第77話 岩竜狩り
どうしてもドデカいダンゴムシにしか見えない岩竜とやらを目撃しその場で固まる俺。
「どうしたよ新ご主人? ちゃちゃっと斬っちゃおうぜ!」
「いやアレ、竜なのか……?」
一心不乱に岩を貪るそれらの外殻は岩肌のように隆起していて、確かにただの引き伸ばしたダンゴムシではないことが見受けられる。
「まあ薄いけどドラゴンの匂いがするから竜の端くれには違いないだろうな……なあなあ、早く斬っちゃおうぜ! すげえ長い間眠ってたから久々に血を浴びてみたいんだ!」
辰切丸はいきなり妖刀みたいなこと言うな。
「岩竜を狩る前にいくつか聞かせてもらうぞ。どうしてお前は眠らされてた?」
「俺が聞きたいくらいだよ。ご主人、つまりケンジは年老いてから冒険をしなくなっちまったんだ。それでいくつかの装備を手放した後、俺といくつかの武器は全部封印しちまったわけ。何でだろうな?」
話しててなんとなく思ったんだけど、お前が危険だからでは?
「そういえば新ご主人! 新ご主人はなんでご主人の封印を破って俺を抜けたんだ?」
「多分俺がトドロキ・ケンジのひ孫、トドロキ・ケントだからだよ」
「ウソだあ! どういうわけかご主人はこっちの世界じゃ女を作らなかったんだ。アレだけモテたのになあ。それともまさか俺たちを封印してからガキをこさえたのか!? スケベジジイだな!」
守護精霊姿の辰切丸は大げさに少し余り気味な白い軍服を振り回して驚いてみせる。
「だから俺は向こうの世界の子孫なんだよ」
「ああ! その手があったか! そうか、ケンジの子孫なら新ご主人って呼び方はやめだ! ややこしいし、これからはご主人って呼ぶぞご主人!」
岩竜が大人しそうなのをいいことに俺と辰切丸がやいのやいのと主従関係について話していると堕印奴隷の警告が耳に入る。
「一匹こっちに来てる。気付いてた?」
「私は気付いていたぞ! 聖剣だからな!」
二本の剣の声とほぼ同時に自身を覆う影にやっと気付く俺。もっと早く言ってよね。
目の前に一匹の岩竜。この距離になってやっと目視できるかどうかの大きさのつぶらな瞳が確認できる。その代わりに機能していると思われるのが、今俺の顔をなでている節くれだった岩の触覚だ。
岩以外に触れる未知の感覚に驚いているのだろうか?
正直俺は冷や汗が止まらない。
「えい!」
辰切丸が俺の腕を勝手に操り自身を岩竜の眉間に突き刺した。
紫色の体液を流しながらズシンと崩れ落ちる岩竜。
え。殺したの?
「な? 竜狩りならこの辰切丸にお任せあれってんだ!」
「グゴオオオオ!」
岩竜の断末魔の叫び声。これ、よくないやつでは?
それまで谷底で本能のまま岩を喰らっていた岩竜たちが動きを止める。
「グゴオオオオオオオオ!!」
無数の岩竜、もとい巨大ダンゴムシたちがこちらに突進してくる。これ映画で見たことある!
岩の谷の崖下あああああ!
「フィーナ転移して! 頼む! フィーナ聞こえる!? お願いフィーナ様あああ!!」
その声に応えるように足元にできたワープホールに飲まれると、俺はドーリの座る岩の前まで飛ばされていた。
「辰切丸、ダメだろ!」
「ええー? 俺ならあの竜もどきなんざ皆殺しにできたぜ? 何日和ってんだご主人」
「そんなたくさん素材は使わないから全部殺さなくていいの! あんまり勝手に俺の身体を使うならまた封印だぞ! 封印!」
しょんぼりする辰切丸を尻目に同時に転移してきた岩竜の死体を眺める。
フィーナのやつ、こいつまで転移してくれるとは気前がいいなあ。
「ハア、ハア……一応いつでもこっちに呼び戻せるように念のため準備しておきましたけど……何ですかこれは……」
「岩竜」
「流石だぜEX狩刃の旦那! 岩竜の素材丸々とは恐れ入った! でもどうして地底の岩竜たちは怒ってるんだ?」
群れの目の前で殺したからじゃないっすかねえ。
地底では興奮した岩竜が地面に潜ったり、岩肌に体当たりするなどして地響きが鳴りやまない。ドワーフたちが引き上げた後でよかった。
「え? 岩竜の素材だろ? 一匹必要なんじゃないのか」
「いいや? 適当に表皮の岩を削ぎ落して、フンの鉱石を拾ってきてくれればよかったんだけどな」
俺と辰切丸は根本的にドーリの依頼を勘違いしていた。
別に素材を取ってくるイコール狩猟してくるわけじゃない。あのモンスターをハントするゲームの影響かも。
「疲れた……でもいいセリフが聞けました。『フィーナ様あああ!!」って……プークスクス」
「今回は本当に助かったから何も言うまい」
「ようし! じゃあ次はオイラが仕事をする番だぜ! EX狩刃の旦那! 身体借りるぜ!」
次第に遠のく意識。どうしてどいつもこいつも俺の身体を勝手に使うんだよ。
気が付くと俺は地面で寝ていた。谷を降りる際に見た崖の横穴に作られた鍛冶場の中だろう。
うっすらと記憶があるのは一心不乱にハンマーを振っていたことと、とにかく熱かったこと。暑かったを通り越して身体が実際に焼けてたと思う。
だって鎧で鍛冶仕事をする奴があるかよ。
しかも「健康体」スキルによって火傷をしては治され、火傷をしては治され以下エンドレスだったらしく体力の消耗が激しい。
「水……」
「おっ起きたみたいだぜ! 出てきなよEX狩刃の姉ちゃん!」
鍛冶場の中心からドーリの声。そちらに目をやると立てかけられたEX狩刃が目に入る。
俺が気絶していても毒液がコントロールされているところからドーリの仕事は成功したようだ。
だがEX狩刃の様子がおかしい。うずくまって動こうとしない。
「EX狩刃。素直に受け入れるべき。毒剣になってからのあなたはこうだった」
「うるさい! うるさい! こんな破廉恥な格好が認められるものか! 鎧はどこに行ってしまったのだ!」
どうやら毒剣EX狩刃としての黒ビキニアーマーをまだ受け入れられていない様子。
ということは……。
「悪いな。しっかり直したつもりなんだが、まだ記憶までは戻ってないみたいなんだ。まあ本人が現状を受け入れられれば変わってくる、と思う!」
「ドーリ? お前、どこだ?」
ドーリの声はするが、鍛冶場にはうずくまるEX狩刃と引き起こそうとする堕印奴隷の姿しかない。
「念願叶ってやっとこの谷からもおさらばさ。もう悔いはないぜ。ありがとな!」
「こっちこそありがとうドーリ。本当に助かったよ」
「俺の一族に会うことがあったら伝えてくれ『ドーリは偉業を成し遂げたぞ』ってな!
それっきりドーリの声は聞こえなくなった。無事成仏したってところだろう。
それにしても、誰か……。
「水……」




