第73話 借金完済祝い
俺たちはそれから数日間ダキスタリアに滞在し、不要になったエミリーの魔道具を売り払ったり、「パンドラ」の情報を探ったりした。
ちなみにその間にフェブラウの王女エリーゼに報奨金千五百万ゼドルを振り込んでもらえた。王族直属になったというかされたことにより、前のように現金でのやり取りをしなくて済むんだとか。
今回は何か起こる前にすかさず借金のあるガレセアの不動産屋に振り込む。
ついでにエリーゼの副官サイラスから振り込みと同時に届いた手紙によると「今後は金ではなく忠義によって働け」とのこと。そんなバカな。
まあ国家予算だか私財だか知らないけど、それをドカドカと俺らのような得体の知れない冒険者パーティに流していること自体が問題なのかもしれない。
「それでは~? 借金完済を祝して~? カンパ~イ!」
酒場でフィーナが木のジョッキになみなみと注がれた酒を振りかざして叫ぶ。もう酔ってるんじゃないか。
「俺は『健康体』スキルで酔えないからパスで」
「私は聖職者なのでお酒は流石に……」
「やだ。わたしフィーナみたいになりたくないし」
三者三様の理由で酒を断る俺たち。モニカは仕方ないけど、特にエミリーは賢い。ああはなっちゃダメだ。
「ちぇー。すっかりみんなノリが悪くなりましたねえ。こうやって長命のエルフだけが置いて行かれて……およよ」
「そもそもフィーナが作った借金だろうが。多少手元に残ったけど、ほぼほぼゼロからの再スタートだってことを忘れるなよ。エリーゼもこれ以上金を出す気はないみたいだからな」
「そ……それって今後は真面目に働かないと生きていけないってことですか?」
悲しいけどそうなんだよ。冒険者だろうと農家だろうとその他諸々だろうと、働かなければ生き残れない。
俺もアルバイトの経験くらいしかないけど、このエルフには働くことの重要性を叩き込まねば。
「当たり前じゃい!」
「わー!!」
フィーナはジョッキの酒を一気に飲み干す。酔って逃げようとしてもそうはいかない。ある程度酔ったらモニカに【浄化】させて現実に引き戻してやる。
「そんなことよりも、ですよ」
「何がそんなことだよ。重要な話だよ」
おかわりの注文を入れて仕事の話を逸らしだすフィーナをすかさず牽制する俺。
「いやいや。これはこれで重要な話なんですよ。次の目的地についての話です」
「しばらくダキスタリアで稼ぐんでしょう? 特Aランクともなればきっと報酬の交渉もできるし、わたしも心新たに『命令魔法』を極めたいわ!」
エミリーがモニカによって次々と皿によそわれる野菜を苦い顔で食べながら反論する。
確かに。借金を返してからはしばらく「パンドラ」の情報を探りながら冒険者ギルドの仕事でもしようと話がまとまっていたはずだ。それが何故?
「EX狩刃のことですよお。一度ドワーフにでも見てもらった方がいいんじゃないですか?」
確かに。あれだけ無茶をしてEX狩刃が死ななかったのは本当に嬉しいことだが、性格がすっかりと変わってしまったことは問題だ。俺の力を借りないと毒の制御も難しいようだし。
「私は断じて壊れてなどいないが?」
突如として輝く甲冑姿で現れるのはEX狩刃。ちなみにダキスタリアは転移者も多いのでちょっと変な現象が起こるくらいでは誰も驚かない。
「まず聖剣から毒剣になった時点でかなりやられてると思うんだが……フィーナの言う通り今度こそメンテしてもらわないとかもなあ」
「私は! 断じて! 壊れてなど! いない!」
医者嫌いの子どもじゃないんだから。大人しく言うことを聞きなさい。
それにしても聖剣としての性能がどれほどだったかは今となってはわからないが、元の性格がこれなら歴代所有者は随分苦労したんじゃないか。
「じゃあドワーフのやってる鍛冶屋でも探して見てもらうかあ」
「無理に決まってるじゃないですかあ」
若干酔いの回り出したフィーナが俺の発言を否定する。だってクロエは「霊槌」とかいう聖遺物をフェブラニアの鍛冶屋に持ち込んでたじゃないか。
「即死級の毒を垂れ流しの剣をどうやって鍛え直すんです? 街の鍛冶場じゃ無理でしょうねえ。だからこそプロの集まる場所に行く必要があるんですよお」
「とにかく私に異常はない! 諦めろ!」
フィーナは段々うざくなってくるし、EX狩刃は断固として鍛冶屋行きを拒否する。
なんだか大きい声出しちゃいそう。
「EX狩刃は『完璧な聖剣』じゃなくなった自分を見られるのが恥ずかしいだけ。私を避けてるのもそう。現実を受け入れて」
そこへいつの間にか現れ出た堕印奴隷の守護精霊がEX狩刃に詰め寄る。一歩引き下がるEX狩刃。
そう。EX狩刃が使い物にならない現状、今のメイン武器は彼女なのだ。無論本人の了承は得ている。
「前のEX狩刃には一人毒沼で自分と向き合う時間があった。だからあなたも向き合うの。新しい聖剣としての在り方を」
「……」
堕印奴隷の言葉が響いたようでEX狩刃は大人しくなる。
「じゃあ次の目的地はドワーフの隠れ里でいいれすねえ? 賛成の人~!」
おずおずと手を上げるモニカ。何だかノリがムカついて無視する俺とエミリー。
そんなエミリーの手をフィーナが無理やり挙手させようとしたそのとき。
「触んな酔っ払い! 吹っ飛べ!」
「じゃあドワーフの隠れ里決定でええええ!」
叫びながら大げさなアクション映画くらいの勢いで後方に吹き飛ぶフィーナ。ちょうどその先には入口のドアがあり、さらにちょうどそのドアが開こうとしていた。
「どあああ!」
フィーナが新しい客に直撃する。はい新しいトラブル発生。
「いててて……」
フィーナは向かいの店に置いてあった空のタルに上半身を突っ込んで動かない。
一方で転んで打った尻をさすりながら起き上がったのはタナカだった。
タナカか。タナカならある程度雑に扱っても大丈夫だろ。俺、何故か慕われてるし。
「アニキ! まさか俺のことを試してたんスか? 面目ないッス……」
「そうそう。精進せい」
こいつの言うことは適当に合わせておけばよい。この数日間たまに顔を合わせたが、何故かまともなやり取りが成立しないんだよなあ。
「オリバー隊長から今回の事件の調査報告があるらしいッス! もしよければ話だけでも聞いていって欲しいッス!」
「まだ飲み足りないんですけどお~」
うーん最初は酔いを【浄化】させようと思ってたけど、また飲んで金の無駄になるだけな気がする。これ以上フィーナが面倒になる前に切り上げるか。
こうして俺たちは一人ボロボロになったフィーナを引きずるようにして「守護兵団中央司令部」を再び訪れることになったのだった。




