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第53話 メテオフォール

 内部から大爆発したピンク色の象キメラの血や肉、臓物やらで俺の鎧はぐちゃぐちゃになった。


 勇者の鎧の浄化機能もロケットパンチで魔力切れを起こし機能していない。


 くっせえしよお。


 同じく全身象の破片まみれになったガストンが手で顔を拭いながらこちらに向かってくる。この人、爆心地にいたんだよなあ。頼むから怒らないでほしいなあ。


「やるなあ坊主! ハハハ!」


 豪快に笑いながら俺の肩を叩くガストン。だが今の俺は機能停止した勇者の鎧の重みに耐えるので精一杯だ。


 よって力強い一撃により倒れた俺は、象の血だまりに顔を突っ込むことになる。


「ゴボボボボボ……」


「おーい、どうした坊主? いくらのどが渇いてもそんなもん飲むもんじゃねえぞ」


 しきりに不思議がるガストン。飲むか。ボケ。


 だが次第に意識がぼやけてくる。まさかこんな死に方があるとは。


 せっかく……象を倒したのに……!


 あと鎧は……さっさと動け……!


 すると突然勇者の鎧の機能が回復する。勢いよく立ち上がる俺。


「ゲボォ! 何すんだよガストン! 死んだらどうすんだ!」


「お前さんは変わり者だから何かそうしたい理由でもあるのかと思ってな……」


 目の前には困惑した血濡れの大男ガストンと汚れ一つないヨハンナが立っていた。


 ヨハンナが象の破片を浴びていないのは、多分爆発前に咄嗟にどこかへ転移して戻ってきたところなのだろう。


「鎧の再起動に魔力をお貸ししました~。ですが先ほどの機転に免じて貸し借りはなしにしましょう。本来はもっと面倒な手順を踏むはずでしたので~」


「ありがとう……本当に……そうだ! 俺、気になってることがあって……」


 象と戦いながら気付いた今日の異様に長い昼についてヨハンナなら何か分かるはずだ。


 だがそれを遮るかのように、上空の結界を攻めていたはずのサメキメラたちが低空飛行で俺たちを取り囲み始めた。


「次から次へだな! いけるか坊主! ヨハンナ!」


 ガストンが斧を構えて臨戦態勢に入ると、無数の光線が空から降り注ぎサメキメラの群れを次々と貫き一網打尽にする。


【流星雨】(スターレイン)


「待て、ヨハンナ。それは夜に効果を増す術式じゃなかったか?」


「だって今は夜ですから~」


 ガストンの問いにヨハンナが答える。


 昼の時間の異変についてヨハンナも気付いていたんだ。


「正確な狙いまではわかりませんが~。キメラの視界の確保。目視によるキメラたちの指揮。突然昼から夜に切り替えることでこちら側の混乱を見込んだことなど色々考えられますね~」


 ヨハンナの見解は珍しく、どれも俺にとってしっくりこない。


 グルースレー一帯の天候を操れるような魔術を行使できるやつの目的が本当にそれだけか……?


「ああ~! アタシのナウマンモス火炎式ちゃんが~! ペガシャークちゃんたちも~!」


 上空から女の甲高い声。破城特別部隊デンジャーズ(覚えた)の仲間か!?


