第56話 さらばグルースレー!
部屋の隅の椅子に縛り付けられたアランと結界により意識を鎧から本体へと戻せなくなったリュカ。二人の捕虜を目の前にしてユーステスが状況説明を始める。
「まずはこのアランという『パンドラ』構成員。こいつを身ぐるみ剥がしたらB6ランク冒険者の登録証が出てきた。ケント、この意味がわかるか?」
全然わかんない。アランはこの街の冒険者だったってこと?
でもなんか引っかかるんだよなB6とかいう半端な数字のランクが……うーん。
「ええ……ケント、もう忘れちゃったんですか? 流石にそれはちょっと……猫ちゃんに頭殴られてボケました?」
呆れた顔のフィーナ。
いや、今日はもう一日色々あり過ぎてもう何が何だか。
「グルースレー入りする前に行き倒れていた冒険者ですよ。でもユーステスが身元確認用にギルドの登録証を回収してましたけど、なんで懐からそれが?」
「こいつが持っていたのは『本当のB6ランク冒険者』の登録証だ。名前をベンという。こいつはベンのパーティごと始末した後、ベンの代わりに死んだふりをしていたわけだ。わざわざ心臓まで抉って『パンドラ』の仕業に見せかけてな」
ああ~! サメやら象やらに気を取られてすっかり忘れてた。いたわ。そんな死体。
ユーステスが回収したのはそれを元にした偽造品だったわけだ。
「死んだふりじゃねえよ。本当に死んでたんだぜ。『不死身』スキルは蘇るタイミングも操れるからな」
得意げにスキルの詳細を語るアラン。やっぱバカっぽいよな〜こいつ。
アランは「不死身」以外のスキルを所持していないらしく、縛られるだけの拘束で済んでいる。
「そして『パンドラ』の被害者としてグルースレー内部に運び込まれた後、鎧騒動に紛れて蘇り逃走した。違うか?」
「ああ、そうだぜ!」
刑事ドラマ知識しかないけどこんなに元気よく取り調べを受けるやつを俺は初めて見た。
「それでリュカ。お前が行動を起こしたのはこいつを東門付近に潜伏させる目的だったってことでいいな?」
「……」
結界によって鎧に意識を閉じ込められたリュカは黙秘を貫いている。
「どうして協力者の執政官テオドールを売った? グルースレー首脳部を混乱させるためにもう少し泳がせていてもよかったと思うが」
「……」
リュカの野郎、いつも自分が優位なときはペラペラとしゃべり続けるくせになんかムカつくな〜。
「ならアラン。お前が話せ」
「やだね。俺だって黙秘しちゃうからな! 俺ばっかりゲロってこれじゃあ俺が裏切り者みたいじゃんかよ!」
ユーステスの視線を受けて俺が一歩前に出る。
「なら拷問だ。幸いお前は『不死身』だから毒の分量をケントが間違えて殺してしまっても問題ないわけだ」
「言います!」
現金なやつだな~。
まあ俺も無抵抗の相手を情報を吐くまで毒でいたぶり尽くすのにも抵抗があるし、それでいいんだけど。
「テオドールを売るのは最初から予定に入ってた。内部に裏切り者がいたとなったら緊急で会議なりなんなり開くだろ? そこを狙ったんだよ」
「サメが?」
思わず俺は口を挟んでしまう。だって作戦会議中に突っ込んできたのはサメだったしな。
「天子様だよ。どうやって侵入するかまでは聞いてねえけど、会議中に殴り込んで直接戦線布告するって話だった。目立ちたがりだからな、あの人は」
天子……話の流れからしてエルピスのことか!?
