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第61話 フィーナ、奮闘する

「すごいねーキミ。強いんだ!」


「俺がというよりはこの鎧がね」


 あっという間に十人ほどの山賊を叩きのめした俺は、胸元の装甲を指差してリサに言う。


「それにしてもここらはそんなに治安が悪いのか? よく今まで一人で守り切れたな」


「ちょっと前までは全然平和だったんだけどね。急にダキスタリアの『守護兵団』の人員が減ったの。見回りがなくなってそれからはずっとこんな感じ、やんなるわ」


 ふーん。ダキスタリアで転移者が失踪してるっていう王女の捜査依頼と関係ありそうだなー。


「十分休ませてもらえたしもう出発するか! 最近ダキスタリアの周辺で転移者が失踪してるらしいからリサさんも気を付けろよ」


「え、ホントに? 初耳なんだけど。怖い話やめてよね……」


 多分ね。「守護兵団」とかいうダキスタリアの軍隊? の人員が減ってるという話で裏付けが取れたかも。


 そんな推論を立てていると、村長宅でもてなされていたフィーナたちが出てくる。


 あーあー。酔っぱらってるよ。


「大丈夫れすよお。【浄化】(ピュリファイ)を使えばお酒なんかすぐ抜けます……わーっ!」


 だーめだこいつ。酔ったまま馬に乗ろうとして転がり落ちるフィーナ。そんなフィーナをエミリーは完全無視。底抜けにお人好しのモニカも最近のフィーナに対しては少し塩対応気味。


 俺は諦めないぞ。フィーナを真人間、いや真エルフに更生させてやる。それより先に俺の寿命が尽きたら知らんが。この魔エルフめが。


 誰にも起こしてもらえなくていじけて倒れたままのフィーナを尻目に、村人たちと交換した食料を荷物に詰め込む。


 エリーゼから路銀として渡された金貨は大変質のいいもののようで、村人たちは大層喜んでいた。今の俺に節約という概念はない。もう借金がでかすぎてこの程度の取引でケチっていても仕方ないからだ。


 それにフェブラウに帰るときまた村に寄るかもしれないし、好印象を与えておいた方がいいだろう。そんな打算的なことを考えながら俺たちは村を後にした。




「あからさまに尾行されてますけど、いいんですかケント?」


「うーん。無害だとは思うんだけど」


 村を出てしばらくして、酔いの覚めたフィーナが馬を俺の馬「ファントム一号」(出立時に名付けた)と隣り合わせにしそれとなく後ろを見る。


 フィーナの視線から逃れるべく慌てて山道の脇の草むらに隠れる人影。両手に葉っぱを持って隠れようとするやつを俺は生まれて初めて見た。


「リサさんでしょ?」


「ええー! なんでわかるの!?」


 ガサガサと草むらから出てくるリサ。だってあんたの周りだけ「豊穣」スキルで草が生い茂ってるんだもん。


「誰ですかその女」


「さっきの村にいたリサさん。転移者だよ」


 照れた様子で草むらから出てくるリサに対しフィーナは警戒心を隠さない。


「ふーん。ケントはああいう年上がいいんですか。そうですか」


「ん? フィーナの方が遥かに年上だろうが」


「そうじゃなくってですねえ……」


 それきりフィーナは会話を打ち切ってしまった。長命のエルフ族とは言え、年齢の話したから怒っちゃったかな?


 そしてリサがいうところには俺の言った「転移者失踪」の件が怖くなって追ってきたとか。俺の近くにいれば守ってもらえると思ったかららしい。


 待ってくれ。今ですら三者三様のくせ者揃いの三人娘に翻弄されているのに、これ以上増えるっていうのか?


 そもそも転移者がどんな仕組みで消えるのかだってわからないんだぞ。


「大丈夫! 村には繁忙期前には戻るって伝えてきたから! それに『守護兵団』に事情を伝えるまで送ってもらえばいいの! お願い!」


 そこまで言われたらしょうがないかなあ。「パンドラ」の転移者っぽい奴らを除けば初めて遭遇した転移者だしなあ。無下にするのもなあ。


 こうしてダキスタリアに到着するまでリサが「健康剣豪大冒険団」に同行することになった。


 それ以降フィーナが何かを決意した様子なのが気になる。モニカはいつも通りおろおろし、エミリーは何かを悟ったかのように呆れ顔。


 うーん。何を決意したのか知らないけどバカなことはやめろ。山奥で逃げ場がないから。




「いい加減お腹が空いたわ! 今日はもうここで休憩! いいでしょ?」


 エミリーがモニカと同乗している馬から飛び降りて宣言した。


 だんだん暗くなってきたしそうするか。


 そして俺は想像もしていなかったものを見る。


 フィーナが率先して野営道具を並べているのだ。その手際は普段の三倍はいい。


 そして村人たちから買い取った食材を次々と放り込み、あっという間に鍋料理を完成させてしまった。どうした? 落馬したとき頭でも打った?


「どうです! エルフ流鍋料理フィーナアレンジは!?」


「うん。美味しい! それにしてもどうして急にこんな美味い料理を振る舞ってくれたんだ?」


「そういう気分だったからですー!」


 フィーナの快進撃はそれからも続いた。倒木で塞がった道に出くわした際には星を見ながらの迂回ルートで立ち往生せずに済んだし、動物にしか聞こえない【騒音】(ノイズ)とかいう呪文で魔物や野獣にも遭遇しなかった。


 前に村人から酒も買っていたが、それに手を付ける様子もなく真面目に冒険者として働いている。


 俺は今猛烈に感動している。なんというか頼れる相棒感というか、ヒロインちからのようなものが急上昇しているように感じる。


 ヒロイン……?


 まさかフィーナがヒロインなんてことはないだろ。俺が付いてないと犯罪者一直線だし。


 そんなヒロインがどこにいるかっての。ねえ?


 そうして数日間山越えを続けていると、突然リサが小声で話しかけてきた。


「ねえねえ。ぶっちゃけあのエルフの子……子? まあいいや。どう思ってるの?」


「問題児」


 それだけ聞くとリサは苦い顔をする。


 フィーナに言ったら怒られるから言わないけど、俺にも大体理解できた。


 つまりはその場から「豊穣」スキルで食べ物を作り出せるリサにフィーナは対抗しているのだ。パーティの足を引っ張っていると思われたくないフィーナは急に気合いが入ったというわけ。


 これが俺のファイナルアンサーだ!


 それとなくこの内容をリサに伝えたら木の枝で頭を引っぱたかれた。


「乙女心がわかってない!」


 なんで?


 そうこう言っている間に目的地ダキスタリアが近づいてきた。このままフィーナの心変わりが固定化することを祈るぜ!

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