第59話 パーティランク昇格?
その日、パーティの空気は最悪だった。
命懸けで稼いだ千二百万ゼドルという大金が一日にして泡と化したからだ。
しかも一人頭きっかり四分の一の三百万ゼドルをそれぞれの責任で失ったので誰かを責めることもできない。
善意で知人の借金を肩代わりしたモニカだけ満足そうだけど。
「あはは……お金なくなっちゃいましたねー」
空笑いするフィーナ。
あははじゃねんじゃ。
いや、俺にも責任の一端があるのでいつものようにフィーナにツッコむことができない。
「まあまあ。マイナスになったわけじゃありませんし。前向きに考えましょう!」
修道院育ちという理由では説明がつかないほど世間知らずなモニカはほわほわと笑顔を浮かべながら言う。
マイナスになってるんだよ。利息があるから。
そう。俺たちはフィーナがガレセアとかいう田舎街にパーティハウスを独断で購入したことへの借金があるのだ。
「……」
エミリーは沈黙を保っている。三人娘の中で一番まともな感性を持っているこのおチビちゃんは自分の責任で三百万ゼドルという大金を失ったことに相当責任を感じているらしい。
魔女の黒いとんがり帽子を深く被ってうつむいているエミリー。
率直に言ってどうしよう。これパーティ解散の危機じゃないか?
その時は負債を全部元凶のフィーナに負わせるつもりで……あれ? フィーナとエルフの里に行って勇者の鎧から解放されるのが当初の目的だったはず。
フィーナはその事実を盾にして地獄まで俺を引きずりまわすだろう。
ということは使うしかないか……アレ。
「みんな、聞いてくれないか。一から魔物を倒して千二百万ゼドルを稼ぐのにはぶっちゃけ無理がある。冒険者稼業は消耗品もバカにならないし、いつ失った分を取り戻せるかわからない。だから……王族にたかる」
「……なるほど。ケントにしては冴えてますね。エリーゼ王女は千二百万ゼドルをポンとくれるような方ですから、ジュリアン王子が『パンドラ』に所属していたネタで強請るということですね?」
「そこまではしないけど……」
お前の方が冴えてるよ。なんだこいつの犯罪の才能は。
「えー? じゃあ何をネタにたかるんです?」
「いくらゴネても流石に追加の千二百万ゼドルをポンとはくれないだろうからな。新しい仕事をもらうんだよ。またデカい仕事になるだろうけど」
「また働くんですかあ!? つい先日まで馬車馬のように働いていたのに!?」
フィーナが嘔吐するジェスチャーをする。五十年もの間、一日働いて三日休んでたとかいうお前には荷が重いだろうよ。
「それしかないだろ。じゃあ王族以上に金払いのいい雇い主のコネでも持ってるのか?」
「ううっ」
フィーナを黙らせることには成功した。あとはモニカとエミリーだけど……。
「王族であれ誰であれ困っている方がいれば助けるべきだと思います。ですが……高潔なエリーゼ王女の手助けができるのであれば、より多くの人々を助けることに繋がると思います。私は賛成です!」
モニカはクリア。エミリーは……?
「……好きにしたらいいじゃない。成り上がりは一旦中止。わたしにだって責任があるわけだからしょうがないわ」
不承不承ながらエミリーの了承を得ることができた。エミリーには悪いけどパーティのランク上げは後回しだ。
というか俺たち「健康剣豪大冒険団」はグルースレーを守り、戦争を防いだパーティだぞ。B10ランクのまま放置ってさあ。冒険者ギルドってあまりにも融通が利かなくないか?
全員の納得を得た俺は荷物から板切れを取り出す。エリーゼに手渡された何の変哲もない長方形の板切れ。
これで俺はエリーゼと意思疎通を取ることができる。
そこに俺は指で「次の仕事はありますか?」となぞる。日本語で通じるかな?
すると板切れにピンク色の文字が浮かび上がる。「あります」と。
やったぜ。最低でも千二百万はもぎ取ってやる。気合い入れていくぞ!
板切れに表示された指示に従い、昨日エリーゼたちと会合したブドウ畑の小屋に向かう。
中には既にエリーゼの副官サイラスと直属の部下ジェラルドがいた。フットワーク軽いな。
サイラスが古びた机の上に置かれた手のひらサイズのガラス玉に手をかざすと、プロジェクターのようにエリーゼの姿が小屋の壁に投影された。
「このような形で失礼します。公務があったものでして」
「いえ、こちらこそ急にすみません」
急な呼び出しにも関わらずエリーゼは上機嫌な様子。何で?
「ふふ。私は嬉しいのです。あなた方がこれほどまでにフェブラウのことを憂いていてくださるとは。今の我が国にはまだ問題が山積みです。それがわかっていて声をかけてくださったのでしょう?」
「……はい! ええと、大体そんな感じです!」
なんかやたらと好印象みたいだし、昨日の報奨金が全部溶けたから声をかけたとか言えないなあ。
「今回もあなた方に頼みたい案件はおそらく『パンドラ』絡みです。しかし『パンドラ』が関与しているという確証もないのです」
どういうことやねん。
「事は隣国ダキスタリアで起きています。転移者狩りの『ヘレシー』を恐れることなく転移者を積極的に要職に登用し、小国でありながらもフェブラウやギュノンに並び立つ中立の国。そこで転移者の失踪が相次いでいるとのことです」
「その調査を俺たちに?」
随分前に聞いたことがある。フィーナからだっけ。転移者でもスキル次第で上り詰められるという国。俺の「健康体」じゃ無理そうだなってその時は思ったけど。
「ええ。ですがあなた方のパーティのランクはB10ランクと聞きました。これでは調査する上で何かと不便があるでしょう」
そうだよなあ。グルースレーでも露骨に舐められたもんなあ。仕事の前にランクを上げろとか言わないよねえ。
「よってあなた方『健康剣豪大冒険団』を私の直属にし、王族特務として特Aランクパーティ並びにそれぞれ特Aランク冒険者に任命します。」
え? そんな簡単にランクアップしていいの?
それまでふさぎこんでいたエミリーの目が輝く。成り上がりできたねえ。よかったねえ。
一方俺はかーなーり責任重大な任務を押し付けられそうで気が沈む。
「私は優秀な人材をみすみす見逃すような真似はしませんから。それに特Aランクともなれば自由に国境を越えることもできるはずです。一応言っておくと王族特務といっても第三王位継承者エリーゼの直属ということをお忘れなく。王位継承の際には存分に働いていただきますからね」
上機嫌なのは新しい手駒が手に入ったからかあ。やだなあ。派閥争いとか。
「報奨金は……そうですね。千五百万ゼドルでどうでしょう。異国での任務であり、それなりに危険も伴うものですから」
「やりまあす!!」
こうして俺たちはダキスタリア共同体という新天地に出向くことになった。




