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第6話 冒険者ギルドで門前払い

【浄化】(ピュリファイ)!」


 沼を横断し街道に出た俺たちは、全身に染み付いた毒を落とすべくありったけの「浄化魔法」をこれでもかと唱えていた。


 俺に触れた毒は無効化されるので気にしていなかったが、フィーナの「ケントあなた臭いですよ」という言葉で俺も一通り浄化してもらった。なるほど風呂上りのような爽快感がある。


「じゃあ早速ガレセアの街に向かいましょうか。きっと指名手配犯でしょうから、とりあえず何かで顔を隠せるものを買う必要がありそうですね。……例えば、あんな感じの」


 浮遊している兜を指差してフィーナは言う。


 アレって俺がかつて着用拒否した勇者の兜じゃないか? 確かに顔は隠れるけど。ずっと追ってきてたの?


 死体が被ってた兜ってなんか嫌だなあ。腐乱死体が入ってたかもしれない兜だろ? うーん。


 俺が無理やり頭に被さろうとしてくるそれを両手で押さえているとフィーナが歓喜に満ちた声を上げて兜を俺の頭部に叩き込んだ。なんてことを。


「勇者の鎧コンプですよ! これで私もエルフの里に帰れるってもんです!」


「指名手配犯なのに?」


「ぐう……!」


 顔だけ隠れたとはいえ、この勇者の鎧はどうしたらいいんだ。いくら何でも目立ち過ぎじゃないか。


「せめて色とかが変わればなあ」


(カラーリングの変化をご所望ですか?)


「わあ!」


「わあ! 何ですか急に!」


 耳元で直接声がした。なんか自動音声っぽい感じの。


「いや、なんか急に兜から声がしたから……」


「きっと鎧の補助精霊ですよ。五十年前の鎧とはいえ当時の最先端の技術をありったけ注ぎ込みましたからね。人工的に作成した精霊を憑依させています。助けになることもあるでしょう」


「ふーん。じゃあ黒騎士状態はちょっと不味いから全身白くしてくれない?」


(承知しました)


 すると一瞬で黒を基調とした鎧は一瞬で真っ白い鎧に変化した。所々アクセントになっている金の装飾がカッコいい。


「ケントだけずるい……もしや……正義の白騎士として私だけ官憲に突き出す気じゃないでしょうね!?」


「そんなことするわけないだろ。俺だって今回の一件には責任を感じてるんだ。フィーナがこうなってる責任は取るつもりだよ」


「せ……責任!?」


 急にフィーナが視線を逸らす。潜入作戦が怖いのか?


「ええと、心の準備というものが……!」


「そうだな。指名手配犯のまま街に潜入するわけだからなあ。緊張くらいするだろ」


「……」


 フィーナは情緒不安定気味だが、俺たちは殺してしまった領主の次期領主に詫びを入れてあわよくば指名手配を取り下げてもらおうとしていた。


 どうやら次期領主候補筆頭のマルセロという男は金があれば不正だろうが何でも見逃す男だと言うのだ。それもどうかと思うが、これに乗らない手はない。


 故に俺たちはガレセアの街の冒険者ギルドで大物を討伐してその報奨金でマルセロに詫びようという算段だった。


 例によって俺はフィーナをおぶってガレセアの街の入口にある道具屋にまで行き、顔まで隠れるフィーナ用のローブを買う。


「あ、あそこに御触書があります。もう似顔絵まで!」


「どれどれ、似てねー!」


 転移者基本ギフトの「意思疎通」スキルでそこに書いてある字を読む。


「この者たち、べルゼスン領主パスカル殺害犯」


「五十年の時を経て闇に身を踏み外した勇者、アーサー」


「毒沼のエルフ、フィーナ」


 あー、先代勇者の名前ってアーサーって言うんだ。ごめんアーサーさん。


「二つ名が毒沼て」


 俺に関してはアーサーですらないし、鎧の色も変えた。フィーナのことがバレなければ問題ないだろう。意外と楽勝かもしれない。




 俺たちが足を踏み入れた建物は様々な装備をした冒険者たちでごった返している。


「ここが冒険者ギルドかあ……」


 それぞれの装備が統一されていない感じとか、魔術士らしき人からゴリマッチョまでいる感じがいかにも感をかもし出している。ワクワクするなあ。


「どこで誰に見られてるかわかりません。さっさと受付に行きますよ!」


 そうして俺たちは人混みをかき分けて受付嬢の座るカウンターまで向かった。


「一番報奨金のいいのを頼む」


「そうですか。身分証をお見せください」


「……」


 フィーナの方を見るが無言で首を横に振る。そういえばこのエルフ、指名手配犯だった。俺もだけど。


「身分証がなければ依頼は受けられませんが……」


「じゃ、じゃあ依頼を見るだけならいいですか?」


「構いませんが、受注はできませんからね」


 俺たちはボードに貼り出された依頼の紙を眺める。


 どうやらここから気に入った依頼の紙をむしり取っていって受付嬢に受注の意思を表明する仕組みのようだ。


 そしてボードの上の方になると、依頼があってから長らく討伐がされていないのか日焼けした紙が貼り付けられている。


「災害級ランドタートル……報奨金一千万ゼドル」


「一千万ゼドル……!」


 ゼドルというのはこの世界の共通通貨らしい。


 大体の出現位置を確認した俺たちは冒険者ギルドの出張所を去った。なんか受付嬢から不審者がられてるけど知らない。悪いことしてるわけじゃないし。




 ガレセアから少し離れ、荒れ山のある方向へと向かう俺たち。


 フィーナが言うにはランドタートルはそこにいるらしい。


「でも勝手に倒したところで正規の受注じゃないわけだから報奨金はもらえないかもしれないだろ」


「フッフーン! まだまだ甘いですねえ! 依頼を出していたのはガレセアの領主です。しかも先々代くらい前のものでしたねえ。そんな長いこと街を脅かしていたモンスターをパパっと討伐してしまえば多少無理を通してでも報奨金くらいもらえますよ!」


「そういうもんか……で、俺が倒すの?」


 フィーナは呆れたような顔で俺を見る。まあ勇者の装備一式と毒剣EX狩刃(エクスカリバー)を持っている俺がするしかないんだけど。


「で? ランドタートルって何? カメ?」


「え? 見えませんか? 目の前の岩ですよ」


「……」


 俺が今まで山だと思っていたのがランドタートルらしいよ。


 そりゃあ討伐依頼出すよ。暴れでもしたら街が潰滅するし。


 そりゃあ討伐できないよ。岩というか最早山じゃんアレ。


 初のモンスター討伐はどうやらこの巨岩らしい。こういうのってもっと段階を踏んでいくだろ。オークだの、オーガだの。詳しくないけど。


 だがフィーナには秘策があるとか。とりあえずその策を聞いてからどうするか判断してみることにした。

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