表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

57/91

第57話 ブドウ畑の王女

「やっと着いた……」


 馬車から降りてガチャガチャと鎧の音を立てて身体を伸ばす俺。対照的に仲間の三人娘はげっそりとした様子。


「うげええええ」


 フィーナが吐いた。えんがちょ。


 いつも思うけどこの世界の旅は強行軍すぎる。


 今回フェブラウ王国の最もギュノン帝国寄り、つまりは東側にあるグルースレーから王国中央に位置するフェブラニアまで馬車で五日かかった。


 五日間休憩を挟みつつ品種改良された馬と、視覚と体力を強化された御者によって昼夜ぶっ通しで走り続けたのだ。


 こういう形の旅は、馬と御者のポテンシャルや実力によって到着までかかる時間が大きく変わってくる。


 その点、ユーステスの手配したこの御者は優秀だった。優秀過ぎた。


 通常なら一週間はかかるという行程を二日も短縮してみせたのだ。御者が習得している馬の強化魔術がとにかくすごかった。もうね、車かと思うくらい。


 早すぎて風情もなにもない旅だったけどね。


 「健康体」スキル持ちの俺以外は馬車酔いと疲労でヘロヘロだ。御者はそんな「健康剣豪大冒険団」の面々にさわやかに手を振りながら元来た方向へ帰っていった。


 それにしてもまだ王都に入ってないってのに活気があるなあ。


 荷を乗せた馬車がしきりに門を出入りしているし、人の行き来も盛んだ。


 王都の正門に続く街道は広く綺麗に舗装されており、グルースレーほどではないが高い城壁に囲まれている。


「うう……モニカ、あれお願い……」


「私もお願いします……」


「ああ、すみません……【治癒】(ヒーリング)


 モニカに馬車酔いを治してもらったエミリーとフィーナはようやく元気を取り戻したようだ。


「旅の方々、ちょっと失礼」


 気が付くと門を守っている兵士たちの一人が俺たちに近づいてくる。


「つつつ罪に問われることはした覚えはありませんけどおお!」


 途端に挙動不審になるフィーナ。前に勇者の鎧を五十年探してたとか言ってたもんなあ。


 前に王都にも来たことがあるんだろう。そして何かやらかしたと。


「ははは、ご冗談を。グルースレーを救った英雄たちにそんな疑いはかけませんよ」


「なんでそのことを……?」


 兵士といえど一介の門番が「パンドラ」騒動で俺たちが活躍したことを知っているのはおかしい。


「私は王女エリーゼ殿下直属のジェラルドと申します。殿下から事情は耳にしています。それでここであなた方がいらっしゃるのをお待ちしていたわけです」


 ああ、エリーゼの部下か。それなら納得だ。そしてほっと胸をなで下ろすフィーナ。なあ、何したわけ?


「殿下の元に案内するように指示を受けています。私の後についてきてください」


 そう言うとジェラルドは門から離れていった。え? 流石に王宮に簡単に出入りできるとは思ってなかったけど。ジェラルドは王城周辺にあるブドウ畑に向かっている。


「なあ。お前が昔何かやらかしたから俺たちまで王都出禁にされたとかじゃないよな?」


「そそそそんなわけないじゃないですかあ。あははは……」


「フィーナさん。誰にだって罪を犯すことはあります。私でよければお話だけでもお聞きしますが……」


 仕事モードに突入するモニカ。そういえば普段メイスを振り回してるけどこの人シスターだった。でもこいつの罪を一から聞いてると日が暮れるぞ。


 そしてどうも最後尾のエミリーが大人しいと思ったらブドウを勝手に食ってる。


 モニカさん。現在進行形で罪を犯している人がいまーす!


 するとジェラルドは農具でもしまっておくような小汚い小屋の前で止まり、俺たちを手招きした。


「こちらに殿下がいらっしゃいます」


 そう言うとジェラルドは小屋の警備に当たった。


 ええ~本当にござるか~?


 建付けの悪い扉を開けると、中にはエリーゼが行儀よく椅子に腰かけていた。以前の姫騎士姿ではなくドレスを身に纏った桃色の髪をした姫君。


 傍らにはいつぞやの副官サイラス。


「よくやってくれました。グルースレーは対帝国の要。そこが落ちたとなれば帝国側の戦意は高揚し最悪の場合戦争にまで発展していたかもしれません。王国の民全てを代表して私から感謝申し上げます」


 エリーゼは立ち上がり深々と礼をする。サイラスも同時に頭を下げた。


「頭を上げてください。俺たちもただ必死に戦っただけですから」


「そうです! 報奨金のために!」


 おいバカ。


 エリーゼの元に一歩前に出たフィーナの両手をモニカとエミリーが引っ張って止める。ナイスコンビネーション。


「ふふ。そうでしたね。報奨金をお受け取りください」


「一人頭三百万ゼドル。計千二百万ゼドルです。お受け取りを」


 小屋の隅に置いてあった金貨袋を俺に次々と手渡すサイラス。おい。一体いくつあるんだ。


「王族からあなた方の口座に預けるのは後々問題になりかねませんので、すみません」


 謝るエリーゼ。まあ元をたどればこの金って国庫から出てるんだろうし、しょうがないね。


 それにしても最前線で勇猛果敢に戦っていたときとはかなりイメージが違うな。


「ケント、重いなら私も手伝いましょうか!?」


「……」


 フィーナの申し出は無視する。かさばるけど勇者の鎧の力でどうにかなる重さだし。


 再びモニカとエミリーが同時にフィーナの両手を抑える。ヘイヘイナイスナイスー!


「でもなんでこんな畑の中で会合を?」


「グルースレーの『パンドラ』内通者を排除できたように、各都市の『パンドラ』内通者が次々と逮捕、拘束されています。しかしジュリアンが『パンドラ』に潜入した際、王宮に内通者は一人もいませんでした。不自然なまでに」


 つまりエリーゼは王宮に隠れた「パンドラ」内通者がいることを疑っているのか。


「王宮内に内通者がいるのかはエリーゼ殿下とジュリアン殿下の直属で調査中です。各地の『パンドラ』勢力が排除された今、あなた方は元の旅をするといい」


 つまりは勇者の鎧解除の旅に出てもいいってコト!?


「じゃあそろそろエルフの里に行きたいなあ」


「やだー!!」


 モニカとエミリーに捕らわれたまま暴れるフィーナを見て上品に笑うエリーゼ。


 笑いごとじゃないんですよこれが。


 暴れるフィーナを尻目に和やかな雰囲気で行われる会合。


 後は無事にこの千二百万ゼドルを銀行に預ければミッションコンプリートだ!


 今のでなんか嫌なフラグが立った気がするなあ。フィーナの動きは三人で徹底マークするぞ。


 まあ俺含め残り三人は大丈夫だろう。多分。


 何もなければ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