 咄嗟に見上げると翼の生えた白馬……の首が白鳥になっているこれまた独特なキメラに乗った男女のうち女の方がボサボサの黒髪を振り乱して叫んでいる。


 この女がキメラの製造者か。いかにもマッドサイエンティストっぽいな。白衣着てるし。


「落ち着いてくれないかなあ。私が落ちてしまうよ」


「落ち着いてられないよ! アタシの可愛い子どもたちが殺されてるのよ!?」


 転移者か転移者に吹き込まれたのかは知らないがキメラの名前といい、白衣姿といい明らかに向こうの世界の知識を得た「パンドラ」の人間だ。


 そしてその女の後ろにまたがる男は黒い革のコートに身を包んだこれまた俺の世界風の格好。


「亀の兵隊は下がらせていいからね。後は私がやる」


「ああ、トラベロスちゃ~ん!」


 飛び去る女と白鳥の馬、そしてコートの男は既に飛び降りていた。


 あとトラベロスの名前は合ってたんだ。別に嬉しくないけど。


「真打の登場ですね~。何を企んでいるのかは知りませんが、今までの東門と西門の同時襲撃。そして現在進行形の鎧による城内の再攻撃は全て時間稼ぎだったと~」


「どうして私が本命だと思うのか理由を聞いても? レディー?」


「あなたの魔力量、異常ですので~」


 勇者の鎧も革コートの男にアラートを発している。Aランク魔術士のヨハンナをして異常と言わしめるこの男、何者だ?


「そういうあなたも尋常ではない使い手だと思うけどなあ」


「ご謙遜を~」


 ヨハンナとコートの男はお互いに仕掛けることなく言葉を交わす。


 ヨハンナは相手の手を見極めるために。男はおそらく何かの術式発動までの時間を稼ぐために。


「おおおッ!」


 真っ先にガストンが動いた。両手に大斧を一本ずつ持ち革コートの男に飛び掛かる。


「私はクラウス。あなたは?」


「名乗るほどの者ではありませんから~」


 クラウスと名乗った男はガストンを顧みようともしない。そしてガストンは無数の「何か」と斬り合っている。


「かなり高度な自動迎撃術式ですね~。本当にあなたは一体何者なんですか~?」


 ガストンは魔術により生み出された無数の斬撃と打ち合っているのだ。


 女がキメラの死体を見るたびに上空で上げる叫び声によって強制的に俺の意識が目の前の男からキメラたちに割かれる。


 そして連想ゲームのように、毎週動物番組を見ていた俺の記憶が突然蘇った。


 兎も虎も夜行性じゃなかったっけ? サメは知らんけど。


 ならキメラの視界を確保するために昼間を維持するのは理屈に合わないし、急に夜に切り替えて夜襲をかけるというのも魔術によって視界の確保ができるこの世界では有効策とは思えない。


「坊主! お前も加勢してくれ!」


「待ってくれガストン! 何か……何か思いつきそうだ!」


 もしかして、昼とか夜であることに意味はない?


 ならあの男、一体何を隠している……?


 待てよ。隠す? 文字通り奴が何かを隠しているとしたら?


「ヨハンナ、空だ! これは夜を明るくしてるんじゃない! 多分空に何か隠してるんだ!」


「……盲点でした。てっきり夜にしか発動できない魔術の不意打ちかと~」


 ヨハンナが仕込み杖を空にかざす。すると薄皮を一枚剥がしたかのように昼の空が消え、それが隔てていた本物の夜の空が現れた。


「この規模の幻術と禁術クラスの大魔術を展開して平然としていられる魔術士なんて、『魔導大公』フィニスに並ぶ実力なんじゃないかしら~」


「フィニスかあ。昔こてんぱんに負けたよ。懐かしいな」


 俺にはヨハンナとクラウスの会話が頭に入ってこない。上空に月の数十倍に見える大きさの隕石が浮かんでいたからだ。


【大隕石】(メテオフォール)……これでグルースレーを都市ごと吹き飛ばす。死ぬのが怖かったら今から逃げるといい。きっと誰も責めないから」


 クラウスの表情からは余裕も油断もない。若干の哀れみが見えるだけだ。


「ああああああ!」


 気が付くと俺はEX狩刃(エクスカリバー)を抜刀し、クラウスの自動迎撃術式と切り結んでいた。


(この男を止めないとみんな死ぬ……フィーナもモニカもエミリーも。みんな!)


 今は「パンドラ」の目的なんてどうでもいい。俺はただ仲間のために剣を振るった。

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