第60話 山村の巫女
今回もいつものように馬車でかっ飛ばしていくのかと思っていたら今回はそうはいかないようだ。
ダキスタリアとフェブラウには明確な国境が無く、二国を隔てる山脈が国境の代わりらしい。流石に品種改良された馬でも山脈越えを超スピードで行うことはできないとか。
よってエリーゼから頑丈な馬を数頭を借り、のんびりと山を越えていくことになった。
「いやあ。旅って感じがしますねえ」
「いつもが異常だったんだろ。それでフィーナ、この辺りに村があるんだな?」
この中で一番冒険経験の豊富なフィーナが馬上で地図を見ている。
「そうですね。軍資金ももらったことですし、新鮮な食料でももらっていきましょう」
いつにもなくフィーナが頼もしい。いつもこうあってくれ。頼むから。
山道を降ると開けた平らな地形が広がる。ぽつぽつと家屋が建ち並び、畑なんかもある。
ここらで休憩かな。俺は「健康体」のスキルで疲れないからいいけど、みんなを休ませてあげないと。
そして俺たちは山村の入り口で村人たちに無数の槍を向けられるハメになった。
何で? まだ何もしてないんですけど。
ただ入ろうとしただけ。先っちょすら入っていないんですけど。
「何しに来た! また巫女様を狙いにきたのか!?」
村長っぽい老人に付き従う血気盛んな若者が槍を構え吠える。
巫女って誰?
「俺たちは旅の冒険者ですけど……ダキスタリアに行く途中休憩させてもらいたくて」
「巫女様をダキスタリアに連れていくつもりか!?」
話が噛み合わん。どうしよう。流石に俺たち「健康剣豪大冒険団」が王族特務とかいう身分である以上、罪のない民をぶちのめすわけにもいかない。
「やめて! やめてったら!」
若い女の声が槍を構えた男衆の後ろから聞こえる。今度は何だよ。
「巫女様! 危険です! おさがりください!」
村長っぽい老人が声の主に呼びかける。
「その『巫女様』っていうのもやめて!」
村人たちをかき分けて出てきたのはTシャツにジーパン姿の黒髪の女だった。巫女?
明らかに転移者か転移者かぶれの「パンドラ」関係者だ。でも村に馴染んでそうなところからして前者か?
「え……まさか転移者? 俺も転移者なんだけどここは穏便に済ませてもらえない? マジで」
「うっそ……こんなところで転移者と遭遇するなんてありえない……! 国籍は?」
「日本だけど」
見た感じ相手の女も日本人っぽい顔立ちをしている。ベルトに差した短剣さえなければ普通の現代人だ。
「日本人!? この世界で!? 何か証拠はあるの!?」
「うーん……ド〇ゴンボールの悟〇の声優さんはまだ現役だよ。先にし〇ちゃんが代替わりした」
「マジ!? スゴ!」
フィーナたちは首をかしげているが、巫女様とやらに日本人の転移者としての証拠をぶつけることができたようだ。どうやら数年前に転移してきたみたいだな。
「じゃあ村に入っていい?」
「待って! そこは……!」
突如として俺の足元から瞬く間に巨木が生え、俺の身体は宙を舞った。そしてガシャンと鎧の音を立てて落下する俺。
随分なご挨拶なことで。
村長に平謝りされフィーナたちが村長宅でもてなされている間に、村の広場で転移者同士互いの境遇を話すことになった。
奇病により死ぬ間際に転移してきたこと。病弱な身体が嫌で「健康体」スキルを取得したけど「転移者基本ギフト」に類似品があってチャンスを無駄遣いしたこと。鎧が外れないこと。多額の借金があること。そして借金返済のためにダキスタリアに仕事に行くこと。
「随分とまあ短期間で波乱万丈な異世界生活をしてきたんだね……」
紅林リサと名乗った女は元は新米教師だったらしいが、部活の顧問や事務仕事に追われフラフラだった仕事帰りにトラックが突っ込んできたらしい。
「我ながらトラックってベタじゃない? それでこんな山奥に転移させられて、村人に拾われて、あれよあれよという間に『巫女様』扱いよ」
「『巫女様』って何? スキル由来?」
するとリサは椅子代わりにしていた切り株に手をかざした。途端に切り株の断面から芽が生えてくる。
「面白いでしょ? これ、『豊穣』のスキルっていうの。もうせかせか働くのに疲れちゃって、ここで農作業の手伝いをしながらのびのび暮らしてるってワケ!」
「じゃあさっき突然木が生えてきたのも……?」
「あれはわざとやったんじゃないよ! 村が山賊みたいな悪い奴らに狙われないように村人にだけわかるようにあちこち罠をしかけてるんだ」
へえ。便利ではあるけど、なんでこんな未開の地特化のスキルを選んだんだろう。先のことまで考えてスキルを取得したならめちゃくちゃ頭いいな。
「実は転移したときは仕事のことで頭がいっぱいでさ。もう半分仕事モードでスキルを選んじゃったんだよね」
「『豊穣』スキルになった理由になってなくない?」
なんだろう。仕事モードの教師の選ぶスキルならもっとこう……素行の悪い生徒に使う用の「洗脳」とかの方がよくない? 倫理的にダメか。
「ほら、私園芸部の顧問だったから」
ああ。なるほど。それにしても「巫女様」ねえ。俺の「健康剣豪」よりよっぽど聞こえがいいなあ。羨ましい。
「おい。仲良しこよしなところ悪いけどさ、その『悪い奴ら』が近づいてきてるぜ」
突然現れる褐色黒ビキニアーマー姿のEX狩刃。リサは驚いて切り株から落ちた。
「ああこれ。愛刀のEX狩刃……の化身ね」
「『愛』刀ってお前……!」
はあ? やっぱり最近EX狩刃の調子がおかしいなあ。まとまった金ができたらドワーフに一度見てもらうか。
「また山賊!? あいつら性懲りもなく……!」
次々と罠の急成長する樹木に跳ね飛ばされる山賊たち。
うーん。今までこの罠で撃退してたんだろうけどこの絶妙に攻め落とせそうで攻め落とせない感じが山賊が再チャレンジしてくる理由なんだろうなあ。
よし、同郷のよしみで一働きするか!
「ちょっと危ないって! 罠だけで十分撃退できるから!」
「いいからいいから」
罠を突破した三人の山賊が槍を構えて突撃してくる。多分罠はまだ沢山あるんだろうけど、タワーディフェンス系は苦手なんだ。
「兄貴! 強そうな鎧野郎が!」
「案ずるな。我ら一人一人の力では届かずとも三本の槍、即ち三人が力を合わせればそれ以上の力に……!」
俺は突き出された三本の槍を掴み取って奪いまとめて膝でへし折る。
「悪いけど五人だろうが十人だろうが結果は同じだと思うぞ」
山賊の武装解除をするとフィーナを呼びつけ、村長と山賊たちの間に「今後手出しはしない」という【契約】を結ばせる。
これにて一件落着! 二度と歯向かうなよ。
「ケンコーケンゴー万歳! ケンコーケンゴー万歳!」
村人たちよ。そのコールはやめろ。




