第82話 贋作使い
紫色のマントをたなびかせ現れたのは「四星」の一人、フェルナンド。
ジークとの決戦時、審判気取りで仕切っていた男。
フェルナンドの姿を認めた瞬間、既にレイチェルは斬りかかっていた。
出遅れた俺はEX狩刃と堕印奴隷のどちらが有効か逡巡する。
いや、「パンドラ」が相手なら手加減する必要なんかない!
二刀で行くぞ!
フェルナンドはレイチェルの刃を人差し指と中指で挟んで受け止めると、片眼鏡をはめた顔を微笑で歪ませて言う。
「私が『四星』に抜擢されたのは戦闘能力からではないと、以前『アバドン』でお話したかと思いますがねえ」
「悪党の言ったことなんか一々覚えてられるか!」
俺は速攻を狙ってEX狩刃を突き出す。
だがフェルナンドは反撃の意思すら見せず、レイチェルの剣を指で挟んだまま引っ張り俺の前に引きずり出した。
咄嗟にレイチェルは剣を手放し、地面に飛び込むように避ける。
が、俺もレイチェルを巻き込まないギリギリのところで刃を止めたため、フェルナンドへ攻撃は届かなかった。
フェルナンドは口角を釣り上げている。明確な嘲笑。
レイチェルを庇う俺の動きを読んでたとでも言いたいのか。
「ケント氏、あなたは非情な判断ができない。以前のジークとの戦いで見せてもらいましたからねえ。よくわかります」
「俺にお前を殺す覚悟ができていないとでも思ってるのか?」
「口だけでなら、何とでも」
フェルナンド。一々頭にくる奴……だが俺の「健康体」スキルが激昂してしまわないよう、怒りを一定のところで留めている。
レイチェルは飛び起きると同時に腰に差したナイフを抜き、逆手に構えた。
「フフ……お待ちください。私はあなた方と直接戦いに来たわけではないのですから。おわかりでしょう?」
確かにフェルナンドは超人的な瞬発力と判断力で俺とレイチェルを抑えたが、攻撃に転じる様子はない。
「じゃあなんだっつーのよ! 身なりから話し方まで全部うさんくさい!」
「これは手厳しいですねえ。先ほども申しましたように、戦闘向きではないのですよ」
レイチェルのナイフを握る手に力がこもったように見えた。
「剣聖」の一撃を容易に受け流してこのセリフ。プライドが傷ついたに違いない。
「じゃあ何をしに来た。暴動が鎮圧されて、敗北宣言でもしにきたのかよ?」
「それはですね。誠に不本意ながら、私が前線に出て事をなす必要ができたということです。いやあ……ままなりませんねえ」
レイチェルの剣を構え、フェルナンドはいつでも斬りかかれる態勢に移る。
「そうか。今から俺がお前の嘘を言い当ててやろうか」
「ほう? 私が嘘を? それはそれは。私はどうにも『うさんくさい』ようですから、そう捉えられても仕方ありませんがねえ」
フェルナンド。この男は怒らせ、判断を鈍らせる目的で俺たちを煽っている。
だが、それ以上に会話を楽しんでいるように見えた。
だから逆に俺が奴の真意を突いて、揺さぶる。
「前に言っていたよな? 『転移者』はスキルを取り出す資源だって……それを暴走させて使い捨てるのは、お前ら『パンドラ』の理念に反する。そうだろ?」
「我々の『転移者』への考え方はおっしゃる通りです。興味深いですねえ。続けていただけますか?」
「お前はあえて暴動が鎮圧されてから前線に出てきた。本当は衆長の命なんてどうでもいいんだろ? ここに集まる対『パンドラ』の戦力が削れれば」
フェルナンドの顔から笑みが消える。
ビンゴだ。
「はあ……バレてしまっては仕方ありませんねえ。確かに『健康剣豪大冒険団』、『リスクジャンキー』、アリウス、ダキスタリアの主力を叩いて次のフェーズへと進めるつもりでしたが……バレたところでなんだと言うのです? なんの意味が?」
「意味? お前の顔から余裕が消えたぜ、フェルナンド!」
俺の宣言と同時にレイチェルが再び斬りかかる。
左手を前に構え、右手にナイフ。
だがフェルナンドの鋭い前蹴りが空気を破裂させる音と共に放たれ、レイチェルは吹き飛ばされた。
「大丈夫か!?」
「あったりまえでしょ!」
レイチェルは左手で蹴りを受けながら、後方に鋭く飛び退って威力を最低限に減らしていた。
そして笑みの消えた顔で、フェルナンドが奪った剣の腹を指先でなぞった。
「簡易刻銘……EX狩刃」
途端に剣から爆発的な魔力反応がした。しかも何て言った? EX狩刃?
「私を本気にさせたこと、後悔させてみせましょう。ケント氏、剣聖のレディー?」
「レイチェルよ! でもどうすんの! こいつマジになってんじゃん!」
奴の剣に何が起きているのかはわからない。
だが、奴から余裕ぶった態度が消えた。そこに付け入る隙はあるはずだ。
「私と同じ気配がするぞ!」
「ホントだ。EX狩刃が二人いるね」
EX狩刃と堕印奴隷がそれぞれ口を挟む。
フェルナンドの一閃を、霊剣のクロスで受け止めながら状況を整理する。
確かにEX狩刃と似た感じがする。しかし毒の気配がない。
そしてEX狩刃の毒も、堕印奴隷の呪いも相手の剣には効いていない。
むしろこちらの力が浄化されてすらいるような……。
「EX狩刃でも、聖剣のEX狩刃か……!」
「偽物ですがね。『パンドラ四星』が一人。『贋作使い』フェルナンド、推して参る!」
フェルナンドの踏み込みと二度目の切り込み。
これは二刀を叩きつけてどうにか逸らす。
調子を取り戻したとはいえ、まだ緻密な毒コントロールにおいては連携不足のEX狩刃と、まだ関係性の浅い堕印奴隷。
相手の力量も考慮すれば、劣勢なのは俺だった。
「ちょっとー! アタシはどうすればいいのよー!」
「追加の剣でもエドガーからもらってこい……いや、待った!」
堕印奴隷を宙に投げ捨て、空いた手でレイチェルと手を繋ぐ。
「ななな……何よー! 急に!」
「受け取れ!」
赤面しながら堕印奴隷を手にしたレイチェルの表情が変わる。
やっぱりな。予想通りだ。俺の「健康体」は手繋ぎで共有できる。
本来堕印奴隷の持つ呪いは、霊剣を扱うスキルを持たないレイチェルでも扱えるように無効化されているはずだ。
「考えましたねえ……ケント氏」
「これが……霊剣! 霊剣なのね! そうなのね! 堕印奴隷!」
身構えるフェルナンドと歓喜するレイチェルを交互に見据えて、俺はキメた。
「鬼に金棒、剣聖に霊剣だ! 覚悟しろよ、偽物野郎!」




