第79話 ダキスタリア事変
守護兵団の中央司令部に転移した俺たち「健康剣豪大冒険団」と「リスクジャンキー」はアリウスの先導で司令部の建物内部を突き進み、大きな机に大きな地図が敷かれた作戦室にたどり着いた。
そこで指揮を取っているのは第一大隊隊長のオリバーともう一人の隊長格と見られる人物。
地図の上では人生ゲームのピンみたいな駒が独りでに動き回っている。こちら側の兵士を指しているのだろうか。
「第二大隊は一旦下げろ。各隊の中で最も『暴走者』の割合が高いからな。もう部隊としては機能しまい」
「私の第三大隊が最も転移者の割合が低い。彼らをもっと前に押し出すとしよう。第二大隊は後退しつつ『暴走者』を拘禁せよ」
次々と指示を飛ばすオリバーに対してそれを補佐するように立ち振る舞うもう一人の隊長。
しかし、耳に手を当てた隊員の一人がスキルか魔術かはわからないがどこかと交信し、オリバーに告げる。
「速報です! 第二大隊は瓦解しました! 現時点で死者こそいませんが『暴走者』の拘禁は不可能です! そして『暴走者』も組織立って行動している模様!」
「そうか。では第二大隊には生存を最優先に行動するように伝達しろ」
忙しなく指示を飛ばすオリバー。そしてもう一人の隊長がアリウスに声をかける。
「ありがとう、アリウス。君の言う増援とは彼らのことだね。少数だが君の推薦だ。よく働いてくれるだろう」
「僕と縁があって転移の範囲にいたのが彼らだけだったということさ。だがトマーシュ、過度な期待は彼らには酷というものだよ」
もう一人の隊長はトマーシュというらしい。そしてアリウスの俺たちを舐めた態度。相変わらずだな。
「ふーん! 結構な物言いですね! なんとなんと、うちのケントはあなたが負けたあのジークを倒しましたけどねえ!」
おいバカフィーナ、アリウスにジークの話はダメだ。ダメなんだよ。
「何だと? 僕の獲物を君は……!」
そう。このアリウスという聖騎士、あのジークと深〜い因縁のある男だったのである。ジークが顔に負っていた傷はアリウスが付けたとか何とかって話じゃなかったか。
「まあ何だ。勝負は時の運というか、勝敗だけが実力の全てじゃないから……」
「へえあの『剣魔』ジークをねえ。やるじゃないの」
今必死に取りなそうとしているのに、ルーカスもナチュラルに煽らないでくれ。
「ふざけるな。君如きがジークを……ポーシャの仇を……!」
「双方落ち着きたまえ。今まさにこの瞬間、ダキスタリア第一州全土で暴動が起きているというんだ。争いを止める立場の君たちが争っていてどうする」
俺とアリウスの首元にはそれぞれ刀身の細い刺剣が当てられていた。トマーシュの目にも止まらぬ早業。かつて俺を手玉に取ったヨハンナを彷彿とさせる。
「アリウスには既に説明したが状況は最悪だ。端的に言うと転移者の集団が暴動を起こしている。それも元のスキルよりも強大な力を持ってだ。我々は彼らを『暴走者』と呼称し、鎮圧に当たっているが……『暴走者』は守護兵団内部にも多数出現した。自身を守るべき者たちが暴走している事態に民衆もパニックを起こしている」
「状況説明ご苦労、トマーシュ。付け加えると『暴走者』たちは一斉にこの第一州の衆長フィガロ殿の居城を目指し進軍している。最前線の防衛線に君たちをこれから転移させたいが、準備はできているか?」
できてるわけないだろ。だけど四の五の言ってる場合じゃないのはわかる。リサさんやタナカが無事かどうかも気になるし。
「……僕はいつでもいい。だがジークの話はまだ終わっていないからな。『健康剣豪』」
「俺たちもいつでもいいぜ。俺はちょいと不調だがな」
俺は三人の方を見る。それぞれ頷く『健康剣豪大冒険団』メンバーたち。
「ああ。やってくれ」
「そうか、感謝する。君たちは『暴走者』を阻止することに専念してくれ。我々の総隊長も前線に出張っている。合流することは勧めないがな」
え? どういうこと?
質問を言葉にする前に目の前にワープホールが開かれる。前線に縁がある人物がいなければどこか固定の場所からスタートすることになるが……土地勘がないのに大丈夫だろうか。
真っ先に飛び込むのはアリウス。ジークの話を聞いてから彼は気が立っている。「暴走者」を殺してしまわないといいが。
続いて「リスクジャンキー」の四人がワープホールをくぐる。それに続くようにして俺たち「健康剣豪大冒険団」が後を追う。
転移後に自身がどこにいるのか状況を確認しようとすると、突然ルーカスの叫び声が聞こえた。
「伏せろ!」
咄嗟の警告に対応できずにいると、強力な「何か」が急接近するのを勇者の鎧の人工精霊が警告する。その「何か」が何なのかは鎧にも判別がつかないらしい。
「伏せて!」
機転を利かせたエミリーの命令魔法により、四人とも這いつくばるようにして体勢を低くする。頭上を通り抜ける斬撃。
しかしそれは以前戦った霊剣使いアレンの魔力を帯びた飛ぶ斬撃とは全く気配が違った。むしろ鎧にも判別ができなかった以上、一片の魔力も帯びていなかったのが正解だろう。
「アハハ! ごめーん味方だった? 急に出てきたから撃っちゃった! でも大丈夫。当たってもこのエドガーが治してくれるから!」
快活そうな少女の声が響く。
そちらに視線を向けるとピンク色の守護兵団の制服を着た少女が一振りの剣を手に笑顔で立っていた。
そして足元には守護兵団の制服を着た男が頭を抱えて転がっている。
「何だお前!? 『パンドラ』か!? 『暴走者』か!?」
突然の攻撃に俺はEX狩刃を構えて次の攻撃に備える。
「見てわからなーい? アタシも守護兵団だって。それでオリバーの言ってた増援って君たち? この人たちみたいに巻き込まれないように気を付けてねーん」
そんな全身ピンク色をした少女たちに無数の「暴走者」が襲い掛かる。
素早い動きで拳を突き出す男の腕を少女は流れるように切断する。
足から噴き出す炎で空を舞い、両手から火球を放つ男を少女は飛ぶ斬撃で撃墜する。
守護兵団の制服を着た男は二人に分身し、同時に切り込むが少女の一太刀で分身が真っ二つになり、本体が血を流し倒れる。
少女は次々と情け容赦ない攻撃で「暴走者」を斬り捨てる。そこには今まで出会った剣士の誰よりも圧倒的な実力がある。彼らとの実力差を嫌でも感じさせられる。
その傍らでエドガーと呼ばれた守護兵団の隊員が負傷した「暴走者」を治癒していく。
「君は一体……?」
「あれあれ、知らない? 『剣聖』レイチェル、『桜剣』レイチェルとか色々呼び名はあるけど……ああ第一州守護兵団総隊長レイチェルって言った方がわかりやすいかな?」
「暴走者」の一人を突き刺しながら笑顔でその少女は言った。




