第51話 大キメラ博覧会 in グルースレー
俺はグルースレーの西門を狙って展開されたキメラの群れに唖然としていた。
大空を舞う翼の生えたサメ。
大地を駆け火を噴く三つ首の虎。
尻から炎をジェット噴射し城門に体当たりするピンク色の象。
後方に陣取るのは頭がウサギな二足歩行の亀の軍勢。
待ってくれ。
変なのが増えてる。
三つ首の虎は……どう考えてもモデルはケルベロスだよな。以降トラベロスと呼称しよう。
尻からの炎の噴射の勢いで城壁を攻める象は……薬でもキメて作ったんじゃないの? なんでピンク色なんだよ。
そして一番数の多い兎頭の亀たちはそれぞれが棍棒などの簡素な武器で武装している。ミュータントなタートルたち。
一瞬気が遠くなりそうになるが「健康体」スキルの力で強制的に現実に引き戻される。少しくらい現実逃避させてくれない?
東門のアランがどうやって忍び込んだのかは知らないが、この西門のキメラの群れは城門の正面突破を狙っているようだ。
城門の守備に当たっていた兵士たちはこの異形の軍勢を見てすぐ引っ込んだのか、トラベロスの餌食になったと思われる死体はない。
先ほど会議室に突っ込んできたサメの群れは城門の上空に見えない壁でもあるかのように突進しては弾かれを繰り返しており、俺は何か魔術的な防壁が展開していることを察した。
城門の上に布陣した魔術士たちがキメラの軍勢に向かって結界越しに次々と魔法攻撃をしているが有効打になっていない気がする。
あんまり言いたくないんだけど……劣勢じゃない?
魔術士たちが放つ火球や光線はサメキメラにひらひらと避けられ、トラベロスを叩こうにも背後には亀人の群れ。そもそも象をどうにかしないと門を開けることもできないじゃないか。
で、Aランクの皆さんはどこに……?
そんなことを考えていると俺は三頭のトラベロスに囲まれていた。九つの頭、十八の目玉が俺を見据える。
EX狩刃。自動迎撃はしばらくやめだ。俺の思う通りに動いてみてくれないか?」
「ちょっとあたしが寝てる間に言うようになったねえ。ダメだと思ったらあたしが動く、いいね?」
もう装備頼りの素人は卒業する。
剣術から学び直すのはまだ難しいが、EX狩刃と勇者の鎧に相応しい実力の男になるんだ。
俺を取り囲んだうちの正面の一頭が最初に動いた。大口を開けた突進。
俺はEX狩刃を突き出す。だが届かない。急ブレーキをかけたトラベロスが後方に回避したからだ。
だがEX狩刃の刀身が伸び、トラベロスの中心の頭が貫かれる。
毒液から生成した紫色の刃を切先から生やしたのだ。
中央の頭を貫かれた哀れなキメラはそのまま毒刃を体内に流し込まれ、左右の頭は泡を吹き死んだ。
「へえ、やるじゃないか」
EX狩刃の驚きの声。だがこれだけじゃない。
「で、次はどうするつもりだい?」
俺から見て右のトラベロスは距離を取ったまま三つの頭から火を噴き、左側のトラベロスは一直線に突っ込んでくる。
(炎か。ぶっつけ本番だけど試してみるか)
「右手首、パージ!」
「何すんだ! このバカ!」
EX狩刃を握ったままの右手の籠手が勢いよく射出される。いわゆるロケットパンチだ。
今までずっと外れない呪いの装備扱いしてたけど、どう見ても魔力が放出される用にしか見えない穴があるんだもんな。やっぱり手首くらいは外せるのか。
放たれた火炎のブレスを突き抜けEX狩刃が勢いのままトラベロスに突き刺さる。崩れ落ちる虎の巨体。
そして接近してきた左側のトラベロスは俺の首筋に喰らい付こうと牙をむき出しにして飛び掛かる。
勇者の鎧を装備している以上大したことないはずだけど、俺が目指すのは完全勝利だ。そんな攻撃は認めない。
俺は左手を迫りくるトラベロスの頭の一つに振り下ろす。
EX狩刃を放り投げ、丸腰のはずの俺の一撃。
だが、俺の左手にはEX狩刃の毒液で形成されたナイフ状の武器が握られていた。
そして毒の効果でぐずぐずに溶けていくトラベロス。
「まあ、こんなところだな」
「『こんなところだな』じゃないだろ!? 元聖剣のあたしを飛び道具扱いしやがって! それに何だそのナイフ!? もう一本の毒剣なんてあたしは認めないぞ! この浮気者!」
EX狩刃はビキニアーマーの守護精霊姿でまくし立てる。
俺は苦笑しながらEX狩刃を握ったままの籠手に右手を向けた。ひとりでに浮遊して戻ってくる右手首の籠手。
「違う違う。一匹目と三匹目、直接毒を流し込んだのに死に方が違う理由はわかるか? ……って熱!」
右手に装着された籠手はトラベロスの放った炎で熱されていて俺は思わず大声を上げる。
「……崩れてるかそうじゃないかだろ? だから何さ?」
「お前の毒を浄化して左手に溜めておいたんだ。キメラ一頭殺すにはお前の毒は過剰すぎるからな。一匹目を最低限の毒でキメラを殺した後、三匹目には残った毒を全部ナイフ状にして叩き込んだ。それと安心しろよEX狩刃、俺はお前を一筋って決めたんだ」
すると突然EX狩刃は褐色の頬を紅潮させて目を背けた。
「お前の癖にムカつく……ムカつくムカつくムカつく!」
どうしたんだ急に。飛び道具扱いしたのは悪かったけどさあ。
そんなやり取りをしているとトラベロスの第二陣が俺たち目がけて駆け寄ってくる。
(流石に自動迎撃は解禁か? なるべく考えながら戦うつもりだけど……)
しかし次の瞬間には迫りくる五頭のトラベロスの全てが死んでいた。
城壁から飛び降りてきたガストンとヨハンナによるものだった。アンタたち本当に人間?
ガストンが両手に握った二本の大斧によって二匹のキメラが両断され、残りの三匹はヨハンナの仕込み杖によって的確に急所を突かれている。
「悪いなあ坊主。ヨハンナがまだ出るなってしつこくってなあ」
「少しはやれるようになりましたね~。及第点です~。剣士なのに毒の扱いばかり上達してもどうかと思いますけどね~」
それもそうだと思いつつ、俺はヨハンナに問いかける。
「Aランクが二人前線に出てきたってことは目的があるんだろ?」
「まあそうなんですけど~。あの巨象を三人で討ちます。毒が効くなんて甘い考えは捨てることです~。まあ、実践形式の修行だとでも思ってくださ~い」
マジかよ。
頭がおかしいのかこいつ。早く俺をみんなのところに戻して。
そして雨あられと放たれる魔法攻撃をものともしないピンクの象。
本当にこいつ一体で済むんだよね? 二号、三号と投入されてこないよね?
「象さんを、増産……」
無意識に発した言葉から、俺はこの長い一日で精神が限界に達したのを悟った。




