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第78話 懐かしい声

 喉の渇きが脱水症状の域まで達してようやく「健康体」スキルが働き、無事体調が回復した。本当に融通が効かないのなこのスキル。


 あと誰も助けに来なくて寂しかった。普通に。


 EX狩刃(エクスカリバー)を修復した作業場から壁面に作られた足場を登っていくと、三人娘が平たい石でおはじき遊びのようなことをしている。


 エミリーはまだなんだかんだ子どもだし、フィーナはアレだしで諦めがつくけど最近モニカまで毒されてきてきてない?


 数少ない常識人枠が……言うほど常識人か?


「あ、ケントが戻ってきましたよ!」


「おっそいじゃない。あれ、ドーリは?」


 俺はドーリが満足してこの世から去ったことを説明する。


「ふーん。そうですかあ」


 反応薄っ。まあ付き合い短いから仕方ないかもしれないけどEX狩刃(エクスカリバー)の恩人だぞ。


「あの、EX狩刃(エクスカリバー)さんはあのアンデッド……じゃなくてドーリさんが無事治せたんですか?」


 俺はEX狩刃(エクスカリバー)を抜刀する。すると少し離れた木の陰に隠れて顔だけだしているEX狩刃(エクスカリバー)が出現する。


「心の準備をさせろー!」


「無事ではないかなあ」


 聖剣姿の豪奢な鎧とは天と地の差がある毒剣黒ビキニアーマーをまだEX狩刃(エクスカリバー)は受け入れられていないらしい。


「ケントさん、どういうことですか?」


「もしやEX狩刃(エクスカリバー)、人格は戻らなくて鎧からの痴女姿に照れてるんですねー!」


 流石というべきか、フィーナは人の弱点というか弱みに付け込むのは上手だな。


「痴女ではない! 断じて!」


「ならこっちに出てきてくださいよー。痴女じゃないなら恥ずかしくないはずですー。前のEX狩刃(エクスカリバー)は平然としてましたけどー」


 EX狩刃(エクスカリバー)は目を見開いて唇を噛みながら俺の隣に現れた。腰に手を当て、胸を突き出し、顔は真っ赤だ。


「どうだ、平然と、しているだろう!」


 EX狩刃(エクスカリバー)はプルプルと震えている。かわいい……かわいそうだしやめなよ。


「よーう。お前さんたち、楽しそうなことしてるじゃないか」


 すると突然の来訪者の声。すかさず姿を消すEX狩刃(エクスカリバー)。だがその声にはどこか懐かしさを感じる。


 どこか飄々とした雰囲気をかもし出す大剣を担いだ冒険者。


 かつて共闘したパーティ「リスクジャンキー」リーダーのルーカスだった。


 そして若い双剣使いのヴァン、どこか妖艶な雰囲気の魔術士メリッサ、そして俺よりもゴツい鎧ながらも悪路をものともしない重騎士クレイグ。


「久しぶりだな! それにしてもお前ら、どうしてこんなところに?」


「どうしても何もないだろ。お前ら同様ドワーフの隠れ里に用があってな」


「ああ、エイフの爺さんか......」


 エイフの名前を出すとメリッサが若干うんざりしたような表情を見せるが、ルーカスは肯定する。


「ああ、その爺さんから場所を聞いてきたんだ。メリッサの胸を揉ませろとか大騒ぎするから当分幻術の中さ」


「当然の報いよ」


 まあいっぺんそのくらいの目を見た方がいいと思う。あの爺さんは。


「でも残念だったな。あの爺さんの情報はガセだ」


「はあ?」


 四人同時に驚きの声を上げる。そうだよね。ビックリするよね。


 そしてメリッサは杖を取り出し一振りする。幻術を調整して悪夢でも見せる気だろうか。


「そりゃないぜ。でもアンタらも騙されたわけだ」


「いや、そうでもないんだ……」


 俺はこの隠れ里が放棄されたものであること、偶然一人だけ幽霊のドワーフがいたこと、ドワーフに身体を貸して目的を達成したことを伝えた。


「で? その幽霊は? そいつさえいれば何とかなると思うんだが」


「満足して消えちゃった……」


「そりゃあないぜ! 一度身体に降ろした縁でどうにか呼び戻しちゃくれないかい?」


 無理だろ。完全に人生に一片の悔いもない感じで消えてたし。


「無茶言っちゃダメよ。そもそも幽霊なんてものがイレギュラーなんだから」


「でもなあ。この反抗期の霊剣もどきにはいい加減辛抱ならねえ! ほら!」


 すかさず肩に担いだ大剣が独りでにルーカスの頭部を横殴りに狙う。それを間一髪避けるルーカス。避けた後は地面にその剣を突き立てる。


「なあ? 最近は特に酷いんだぜ。俺の何が気に入らねえんだか知らんが、戦闘中に俺の邪魔をすることだってある。守護精霊もいないから話もできんし、街のドワーフには匙を投げられたぜ……うおっ!」


 地面に刺さったルーカスの剣が飛び出すように抜け出て柄でルーカスの顎を狙う。それを手で受け止めるルーカス。


「はあ~。こりゃあひっでえなあ! ここまで使い手と上手くいってない剣なんて初めて見たぜ! 俺とご主人とは大違いだな!」


 辰切丸(たつぎりまる)の守護精霊が姿を現しルーカスに宣言する。


 そうかあ? 別に仲が悪いわけじゃないけど、俺にはどこかお前を信用しきれない部分があるぞ……岩竜の件とか。


「俺がその剣と話してきてやろうか? きっとお前に不満を持ってるからこその行動なはずだ! 報酬はご主人と相談してくれ」


「いいよ。報酬なんて。ルーカスたちには世話になったし。やってあげてくれ」


 辰切丸(たつぎりまる)をルーカスの大剣に近づける。


 そんな時、またしても懐かしい声が聞こえた。


「悪いけどそんなことをしている場合ではないよ」


「そんなことって……ええ、アリウス!?」


 背後からの声に振り返ると開かれたワープホールを背に、大鎌を背負ったアリウスが立っていた。


「ああ? 俺の冒険人生を左右しかねない大問題を前に『そんなこと』だって? じゃあどれほど重要な話か言ってもらおうじゃないかよ。なあアリウス!」


 そうだそうだ。お前はどこか人を下に見た態度を改めた方がいいぞ!


「なら端的に言おう。ダキスタリアの港町で暴動が起きている。その鎮圧を手伝ってくれとのことだ」


「なんだとお!?」


 俺とルーカスはほぼ同時に声を上げた。


 え? 失踪した転移者を無事助けて一件落着。「パンドラ」も撤退って話じゃなかったの?


「君たちが同じ場所にいて助かった。しかしこの長距離転移用ワープホールの維持には守護兵団の魔術士が数人かかり切りでようやく成立するものでね。あまり時間がない」


 そんな中で意外にも空気を読める辰切丸(たつぎりまる)がこそこそと話しかけてくる。


「あの剣の言いたいこと、大体わかった。向こうの持ち主に伝えるか?」


「悪いけど時間がないらしい。話し合いは後にしよう」


 アリウスは背中の大鎌を構えるとワープホールに向き直る。


「全く情報がないのでは現地で余計な混乱を招くからね。だから手短に話す。暴動を起こしているのはどういうわけか転移者だけだ。当然それぞれがスキルを持っている。気を抜かないように」


「転移者……また『パンドラ』だってのか!?」


「他にそんな勢力がいたら教えてもらいたいものだけどね」


 それだけ言い残すとワープホールに飛び込むアリウス。


「俺たちも行こう! フィーナ、モニカ、エミリー!」


「『リスクジャンキー』! 準備はいいか!」


 転移の最中、どうにも俺にはこの暴動と失踪事件の関連性を感じずにはいられなかった。

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