第86話 監獄の少女
あの「パンドラ」がダキスタリア発のご当地組織だと!?
誰も教えてくれなかったじゃねえか。
よく考えたら誰にも聞いてないけど。
「総長! それは……!」
「あーこれ言っちゃダメなやつだっけー? ごめーん!」
レイチェルを咎めるエドガーと、どこ吹く風のレイチェル。
「貴女はもっと守護兵団総長としての自覚を持ってください!」
「腕試しで先代総長に試合を申し込んだら勝っちゃっただけだしー。倒したら代替わりなんて聞いてなかったんだもーん!」
「動機からしておかしいですから……!」
エドガーが文字通り頭を抱えた。おたく大変そうだね。
自由すぎる相方を持つと大変だよね。すげーわかる。
というか何だその前時代的なリーダー選抜方法……いや、前時代? 今がその前時代だからセーフ?
そういえばうちの無法者はどうしたんだろう。
あ、近くで辰切丸と言い争ってる。
「パンドラ」についての爆弾発言が出たばっかりなんだし、同時並行して揉め事を起こさんでくれんか。
「どんだけ魔力を持っていけば気が済むんですかー! 【麻痺】一回で五回ぶんくらいの魔力消費があるんですけどー!」
「だって魔法の威力を増幅させるのにも魔力がいるしなあ。敵の兄ちゃんも強そうだったし、五倍が妥当かなあって」
「でも効いてなかったら意味ないですー!」
ああ、イツキと戦ってたときの話ね。
辰切丸の能力の「増幅」には魔力がいるってことか。
まあ何の代償もなしに急に能力が開花するはずもなく……って感じ?
それで、俺はどっちの組の仲裁に入ればいい?
普通に考えれば「パンドラ」ことを知っていそうな守護兵団組からなんだろうが、フィーナって後回しにされたりするのを根に持つからなあ。
そもそも国宝が盗まれてんのになにやってんだ。こいつらは。
レイチェル、エドガー組は取っ組み合いに移行。堕印奴隷はどうにかしてエドガーが遠ざけたらしい。
対してフィーナ、辰切丸組はフィーナが魔力で辰切丸を屈服させようとしている。
「逃げましょう、エミリーさん」
「なんかヤバそう! 理屈はわからないけど!」
「なんだあの魔力の流れは!?」
モニカ、エミリー、「リスクジャンキー」組は全速で逃げていく。
レイチェルとエドガーはマウントポジションを入れ替えながらゴロゴロと遠ざかっていく。
どう考えてもフィーナの行動に問題がありそう。
理屈はわからないが、魔術士たち数名が逃げていったというのはそういうことだろう。
「フィーナ、落ち着いてよく聞け。今すぐやめろこのバカ!」
「はあ!? バカってなんですか!? 元をただせばこんな剣を寄越したケントが……」
「エルフの姉ちゃん、それ以上は……溢れる……!」
ああ。俺が余計なことを言ったばかりにフィーナの込める魔力が強まったらしい。
次の瞬間。フィーナを中心として大爆発が起こった。
俺は爆風によってもみくちゃにされ、レイチェルとエドガーの殴り合いに突っ込む。
勇者の鎧が頑丈だから俺にダメージはなかった。
そして常に回復魔法を自身にかけているエドガーは無傷だが、兜がみぞおちにめり込んだレイチェルは激しく咳き込む。
爆心地のフィーナは多重に防壁を瞬時に展開させたようで無事に見える。
頼むから少しは痛い目を見てくれ。
立ち上がって何から手を付けるべきか考えた後、思考停止すると転移用のワープホールが出現する。
守護兵団第一大隊隊長のオリバーと、第三大隊隊長のトマーシュ。
守護兵団の司令部から俺たちをここまで送り出した二人だ。
エドガーの髪を掴み、顔を殴りつけるレイチェルに対して、二人は平然と話しかけた。
ええ……俺かなり引いてるんですけど。
「総隊長、苦戦されたようで」
「今も苦戦中……よ!」
エドガーがレイチェルを引き剥がし、殴れらた傷を回復した。
「いや、止めてやれよ」
「いつものことだからな。総隊長は『剣聖』といえど、格闘能力は並みの少女と大差ない。それこそ治療士と互角くらいには」
「その調子だとしょっちゅうあることなんだな。で、アンタらは何しに」
どうやら一斉に正気を取り戻した「暴走者」の様子を見て、前線で何か起こったと察してやってきたらしい。
よかったね。もう少し早かったら転移直後に大爆発だったぞ。
「状況の整理を頼む」
「敵の正体は『パンドラ』で、『英霊の宝玉』が盗まれたって。青いやつね」
俺に事情聴取しているオリバーはトマーシュは顔を見合わせ、嘆息した。
「信じがたいが、信じざるをえまい。外部の君から『英霊の宝玉』の名前が出るというのはそういうことだからな」
「物分かりのいい人っていいなあ」
おっと、思わず本心がこぼれ出てしまった。
「追わなくていいのか?」
「追う方法がない。奴らは転移者たちと作った縁で今回彼らに干渉してきたようだが、こちらからは難しい。転移担当の魔術師のレベルが高すぎる」
「そうか。俺には一人だけ心当たりがあるんだ」
俺はフィーナの放った爆風によって飛び交う石やら土を弾いていた「壁」をノックした。
「ノナ。いるんだろ?」
「バレちゃった。勘がいいのね」
結界を解いて出てきたのは特殊な結界使いノナ。白い髪をなびかせ、赤い目が俺を見据える。
「いいのか? 戻らなくて。他の連中は引き上げていったけど。それとも潜伏する気だった?」
突如として現れた異様な姿の少女にオリバーとトマーシュが剣を抜く。
「待ってくれ……この子は多分敵じゃない」
「今はケントの味方。もっとケントと……色んな世界を知る人とお話したいの。それ以外の人が敵になるかは、あなたたち次第だけど」
「この人たちは俺の味方。だからノナの味方だ。どうやってここに残ったんだ?」
ノナはオリバーたちに向けていた警戒する表情から一転、満面の笑みを浮かべ俺に答えた。
「魔力を拒絶する結界を張ったの。これならあのカミラの転移だってわたしを連れ戻せないわ。ねえ、ケント。お話しましょう?」
「じゃあ、『パンドラ』について教えてくれないか。特に宝玉をどう使うか、とか」
「それはね……」
ノナが言いかけると、フィーナの頓狂な声が響く。
「な、なんですかそのアルビノ薄幸病弱風少女はー!? しかもケントに随分懐いて……えー!?」
「うるさい。エルフのおばさん」
「キー!」
フィーナとノナの先行きは不安だが、とにかく俺たちはノナという強力な情報源を得た。