待てよその言葉、確か前にも聞いたことがある。そう「パンドラ」に魔獣の素材を横流ししていた堕印奴隷の使い手、ガレセアの領主ルドルフが死に際に発していた言葉だ。
『ジーク! 私も連れて行け! 天子様への報告義務もある!』
エルピスが「パンドラ」のリーダーだという話は真実だったようだ。
俺の脳内で過去と今日の出来事が繋がったところで突然リュカに異変が起きた。
先ほどまで黙って床に座っていたリュカの鎧が暴れ出したのだ。
「やめろ! やめろ! 僕は何も話していない! 嘘じゃない! まだ僕には利用価値があるはずだ! 僕の『指揮』のスキルだってきっとまだ役に立つ! 待て! やめ、やめてくれ!!」
すると突然鎧が崩れ落ちた。本体に何かあったらしい。おそらくは……。
「あーあー始末されたな。かわいそ」
散々俺たちを翻弄した鎧使いのリュカ。その最後はあまりにも呆気なかった。
同じ境遇なのにどこ吹く風のアラン。俺は思いついた疑問をぶつける。
「お前だって『不死身』のスキルが回収されたら死ぬんじゃないのか。どうして平気なんだ?」
「バーカ。俺が今まで何百回死んだと思ってんだよ。あの無羅魔佐から解放してくれて感謝してくれるくらいだぜ。あいつ、剣の癖に勝手に使い手を殺しやがるからなあ」
その後はユーステスが事務的に尋問を続けた。アランはエルピスの名前も「パンドラ」の神だかを作るという最終目的も知らなかった。
厄介な「不死身」スキルをどうにかしてくれるという約束で働いていたとか。
アランの処遇を考えているのか、フレデリックはそのやり取りを終始黙って聞いていた。
「じゃあ俺たちはこれで。王子と王女にも報告があるので」
「報奨金があるのでー!」
襲撃から三日後、フレデリックに出立の挨拶をする俺たち「健康剣豪大冒険団」の面々。その間は疲れを癒したり、観光をしたりしていた。自分たちが守った街を観光するというのは何だか味わい深かった。
「もっと滞在してくれてもいいのだが、そんなに急ぐのか?」
「こうしてる間にも利息が増えるのでー!」
元気にフィーナが答える。お前、ガレセアのパーティハウスを買うのにどこで金を借りたんだよ。ちゃんと報奨金の千二百万ゼドルで返し切れるんだろうな。
フレデリックは苦笑し「ゼドルでなくて悪いが」と前置きした上で、勲章を授与してくれた。グルースレー市民に与えられる物では最高位のものらしい。
そして城を出てユーステスが手配した馬車に乗り込む俺たち。何故かユーステスは顔を腫らしている。
「いやお前、顔どうした?」
「ガレセアで『パンドラ』の片棒を担いでいたことを父上に正直に話した。ぶん殴られた上でもう冒険者をすることは禁じられたが、そんなもんで済んで意外なくらいだ」
やっぱりお前成長したなあ! 小学生の頃給食で嫌いなレーズンパンを机に隠したらそのことを忘れてカチカチの何かにしたことのある俺とは大違いだ!
そして元「月下の光刃」メンバーが俺たちの見送りに来ている。
「坊主とお嬢ちゃんたち! 達者でな!」
「お前たちいいにんげん。あくしゅ」
「強くなりたかったらまたグルースレーに来てくださ~い。徹底的に鍛えて差し上げますから~」
いやです。でもおかげでEX狩刃の真の力を掴めたことには感謝しないといけないよな。
「じゃあな! ユーステス! ガストン! ヨハンナ! ポコ! 元気でな!」
馬車が走り出し、小さくなっていくユーステスたちに窓から手を振りながら俺は次の目的地を御者に指示する。
目指すは王子ジュリアンと王女エリーゼのいるフェブラウ王都、フェブラニアだ!
これにて「第一章 健康剣豪、異世界に立つ」完結です!
ご拝読ありがとうございました。
まだという方は是非読んでいただけると……!
そして次回からは「第二章 バカと鎧がやってくる」が始まります。
引き続きケントたち「健康剣豪大冒険団」の活躍にご期待ください!
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