第75話 生ける伝説
俺たちは気絶したままのフィーナを担ぎ上げながらタナカの案内に従って大通りを歩いていた。
「なあ、どんどん街の中心から外れてる気がするけど大丈夫なのか? 鍛冶屋と真逆の方向だけど」
「少しは俺のことを信用するッスよー。ドワーフは里で技術を学んだら今度は街で商売を学ぶッス。だけど里のことは頑として教えてもらえないんス」
へえー。それでドワーフに直接聞くんじゃなく里のことを知っている人のところに行くのか。
そして俺たちは街外れにある倒壊しかけの家が集まる貧民街みたいな場所に着いた。
おい。情報通がこんなところに住んでるわけないだろ。
情報通とは酒場でのやり取りするみたいな……そういうのじゃないのか!?
「ここに住んでる爺さんはまあまあ終わってるんで気を付けた方がいいッス。アニキがというよりかは女の子たちがというか……」
「コラ、タナカ! エイフお爺さんを終わってるとか言わない! ちょっとワケありなだけでしょ!」
情報通とやらの向かいの家から現れたのはリサだった。守護兵団の制服に身を包んでいる。でもワケありなのは事実なんだ。
「リサさんはこんなところで何を? 村には帰らなくていいのか?」
「うーん。まあ衣食住を世話になった分は働いて帰ろうと思ってね。この辺の住宅を『豊穣』スキルで生やした木で補修してるんだ。一時しのぎに過ぎないんだけどね」
素晴らし過ぎる。
転移者救出の功労者でもあるのに、その上仕事までしてるなんて。俺たち「健康剣豪大冒険団」も見習わないといかんと違うか?
「まあ私もエイフお爺さんは得意じゃないから後回しにしてたところがあるのは事実なんだけど……」
へえ。リサですら難色を示すなんて中々の相手のようだな。
俺は鎧の力を込めすぎて家を倒壊させてしまわないように慎重にノックする。
「すいませーん。エイフさんいますかー」
「男に用はないわい」
ドアは開かない。ああ。そういうタイプね。
でもこっちには対男の最終兵器がいるわけ。行け! モニカ!
「あ、あのー『生ける伝説』エイフ様のお宅はこちらでしょうか?」
ドアが勢いよく開く。勢い余ってドアが外れて倒れる。
そこにいたのは腰の曲がったハゲの老人だった。これが「生ける伝説」? 「どうにか生きながらえてる伝説」じゃないか?
エイフと呼ばれるその老人はモニカの胸をまじまじと見て、その後顔をじろじろと見た後、また胸をしげしげと見た。
「ふん。どうせドワーフの隠れ里について聞きに来たんじゃろうが。情報一つにつき五揉みじゃな」
ダメだろ。絵面的に倫理的に普通に。
モニカがいつもの「困ってる人を助けましょう」的精神で胸を差し出してたらどうしようと横目で見ると、あまりの衝撃に固まっていた。その後両手で胸を抑えて数歩下がる。少し安心。
「金で情報を売ってくれないの?」
「バカにするでない。わしゃこれでも五十年前、アーサーの勇者パーティーに所属していた戦士じゃぞ! 長い冒険人生で金では得られない物を知っとるんじゃ!」
マジかよ。アーサーっていうと毒沼で死んでた勇者アーサー? となると呪いの装備と化した勇者の鎧の前の持ち主? でもどうして勇者の鎧を着てるアーサーですら死んだのにこの爺さんは生きてるわけ?
疑問が次から次へと止まらん。
「エイフ爺さん。この鎧に見覚えは?」
「あーん? 情報一つにつき……何ィ!? 勇者の鎧じゃと!?」
「うん。この中に入ってたアーサーさんはドラゴンと相討ちで死んだみたいだけどさ、どうして戦士のあんたが生きてるのかなーって素朴な疑問なんだけど」
エイフは慌ててドアを閉じようとするが外れてしまったドアは閉まらない。
「逃げたんだろ」
「あーあー聞こえないわい。そもそもドラゴン族の生き残りなんざ人間が相手できる代物じゃないんじゃ。相討ちになっただけでも大手柄じゃい! アーサーの野郎がおかしいんじゃ!」
「でも酒場じゃドラゴン討伐の武勇伝を語って聞かせて小銭を稼いでるッスよね」
タナカが止めを刺す。
「ドワーフの隠れ里の話をするから逃げたことだけは黙っておいてくれんかの?」
「行ったことあるの?」
勝ったな。まさかこの鎧が実戦以外で役に立つ日が来るとは思ってなかったけど。
「そりゃああるじゃろ。勇者パーティじゃもん。ワシの霊槌『妙流仁琉』もそこで作ってもらったからの。金に困って売ってしまったが」
クロエが見つけ出してフィーナが壊した聖遺物だ。
しかも売ったのかよ。クロエの今の努力はこういう身勝手な人間の所業によるものなのかもしれない。
「地図を出さんかい。用が済んだらさっさと去るんじゃ」
エイフに促され地図を出すとドワーフの隠れ里だという地点をマークしてくれた。
フェブラウとギュノンに覆い被さるように横に長いダキスタリアを起点とすると、ギュノン寄りの山中にあるようだ。
「ちなみにサービスであのエルフの娘の胸は揉ませてくれたりしてはくれんか?」
「揉みたい?」
こくこくと頷くエイフ。
バァン!
俺は外れたドアを元の位置に勢いよくはめ込むと、その場を去るように仲間たちに合図するのだった。
「もう行っちゃうッスか? また守護兵団にも遊びに来て欲しいッスよ!」
「私は仕事が落ち着いたら村までタナカに送ってもらうから心配しないで。みんな、無理しちゃダメだからね?」
エイフの指定した地点は山奥なので爆速馬車は使えそうにない。
タナカとリサに見送られて俺たち「健康剣豪冒険団」はダキスタリアを後にし、山中へと戻るのだった。
リサにもらった野菜で食事を作ったり、野営したりで数日間山道を歩くと大きな谷が見えてきた。ところどころに木でできた足場があり、ドワーフがそこで生活しているのがわかる。
やはり鉱石が採掘できる環境がドワーフ的にも仕事をしやすいのだろうか。
でもなんか……活気がないというか誰もいなくない?
所々にある作業場っぽい煙突から煙も出てないし。
「あーあ。また古い話を聞いて旅人が迷い込んで来ちまったなあ。誰の仕業なんだか」
突然それまで何もなかった岩の上に小柄な髭の男が座っている。その男は背丈に似合わず筋骨隆々で、人間とは異種族であることを姿が物語っている。
でもなんか......半透明じゃない? ドワーフに半透明のイメージなんかないけど。
「エイフって爺さんだけど……」
「ああエイフ! 懐かしい名前だなあ。臆病者の戦士で追い込まれないと全力が出せないヘタレだったっけ」
エイフのことを知ってるってことはそれなりの年齢?
ドワーフの寿命はわからないが、声は若く感じる。
「自己紹介が遅れたな。オイラはドーリ。良質な石が取れなくなって放棄された元隠れ里から離れようにも離れられないドワーフの幽霊さ」




