第50話 目覚め
十回目の攻撃。敵の霊剣使いアランは俺の切り込みを無羅魔佐で受け止め、その刀に取り込んだ命を魔力として放出する。
吹き飛ばされた俺は着地と同時に手にしたEX狩刃を足元に突き立て、石畳を毒液で溶かしながら勢いを殺す。
最初に身に付いたのはEX狩刃の毒液のコントロールだった。元々敵に合わせて毒の量を調節する戦い方をしていたこともあって習得するのは容易だった。
「いってえなクッソ……いつになったら諦めるつもりだ? あの毒野郎」
「お前が死ぬまでかな」
「だから俺は『不死身』だっつってんだろーが! わかんねーかなあ!?」
アランは苛立っている。無羅魔佐の飛ぶ斬撃は勇者の鎧を装備した俺には決定打にならない。かといって俺の毒攻撃も「不死身」スキル保持者のアランに痛みを与えるだけだ。こちらも決め手に欠ける。
ただ俺も無為に攻撃を繰り返してるわけじゃない。
八回目、九回目の攻撃はアランに連続で直接攻撃を叩き込むことができたし、ついさっきの攻撃では無羅魔佐の刀身に毒を纏わせ霊剣そのものへの攻撃も試みることができた。
結果はアランの右手が溶けただけに過ぎなかったけど。
「おい、四回だぞ? もうお前に四回も殺されてるんだぜ? 普通に生きてりゃ一回で済む苦痛を四回もだ。しかも毒で。耐性とかできないのかよ! ムカつくぜ」
右腕の毒に侵され腐った部分を無羅魔佐で切断し、右手を再生させたアランは俺への怒りを露わにする。
「貴重な体験じゃないか。さっさと帰ってお仲間に自慢してきたらどうだ? 『いっぱい殺されて、めちゃくちゃ辛かったんです』ってな!」
「ほざけ!」
再びアランの飛ぶ斬撃。大振りの予備動作から発動を予測して防御の姿勢に入る。俺が下手に避けると周囲の兵士にどんな被害が出るかわからない。
(損傷拡大。次の一撃で許容ダメージを上回ります)
勇者の鎧に宿る人工精霊の声が聞こえる。
アランと俺。不死身スキルと勇者の鎧による加護。
一件勝負のつかない組み合わせに見えるが、死ねば死ぬほど自らの命を無羅魔佐に吸わせて一撃を強化してくるアランに優位性がある。
対して俺は毒による攻撃で攻め切るしかない。でもこれ以上殺すと俺では防ぎ切れない斬撃が来る。
現状は圧倒的不利。
「そろそろだな……」
「もう諦める気かよ? 俺を死ぬほど死なすんじゃなかったのか? ああ、そういえば昔アリウスとかいう大鎌使いにやられたときは最悪だったな。全身バラバラにされて再生まで五日かかった……でも死ぬほど殺すってそういうことだぜ」
勝ち誇るアラン。そう、そろそろ幕引きの時間だ。お前にとってのな。
「EX狩刃。本当はもう起きてるんだろ?」
「……何さ? 結局あたしの力が無いと何もできないって?」
EX狩刃は守護精霊としての姿を現さない。俺の一方的なやられぶりに失望しているのだろうか。
「そうじゃない。力は貸してもらうが全部俺主導でやる。見とけよ」
「へえ。言うじゃないか。使い手は不死身、霊剣は悪名高い『妖刀』無羅魔佐。どう出る?」
既にアランは無羅魔佐を振りかぶり斬撃を放とうと構えている。
「くたばれ!」
振り下ろされた無羅魔佐は斬撃を放つことなく、アランの両手首が霊剣を握ったまま石畳に落下した。
「なんだこりゃああ! 再生しろ! クソッ!」
だが今までのように両手首が再生することはない。取り落とした無羅魔佐を指を失った腕で掴もうともがくアラン。無羅魔佐の黒ずくめの守護精霊がかぶりを振る。
「……どういうことか説明しておくれよ」
EX狩刃が困惑したように問いかける。
「イメージだよ。今までの斬り合いであいつに毒は致死性で痛いものだというイメージを植え付けた。そして猛毒をぶち込むと同時に無痛で、身体を腐食させる毒も打ち込んでおいたんだ」
「どうやってさ? あたしの毒はそんな器用な真似のできるものじゃないってことはあんたが一番知ってるだろう?」
俺は勇者の鎧の籠手を見つめる。
「勇者の鎧に浄化作用があるのは覚えてるか? この鎧が毒沼に五十年も放置されて元の機能を維持できてたのはそのおかげだ」
「まさか……あたしの毒を浄化したっていうのかい?」
「ああ。お前の毒を薄めて身体を腐らせるだけの毒にまで弱体化させた。それでも十分怖いけどな。ただ、俺の修行次第では目的に応じた毒に変換することだってできるはずだ」
剣技ではなく毒の効果で敵を無力化した俺に対しEX狩刃は少し呆れ気味な様子。でも今まで勇者の鎧のことも、EX狩刃のことも理解していなかった俺にとってこれは大きな前進だと思う。
不死身の剣士アランの元に俺は歩み寄る。
殺せば殺すほど強くなる敵なら生かさず殺さずだ。
奴はさっき毒で汚染された部分まで腕を切り落とし、右手を再生させていた。
なら元凶の毒が残っている状態なら再生はできないはずだと俺は考えたわけだ。
「クッソオオオオ!」
「こっから先は死ぬより酷いぜ」
俺は肉体を腐食させる毒をアランに注ぎ込んだ。
俺は身体の腐り果てたアランを引きずりながら東門を兵士たちに任せて撤収しようとする。四肢を破壊するように打ち込んだ毒によりアランはされるがままだ。
宣言通りの「死ぬほど殺す」というほどではないが、生きながら死んでるようなもんだし及第点ってところか?
この毒、こんなトンチキ相手にしか使いたくないけどな。
(やっと済みましたか~? 至急西門に合流してくださ~い。絶賛猛攻撃を受けているので~。その腐肉はしかるべき場所に転送しますのでお気になさらず~)
ヨハンナによる念話。突然目の前にワープホールが開かれる。
不死身のこいつで時間を稼いでいるうちに正反対の西門を叩くのがなんとかデンジャーズの本命だったわけだ。
アランを先に投げ込んだ後、勢いよくワープホールに飛び込む。
だが、その先に広がるのは想像を絶する光景だった。
多分覚悟が足りなかった。
西門の上空をサメキメラが縦横無尽に舞い、三つ首の虎が駆け回りながら火を噴く。
もうサメキメラはいいや。さっき見たし。
三つ首の虎。これはケルベロスのつもりか? 俺の知ってるのと違う。いや本物見たことないけど。
そして極めつけはケツから炎をジェット噴射したピンク色の象。
そんなB級映画の産物が城門に激しく牙をぶつけている。
何すかこれ。めまいがする。
トンチキを超えたトンチキがグルースレーを襲っている。
不死身の剣士の方がまだ理解の範疇だったんですけどお。




