第83話 毒と呪い
「堕印奴隷の使い方が感覚でわかるわ! いっけえー【血呪】!」
凝縮された呪いが赤い光線となって、フェルナンド向けて放たれた。
フェルナンドは贋作聖剣で容易に打ち払う。
「バカとハサミはとも言いますが、『健康体』も使いようですねえ」
俺の発案した改めて急造霊剣使いに感心してみせるフェルナンド。
重要なのはここからどう戦うか。奴の贋作聖剣は、偽物とはいえ呪いや毒を浄化する機能があるようだ。
「EX狩刃! 聖剣時代のお前に弱点はあったか!?」
「ない! いや、本当だ!」
マジかよ。当てが外れたが、EX狩刃の真剣な口調からして嘘ではなさそうだ。
なら偽物の地金が見えるまで、攻撃を叩き込むしかない!
「レイチェル! そのまま攻め立てろ!」
俺はEX狩刃・極を発動。
濃縮された毒が剣を覆う。
レイチェルと手を繋いだまま俺は一歩前に出る。
「引っ張んないでよー!」
狙うのはフェルナンドが【血呪】を受け止めた瞬間。
極限の毒と呪いを捌き切れるか? 偽物使い!
【血呪】を照射されながらフェルナンドは微笑を浮かべた。
マズい。本能的にそんな感じがする。
俺は全力で踏み込むのをやめ、安全策として剣を振るい毒をフェルナンドに浴びせようとする。
そしてその毒は赤黒い閃光にかき消された。
(【血呪】!?)
間一髪のところでフェルナンドの放った【血呪】を受け止めるが、出力がどんどん増していく。
そして奴の手には……複製された堕印奴隷。
「クク……久しぶりでしょう。その身で堕印奴隷の呪いを受けるのは。贋作呪剣、どこまでやれるのやら気になりますねえ」
レイチェルは【血呪】を弾丸のように連続で放つ技を身に着けたようだが、フェルナンドは巧みに避けながら俺への呪いの照射を止めない。
「EX狩刃! まだ耐えられるか!?」
「舐めるな! 貴様の魔力次第だが、丸一日耐えてみせる!」
無理言うな……と言いかけて、俺は考えていなかった一つの可能性にたどり着く。
それと同時に勇者の鎧の人工精霊が警告を発する。
(貯蔵魔力量が急速に減少しています。これ以上の戦闘行為は推奨されません)
そうだ。霊剣の二本運用……しかもレイチェルは堕印奴隷で見境なく呪いをまき散らしている。
堕印奴隷の本来の使い手は俺……つまりレイチェルの消費した魔力は、俺が肩代わりしているのか!
「ようやく気付きましたか、ケント氏。自らの愚かしさに、ねえ」
「お前も条件は同じだろ……!」
「潜在的な魔力量の差ですよ。おわかりいただけましたか?」
この野郎。「何が戦闘向きじゃない」だ。
バリバリの武闘派じゃねえか。
「レイチェル! 【血呪】は控えてくれ! 俺というか、鎧の魔力が持たない!」
「はあー!? アンタがすっとろいから満足に動けないんでしょうが!」
俺の警告に耳を貸さず、【血呪】を連射するレイチェル。
一方でレイチェルの攻撃パターンは完全に把握されたようで、最早フェルナンドは呪いを打ち払うことなく全て回避。
「ぐぅ……ッ」
強がってはいたが、【血呪】を受け続けるEX狩刃から苦悶の声がする。
またEX狩刃を壊すことだけは、絶対に避けたい。
「ケント氏の削りは終わりました。次は……レイチェル嬢、貴女を潰します!」
身を翻して俺への攻撃をやめたフェルナンドは、一息でレイチェルの眼前まで踏み込み再び鋭い蹴りを放つ。
剣の間合いの内から蹴られたレイチェルは吹き飛ばされた。俺と繋いだ手が外れる。
「あああああっ! あああ!」
身を起こそうとしたレイチェルが悲鳴を上げる。
戦闘状態にある堕印奴隷が、本来の持ち主ではないレイチェルを呪い、蝕んでいる。
クソ! そうだ、みんなは今、何してる!?
周囲を一瞥すると、俺たちとフェルナンドを囲うように半透明の結界が張られていた。
結界の影響で入れないのだ。そしておそらく外には別の敵がいる。
「あとは二本の贋作霊剣であなたを切り刻むだけです、ケント氏。発想はよかったのですがねえ」
「黙れ。お前には真似できない、毒剣EX狩刃でキメてやる」
フェルナンドは連続で呪いを照射した。これ以上EX狩刃に負荷をかけるわけにはいかないため、回避に徹する。
「霊剣など所詮道具……ジークのように『支配』することも、『従属』させる必要などありません。むしろ自由意思がないだけ贋作の方が優れているのですよ、ケント氏」
俺を嘲笑い、【血呪】と聖剣の切り込みで着実に俺を追い詰めるフェルナンド。
「そこに転がっている剣聖のレイチェル嬢……彼女は私の贋作霊剣に相応しい。どうです? あなたがその気ならいくらでも贋作を差し上げますがねえ」
「そうね……」
レイチェルがゆらりと立ち上がる。その手には堕印奴隷。
「……剣聖なめんじゃないわよ! この似非剣士! バーカ!」
渾身の力でレイチェルが【血呪】を放つ。そして同時に崩れ落ちた。
震えた剣先はフェルナンドには向いていなかった。
「愚かな……」
そう吐き捨てたフェルナンドの顔が驚きで歪む。
そう、レイチェルの放った【血呪】はEX狩刃に直撃していた。
「言ったよな……毒剣EX狩刃でキメてやるって。いや、毒呪剣か?」
毒と呪いを帯びたEX狩刃から赤黒いオーラが立ち上る。
贋作呪剣を捨て、贋作聖剣を両手で構え守りを固めるフェルナンド。
「喰らえ! 【毒血呪】!」
二本の霊剣の主である俺はEX狩刃と堕印奴隷の会話を聞いていた。
霊剣に認められたことのない奴には聞こえない、秘密の会話。
つまりはEX狩刃が堕印奴隷の呪いを取り込み、受け入れるという意味のもの。
結果として生まれたのが、赤紫の光線【毒血呪】。
それはレイチェルの超人的な精神力と剣士としての誇りが成し遂げたものだ。
つまり会話の聞こえていた彼女は一時的にではあるが、堕印奴隷に認められていたということ。
そして霊剣に自由意思があるからこそ逆転の一手となった。
「クク、そうですか……コピーしても聖剣としての機能はもう劣化して……」
「EX狩刃はもう毒剣だ! 見りゃわかんだろうが!」
霊剣同士の合わせ技になす術なく、フェルナンドは吹き飛ばされていった。




