90話 和解

「君がジークの奴を討ったんだろう? その話を聞かせてくれないか」


 ジーク。俺の「健康体」とEX狩刃(エクスカリバー)を狙っていた「剣魔」であり「パンドラ」の尖兵。


 アリウスはそのジークと過去に数度交戦し、二人の間には深い因縁があるように思えた。


 アリウスの顔は治療されていたが、血や泥の跡で薄汚れていて表情が読めない。


 俺が宿敵を討ってしまったことをまだ怒っているのだろうか。


「ああ。俺が殺した。ジークは堕印奴隷(ダインスレイヴ)に拒絶されて、その支配していた霊剣で死んだ」


「無様だな。奴らしい最期だ。しかし君、あんな極悪人といっても人を殺した経験はなかったんだろう?」


 アリウスの目は俺を射抜くようで、一切の嘘や欺瞞を認めない態度が表れ出ていた。


「これ以上アイツの犠牲者を出したくなかったからだ」


「その判断は正しい……そうだね。少し、昔話をしていいかな」


 俺は頷いた。アリウスが自身の過去に、そして俺と向き合おうとしている。


 その想いを否定する気はなかった。


「僕の恋人、ポーシャも聖騎士だった。強くて優しかったよ……だが、殺された。霊剣欲しさのジークにね。そして僕は彼女の剣で誰かの命が奪われるのに耐えられず、奴を追ってその剣を壊した」


 俺は黙ってそれを聞く。そこに俺が新たな霊剣、堕印奴隷(ダインスレイヴ)を与えてしまったわけだ。


 これじゃあアリウスからの当たりが強かったのも仕方ない。


堕印奴隷(ダインスレイヴ)を手にした奴に僕は敵わなかった。霊剣を完全な支配下に置いて十全にその力を発揮する、その力に」


「俺のせいだ。俺が堕印奴隷(ダインスレイヴ)を奪われる隙を作ったから……」


「それはそうだ。でも僕が君に怒っていたのは、自身の無力さへの八つ当たりのようなものだった。我ながら情けない限りだ」


 意外だ。随分と素直になったな、アリウス。


 しかし何がきっかけでそんな改心したみたいになってるんだ。


「何だ。変なものでも見るような目をして、失礼だぞ。さっきルーカスと喧嘩していて気付いたことがある……一つのことに囚われることの愚かさにね」


「確かにルーカスは好きなように仕事して、ギャンブルして、酒飲んで、ギャンブルしてるけど。それから学ぶことがあったと?」


「ああ。ジークが君に殺されたと聞いて、僕は初めて気付いたんだ。聖騎士としてこれから何をすべきか、全て抜け落ちてしまっていたことにね」


 なるほど。だからその虚無感と焦りをどう飲み込めばいいかわからなくなって、俺につっかかっていたのか。


「だけど僕のその想いをルーカスは受け入れてくれた。お互い傷だらけになったが、彼の生き方を少し学べた気がする」


 そうかなあ。単純にお前にムカついていただけだと思うけど。決して言うまい。


 アリウスは右手をそっと俺に向けた。


「今までの非礼を詫びる。そしてありがとう、僕の復讐を終わらせてくれて」


「俺こそ堕印奴隷(ダインスレイヴ)の件とか、性格悪いと思ってたりしてごめんな」


「正直だな、君は」


 そうして俺と微笑を浮かべるアリウスは固い握手を交わした。


 ジークの件は、これで本当に終わりだ。


 改めて、そう思った。




「あ、戻りましたね。じゃあ次は魔族の生き残りを探すことになったので!」


「はあ!?」


 フィーナの事後報告に俺は和解の余韻も消し飛び、ひっくり返りそうになる。


 オリバーとトマーシュ、レイチェルは退室しているし、決定事項かよ。


 エルピスはギュノンを狙いたがってたけど、ギュノンは盤石だから今後どうするかって話だっただろ。


 それに魔族って。最近は魔物ともまともに戦ってないのに急に魔族って、心の準備が。


「エルピスの過去を探るとなると、やっぱり現役の『パンドラ』構成員じゃなくてかつての部下かなーと」


「それが魔族?」


「それが魔族です」


 まあ順当にいけばそうか。「健康体」スキルが混乱した俺を冷静にする。


 そして脳内に以前フィーナの説明した内容が薄っすらと蘇る。


 魔物を操れるのが魔族で、昔の戦争で大陸の土地を人間が住めないように汚染して回ったんだよな。


 いや、改めてとんでもないことをしてるなあ。


「でも魔族が住んでるのって大陸の端っこの方で、しかも土地が汚染されてるんだろ?」


「魔族の生存は噂ですけどね。瘴土(しょうど)の毒対策はまあ、ケントなら問題ないでしょう」


「俺一人で行くの!? やだよ!」


 俺が鎧をがちゃがちゃとさせ、必死に身振り手振りで訴える。


「流石に私だってそこまで鬼じゃありませんよ。ガイド役がいないといつまで経ってもたどり着けないでしょうし」


 でも何十年も冒険者を毒沼に送り込んでたんですよねえ、あなた。


「わたしが付いていってあげるわ。ケント。対瘴気の結界を張れば済むだけの話だから」


「私だって行きます―! エルフだって頑張れば瘴気くらいどうにかできるんですー!」


「ということは?」


 会議室に残ったフィーナとノナの顔を交互に見て、嫌な予感に震える。


「魔族探索は私とケントと……この子です。大勢で行っても警戒されますし、瘴気対策が難しいですからね」


 嫌な予感が当たった。


 やたらと距離を詰めてくるノナと、何故かノナに対抗意識を燃やしているフィーナ。


 レイチェルがこっちに押し付けられなかったのは僥倖だったが。


「モニカとエミリーは?」


「手薄になったダキスタリアを警護してもらいます。いざというときワープホールを開く際の起点になりますしね」


 まあ、妥当だろうな。ツッコミ役のエミリーが欠けてしまうのは痛手だが。


「『リスクジャンキー』の面々も守護兵団から提示された金額でギュノン入りを納得したそうです。アリウスさんとレイチェルもそっちの組ですね」


「そういうこと。年を取ると話が長くなるって本当なのね。じゃあ行きましょ」


 ノナが俺に腕を絡ませようとするが、身長差から上手くいかず仕方なく手を繋いだ。


「へーんだ! 年を食うことだって悪いことばっかりじゃありませんけどー!?」


 そういうとフィーナは俺の腕を引き寄せ、身体を密着させた。


 何やってんだよこいつらは。


 そもそも魔族を探しに行く前に、エルフの里に連れて行ってほしいんですけど。


 せめて着脱可能にならないのか、この鎧。


「先にエルフの里に寄れない?」


「だ、ダメです……」


 フィーナは一瞬何かに気付いたような顔をして、視線を泳がせた。


 ドワーフの隠れ里が移転したからって、五十年の間にエルフの里もそうなった可能性に気付いたのか?


 このエルフ……道中徹底的にシメてやるぞ。今は密着状態がまんざらでもないからしばらくこのままでいるけど!

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